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クラスごと集団転移しましたが、一番強い俺は最弱の商人に偽装中です。  作者: かわち乃梵天丸
第一部 クラスごと集団転移しましたが、一番強い俺は最弱ランクの商人に偽装しました。
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エリザベスへのご褒美 *

 リバイアサンである人魚のセーレが仲間になってから、どうなったかと言うと……。


 ミドリアにコキ使われていた。


「さあ、下僕(げぼく)よ! 私の命令を聞きなさい! 黒鮫を取ってくるのです!」


「黒鮫なんて、もうこの辺りにはいないですよ。わたしがリバイアサンの姿をしていたのでみんな逃げていってしまいました」


「そう? 取ってこれないのね?」


「無理です」


「じゃあ10分後には私の呪いで浮力が0になってあなたは溺れ死ぬわね。リバイアサンが海で溺死とか笑えるわ」


「ひっ!」


「もう時間無いわよ? 残り9分ね。取ってきたら呪いをリセットしてあげるわ!」


「と、取ってきます!」


 引きつった顔をしたセーレは凄まじいスピードでバタ足をして沖へと戻っていった。


 8分後ゼーゼーと息を切らしながらマグロを抱えたセーレが港に戻って来た。


 よっぽど急いでたのか息絶え絶えで溺れそう。


「取って来たよ。呪いを解いて!」


「お疲れ。呪いをリセットしたわ」


「ありがとうございます。それでは帰ります。失礼いたします」


 残った力を振り絞りながら、よろよろと沖へと戻るセーレ。


 そこにミドリアの容赦ない言葉が掛かる。


「15分後にはまた浮力が0になるから溺れないようにね」


「えっ!? 呪いを解除してくれたんじゃないの?」


「何言ってるの? 解除なんてしてないですわ。残り時間をリセットしただけですわ」


「この鬼畜!」


「鬼畜とはいい言葉ですわ! 罵られると背筋がゾクゾクしますわー。さあリセットして欲しくば黒鮫を再び取って来るのです!」


「ばかばかばか! 黒鮫取ってくればいいんでしょ! 取ってくるわよ!」


 セーレは呪いの言葉を吐き泣きながらバタ足で沖へと戻っていった。


「ミドリア。お前、結構酷い奴だな」


「我が君からのお誉めの言葉最高です!」


「あんまりコキ使って死なれても困るから昼前にはちゃんと呪いを解除してやれよ」


「解りました。それまでに二度と逆らえないように調教しておきますわ」


 ミドリアに脅されたセーレは昼前まで港と沖を何度も何度も往復させられてマグロを取り続けさせられた。


 まるで鵜飼の鵜の様で少し憐れみを感じる。


「こ、これでいいですか?」


「お疲れ様。黒鮫取りは終わりですわ」


「じゃあ、呪いを解除してください」


「はい、解除したわ」


「では、失礼いたします」


 ミドリアにこれ以上関わったらヤバいと察したのか、猛スピードのバタ足で沖へと戻るセーレ。


 その背中にまたまたミドリアから声が掛かった。


「あー、そんなに私から離れると、足が吊って溺れますよ?」


「もしかして?」


「そのもしかしてですわよ。私から離れると足がつる呪いを掛けました。溺れないように気を付けて帰って下さいね」


「あーん! ばかばかばか! この鬼! この鬼畜!」


「あー、いい響きの言葉! 最高のご馳走の言葉! 罵られると背筋がゾクゾクしますわ!」


 結局セーレは解放される事なく俺達と行動を共にする事になった。

 

 *

 

 昼前にミドリアの転移魔法陣で王都に移動。


 ロココさんはミドリアの作り出した転移魔法陣を見て呆然としてたが「魔王だからな、そりゃな」と独り言を言って納得してた。


 既に食堂ではマグロが手に入らないと思った店主のシェリーさんがシチューを作っていた。


 毎度の酷いの食い合わせだ。


「あら? マグロが手に入ったの?」


 シェリーさんにドヤ顔でロココさんが答えた。


「手に入ったぞ! ワサビも醤油も大量に手に入ったから当分は出せるな」


「それは良かった! 今日はマグロは無いと説明してるのに、お客さん達がお店の前に並んでて困ってたんですよ」


 額の汗の粒を拭きながらシェリーさんがほっとした顔をする。


 俺達がマグロを持って来た事でお客さんを捌けると一安心したようだ。


「そうか。じゃあ、早速調理するぞ。タカヤマ、悪いんだが開店時間まで間が無くて人手が足りないから魔王さん達にも手伝って貰いたいんだが、いいか?」


「はい。どうぞ。魔王達を好きに使って下さい」


「タカヤマ! なぜわらわが人間共の手伝いをしないといけない!」


「そうですわ、我が君! 人間の手伝い等したくありません!」


 まあ、魔王なら人間の指示なんて従いたくないのは当然だな。


 そういえばロココはドワーフだったな。


 魔王からしたら人間もドワーフも大した違いは無いか。


 ここはハッキリと主従関係を覚えて貰った方がいいな。


「ロココさんは俺の師匠だから、親みたいなものだ。その親のロココさんのいう事が聞けないと言うのならば、お前たちは俺の、」


 軽く説教の言葉を吐くと、俺の言葉を遮って二人は手伝いをすると必死になる。


 まあ解ってた事だ。こいつらは惚れた俺の言葉なら何でも聞く。


「聞く、聞くぞ! わらわは何をやればいい?」


「私も我が君の師匠様のご命令なら我が君の言葉と思って何でもいたします!」


 それを聞いたロココさんが安心して指示を始める。


「悪いんだけどマグロの捌きと盛り付けを手伝ってほしい。タカヤマは加工の終わったマグロ切り身のバケツと、盛り付け終わった後の皿の収納を頼む」


「盛り付けはわらわがする!」


「私も盛り付けを!」


 ミドリアも盛り付けに立候補したが、ロココさんが断った。


「悪い。盛り付けは私もするから空きが1人だけなんだ。盛り付けはエリザベスさんと私で、マグロの加工をミドリアさん、セーレさんで頼みます」


「ぐぬぬぬ! 我が君に盛り付けた皿を手渡しする役目をしたかったのに! ぐぬぬぬ!」


「手渡すと言っても調理台に置くだけだから。手渡しとか無いから」


「そうなのですか」


「くー! 残念」


「おし! じゃあ、みんなにやる事を教えるから、頑張ってくれな! 後で必ずこの借りを返すから頑張ってくれ」


「貸しですと!? な、なんか私やる気が出てきましたわ!」


「わらわもやる気出て来た!」


 一通り作業内容を教えるとみんな器用に作業をする。


 超高スペックな魔王さん達だけは有る。


 一度教えただけで俺よりも器用に包丁を操りマグロを捌くミドリアとセーレ。


 意外にもミドリアとセーレは調理が得意だった。


 二人は物凄いライバル意識を燃やしていた。


「なかなかやるわね、セーレ!」


「私も負けませんよ! 勝ったら呪い解除してもらいますからね!」


「ふふふ、私に勝てたなら考えてあげましょう!」


「その言葉に二言は無いでしょうね?」


「魔王たるもの二言は無いですわ」


 変にライバル心を燃え上がらせる二人。


 変なオーラが二人の間でぶつかり合っていた。


 そのせいかあっという間にマグロの切り身が出来上がり、バケツに積み上がる。


 それを俺は収納にしまいつつ、皿に乗ったマグロも収納にしまう。


 ロココさんはバケツからマグロを取り出すとさらに綺麗に並べ小皿にワサビと醤油を添える。


 ロココさんの盛り付けを真似してエリザベスも盛り付けをする。


 すぐにコツをつかんで上手くなり5分もするとロココさんが盛り付けたのかエリザベスが盛り付けたのか解らなくなるぐらい綺麗に盛り付けた。


 伊達にハイスペックな訳じゃない様だ。


 すぐに準備を終えて席に客を座らせる。


 事前にマグロは出ないと聞いていたので、客たちは大喜びだった!


「今日もマグロ出るんだってよ!」「やっと噂のマグロが食えるよ!」「思ってたよりも綺麗な色なんだな!」「まるで宝石が並んでるみたいだ!」


 見た感想だけじゃなく食べた感想もちらほら聞こえ始める。


「うめー! これがマグロか!」「口の中でとろける―!」「この緑のが最高のスパイスだな!」


 今日もマグロは大好評だった。


 閉店時間になるといつもの様に賄いを食べる。


 今日はマグロの刺身が賄いだった。


「何度食べてもこのマグロはウマいな。わざわざわらわが東方まで行ってワサビを買いに行ったかいが有ったな」


「色々と苦労したかいがあって今日のマグロは最高ですわね」


「黒鮫って海で時々食べてたけど、こういう感じに調理するとこんなに美味しくなるんですね。しらなかったです」


 顔を綻ばせて賄いを取る魔王達にロココが頭を下げる。


「今日のマグロはみんなが手伝ってくれたおかげで出せた。本当に感謝している。ありがとう」


「我が君の師匠様なので手伝って当然ですわ」


 エリザベスもセーレもマグロを頬張りながらうなずいた。


 *

 

 そして日が暮れた今、キャンプ地の家に戻った俺はエリザベスとベッド共にしていた。


「さあ、タカヤマ! 今日一日頑張ったご褒美に、わ、わらわと、こ、子作りして貰うぞ!」


「しない。しないから。今日は添い寝だけだ」


「なんでなんだ?」


「前にも言ったけど、俺、尻尾見るとダメなんだわ」


「切り落とせばいいのか?」


「それもダメだっていったろ?」


「ならどうすればいいんだよ?」


「セーレ並みに人化の精度を上げて尻尾を無くして完全に人間に化けてくれれば子作りしない事もない」


「完全に人間に化けられれば子作りしてくれるのか?」


「ああ、毎晩腰が抜けるまで抱いてやるぞ!」


「毎晩!してくれるのか!」


「おうよ!」


「する! するぞ!」


 エリザベスのステータスを鑑定する。


 人化はレベル30だった。


 人化としてはまだまだ雑なレベルだな。


 これがレベル100になれば人間と見分けのつかないレベルになる。


 もう少し頑張って貰いたいものだ。


 それまでは生理的に抱けない。


 とは言ったものの今日は皆色々してくれたので俺が頑張ってご奉仕したいと思う。


「さ、添い寝するぞ」


「添い寝してくれるのか?」


「お前のおかげでワサビと醤油が手に入ったし、馬車の道中では盗賊も退治してくれたしな。色々頑張ってくれたお礼だ」


 俺が頭を撫ぜてやると「くーっ」とうめき声を出しながら顔を真っ赤にする。


 結構可愛い奴。


 俺の腕枕にエリザベスを寝かす。


「どうだ? 腕枕は? 人間の恋人同士でよくやる愛の仕草なんだ」


「わ、悪くないぞ!」


「俺も悪くないな。エリザベス可愛いし」


「可愛いだと! う、嬉しすぎるぞ!」


「最初は強引過ぎるから正直好きでも何でもなかったんだが、こうして一緒に過ごしてるとお前のいい所も色々と見えて来てな」


「私のどんなとこがいいんだ?」


「俺の言ったことをちゃんと守ってくれてるとことか好きだぞ。一言でいえば素直とか従順だな。人間を殺すなと言えば殺さないし、暴れるなと言えば暴れないし、ちゃんと守ってくれるとこが好きだ」


「大好きなタカヤマが言う事だから、わらわは守ってる」


「なあ、エリザベス。逆に聞きたいんだがお前は俺のどこが好きなんだ?」


「強いとこだ! 女は強い男に惹かれるものなんだ」


「でも俺はドラゴンじゃないだろ? それでも惹かれるものなのか?」


「ドラゴンは強い物に惹かれるんだ。それにドラゴンはわらわしかもう居ないから……」


「何かあったのか?」


「何が有ったのかは解らない。ある日魔王城から忽然とドラゴンが消えた。城だけを残しわらわ以外のドラゴンが消えたんだ」


「それは勇者に倒された、とかか?」


「いや、勇者との戦いなら一瞬で終わる訳がない。ドラゴンは一瞬で勇者に倒されるほど弱くは無いからな。わらわが北の地で用事を済ませて城に戻ったら誰も居なくなっていたんだ」


「気になる話だな」


「今のわらわには親も仲間も居ない。頼れるのはタカヤマだけだ。だからわらわを抱いて妻にしてほしい。そしてわらわと共に王城の復興をして欲しい」


「事情は解った。事情は分かったんだが、俺はどうしても尻尾を見てしまうと子作りは出来なくてな。だからこれで我慢してくれ」


 俺はエリザベスを抱きしめる。


 ギュッと肩を抱きしめ唇を重ねた。


「うんく!」


 エリザベスの唇から息を飲むような声が聞こえた。


 エリザベスも俺の肩を飽き締めてくる。


 熱い抱擁だった。

 

 *

 

 翌朝、エリザベスは上機嫌だった。


「タカヤマ! 昨日は良かったぞ」


「お、おう」


 そこに聞こえる死にそうなミドリアの声。


「我が君~」


「ミドリアどうした? 元気ないな」


「なんで妻であるわたくしにさえした事もないような熱い抱擁をエリザベスにするのです?」


「お前にも、そのうちしてやるから」


 鼻をフンフンと鳴らして勝ち誇った表情をするエリザベス。


「一週間はわらわのタカヤマだからな。この間に必ず子作りしてみせる!」


「いや、尻尾が……」


「人化なぞ、この一週間のうちにマスターしてみせる!」


「そんな簡単に人化って覚えられるものなのか?」


「大丈夫だ。幸い、手本がここにある」


「手本?」


 エリザベスは人差し指をビシッ!と突き立てる。


 その指が指し示したのは人魚の少女だ。


「セーレだ!」


「ひっ!」


「お前から人化のコツを手に入れてみせる!」


「わたし、そんなコツなんて持って無くて、何にも教えられないですよ?」


「拷問でも何でもして聞き出してみる!」


「ひっ!」


 人魚の少女は顔面蒼白に。


 今にも気を失いそうな顔をした。

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