底辺のBランクグループ2 *
隅田の所属するBランクグループは相変わらず上手く回って無かった。原因は解ってる。
『俺以外の全員がクズなんだ』
隅田はそう言い切る。
まず何がダメかと言うと回復役の聖女の青森だ。
青森はすぐにMPが尽きる。
そのせいで肝心な時に回復が出来ない。
俺が敵に【ラッシュアタック】スキルを使い連撃を決め一気に敵のHPを削ろうとしている一番大事な稼ぎ時の最中にMP切れを起こす。
俺が連撃で敵のHPを大きく削り稼いでしまったヘイトの為攻撃を受けまくる。
だが、回復魔法は飛んでこない。
折角の敵のHPを大きく削るチャンスなのに!
せっかくの攻撃のチャンスを潰しやがって!
死にそうになり俺はやむなく後ろに下がる。
そんな事が何度もあった。
荒川もダメだ。
削り役の戦士の癖に攻撃がショボい。
だから、盾役もやっている。
それは解る。
でも攻撃が弱い時点で盾役としては向いて無い事に気がついていない。
弱い攻撃で敵へのヘイトが稼げないので、俺が連撃をかましただけで俺に敵のターゲットがやってくる。
ターゲットとなった俺をかばおうともしないクズだ。
仕方ないので俺自ら荒川の背後へと移動する。
これで奴も盾役をやらざるを得ない。
秋田は最悪。
戦闘の開始直後に数発だけ強化魔法を撃ったら、あとは魔法を撃ちもせずにリーダーの俺を差し置いて青森と荒川に指示を出してるだけ。
しかも指示内容が防御ばかりで攻撃の指示を殆どしない。
攻撃しないと敵はいつまで経っても倒せねーんだよ!
はあ、マジウザ!
ほんと使えない奴等だ!
それにしても参ったな。
騎士が抜けてから全然稼げてない。
あれから五つしかレベルが上がっていないしな。
ずっとダンジョンの入り口近くの層でレベリング。
これじゃ稼げるわけがない。
他のグループはかなり深い層まで潜ってるらしいしな。
経験値が詰まりまくった敵を倒しまくってるらしい。
差がますます開くだけ。
Cランクグループとさえ大きく差を開かれてしまった。
唯一の希望と言えばDランクのグループが居る事ぐらいだな。
あいつらが居るうちはビリになる事はないが、Dランクグループの奴らはこの前トラップに引っ掛かって全滅したグループの奴等みたいにいつ死に戻りするか解らないから油断は出来ない。
早くレベルを上げて、底辺を脱出しないとな!
異世界に来てまでクラスの底辺とかやってられないぜ!
俺はクズな奴等に足を引っ張られずに、俺一人の判断で動くことにした。
俺さえ強くなればこのカスの集まりのパーティーでもなんとか稼げるようになる!
俺は一人でレベルを上げる事を心に決めた!
俺はお前らとは無関係で好きにやらせてもらうぜ。
「悪いが、しばらくこのグループを抜けて一人で行動させてもらう!」
「おい! 隅田! 一人で行動って、お前何考えてるんだよ!」
「このグループは一人一人のダメなとこが互いに足を引っ張り合って全然うまく回ってない。このままじゃ全然稼げなくてダメだと思うんだ。でも俺さえ強くなれればこの悪循環の連鎖から抜け出せ稼げるようになるはずだ。だからしばらく俺は一人で行動する!」
「おい、隅田! 考え直せよ! 僧侶無しで回復はどうするんだよ! お前死ぬぞ!」
「大丈夫。回復はアイテムバッグの中にポーションをタップリ持ってるからそれでどうにかなる!」
「でもさ、」
「悪いが決めた事なんだ。すまん!」
隅田はそれだけ言うと走り去って、パーティーから抜けた。
*
荒川のグループは比較的弱い敵のカニを相手に戦い、パーティーでの指示を続けていた。
この敵は確かに弱い。
さらに言うと経験値も低かった。
なぜこんな弱い敵を倒しているのか?
なぜならば隅田がレベル上げグループを抜けてしまい、勝手に一人でレベル上げを始めたので3人グループになってしまったからだ。
攻撃力の弱い隅田だったが居ないよりはいた方がマシだった。
今は攻撃職は盾役をしながら攻撃をしている荒川だけになってしまった。
強化魔導の秋田が前線に出て隅田の攻撃役の穴を埋めようとしたが、秋田に支給されている防具が後衛用で防御力に不安が有るため、無理に前線に出ずに【解析】スキルの先読みを用いた敵の行動予測に徹してくれとの意見が有り、それに従う事にした。
このカニは攻撃力がやたら低いので全滅の心配が無かった。
その低い攻撃力と引き換えにやたら防御力が高かったので倒すのに5分ほど掛かり経験値的にはあまりおいしい敵だとは言えなかった。
そんな時、秋田は心の中でおかしなメッセージを心の中で耳にした。
『敵シェルクラブの技【シェルガード】を解析しました。【シェルガード】を覚えました』
「【解析】? シェルガード? なにか覚えたのかな?」
「ん? どうしたの? 秋田さん?」
「今ね【シェルガード】って技を【解析】で覚えたみたい。なんか心の中でスキル取得の声が聞こえたの」
「へー、凄いね。使ってみてよ」
「うん。【シェルガード】!」
何も起こらなかった。
「【シェルガード】! 【シェルガード】! 【シェルガード】!」
「あれ? 何にも起きないね」
「うん。これどうやって使えばいいんだろ?」
「鑑定してみるね。【鑑定】!」
青森が困った顔をする。
「どうだった?」
「何にも覚えてないみたい」
「嘘でしょ!?」
鑑定の結果、シェルガードと言うスキルはどこにも覚えてなかった。
その顔を見た秋田が心配そうに聞いてくる。
「シェルガードって言うスキルは覚えてないみたい」
「そっか、聞き間違えだったのかな? 何か技を覚えたみたいだからみんなの役に立つかと思ったんだけどね」
「わたしの鑑定だとレベルが低いから詳しく見れなかっただけなのかも。終礼の時に鑑定を使える神官さんにもう一度鑑定して貰ったらいいんじゃないかな?」
「そうだね。そうする」
その後も秋田は戦闘中に敵が使った様々な技を覚える。
覚えたスキルの数は13にも上った。
だがそのスキルは青森の鑑定では何一つとして覚えてる様には見えなかった。
「うーん、覚えたってちゃんと言われたんだよね?」
「間違いないと思う」
「どうなってるんだろうね?」
終礼で大聖堂に戻り、神官さんに詳しく鑑定して貰う。
すると神官は疑いの眼差しを向けてくる。
「そんなスキルの名前は聞いた事ないし、覚えても無いようですが?」
「嘘!?」
解析は役に立たないスキルだった。
だが、その二日後大きな変化が訪れた。
『スキル【解析】が【析出】に変わりました。【析出】スキルを使いますか?』
「【解析】スキルが【析出】に変わった!【析出】って聞いた事無い言葉なんだけど、なんだろう?」
「秋田ちゃん、【鑑定】してみていい?」
「うん。おねがい」
「【解析】結果を【析出】します、だって。なに言ってるか解らないね」
「使って大丈夫かな?」
「使うべきだね!」
「じゃあ、使ってみる」
『【析出】します。スキルを選んでください』
ずらっと出てくるスキルリスト。
今まで解析で覚えた筈だけど覚えてなかったスキルがここに出て来た。
一番最初に覚えたスキル、【シェルガード】を使ってみる事に。
【シェルガード】を選択した。
『誰に使いますか?』
「誰に使いますか?って出た!」
「わたしに使ってみて!」
「いや、危ないかもしれないし……私に使ってみるよ」
「いや、僕に使ってみなよ」
声を掛けて来たのは荒川君だった。
最近の荒川君は結構頼もしい。
向こうの世界で隅田とつるんでる時は、存在感ゼロで金魚のフンみたいについてるだけの空気みたいなイメージしか無かったんだけどな。
こっちの世界に来てからは男らしくて頼もしい。
そんな事を考えていた秋田であった。
「いいの?」
「僕は戦士だから多少の攻撃は受けても大丈夫だし。それに役立たずだから、実験台にでも使ってくれたらみんなの役に立てるから本望さ!」
「でも……」
「お願いしちゃいなさいよ。万一の場合、私が荒川君を回復すれば済むだけの話だし」
「そうだ! 一思いにやってくれ!」
「それって、刺し殺される敵のセリフにしか聞こえないんだけど?」
「あははは、そうか? でも、覚悟は決めてるから!」
「わかった……怪我したらごめんね」
斧を構える荒川。秋田がスキルを使うと、荒川が薄緑に僅かに光る。
なにもダメージは無かった。そしてなにも起こらなかった。
「なにも起きなかったが?」
「攻撃スキルじゃないのかな?」
その時、秋田の心の中で声が聞こえた
『シェルガードを【析出】。詠唱者のLVを一つ捧げ、対象者の【防御力】パラメーターVITが10上昇しました』
「防御力が一〇上がったって!」
「防御力が一〇も上がったのか!?」
「うん!」
「【析出】すごーい!」
「【析出】凄いな!」
これがパーティーの快進撃の始まり、そして高山でさえ持ってないスキルを取得した瞬間だった。
それも使い方によってはかなり凶悪となるスキルを。
*
秋田は持っている13のスキルを次々と【析出】させていく。
「【ブラッドクロウ】、これはどんな技だっけ?」
「何だったけっな? 名前からしてコウモリの攻撃かな? 確かあいつ、食いついてきて血を吸ったから」
「じゃあ、攻撃パラメーターが上がると思うから荒川君向けかな? 【析出】していい?」
「おう! 頼む」
「【析出】【ブラッドクロウ】」
荒川が薄緑に僅かに光る。
『ブラッドクロウを析出。詠唱者のLVを一つ捧げ、対象者の【攻撃力】パラメーターSTRが10上昇しました』
「攻撃力が一〇上がったって!」
「攻撃が一〇もか! 【析出】凄いな!」
「【析出】すごーい!」
次々とスキルを【析出】する秋田。【析出】には二つのパターンが有った。一つはパラメーターが上がるもの。
STRやVITとかのステータスが上がるもので、たいていの場合攻撃系や防御系のスキルを【析出】した時にステータスに付加される事が多い感じだ。
もう一つはスキルが付くもの。補助系スキルを【析出】した場合、スキルが付くことが多い。
「スキルが付くなんて凄いね!」
「スキルを作れるなんて凄いよ!」
「えへへ。どうもー」
ただ、困ったことが有った。
5個以上スキルを付けると、それまで付いていたスキルが上書きされて消えてしまうのだ。
消すスキルは選べるものの、消してしまっていいのか悩む。
荒川君と青森さんは消しても気にするなと言う。
「俺のスキルはゴミみたいなスキルばっかりだから、【通訳】以外は消しちゃっていいよ」
「私も【鑑定】と【通訳】を残してくれれば後は秋田ちゃんの好きなスキルを入れてくれればいいから」
元々の荒川君のスキルはこうだった。
──────────
ユニークスキル:【高速詠唱】LV1
スキル:【毒耐性】LV3
【通訳】LV7
──────────
それにスキルがいくつか追加れて今はこう。
──────────
ユニークスキル:【高速詠唱】LV1
スキル:【毒耐性】LV3
【麻痺耐性】LV1
【攻撃力増強】LV1
【防御力増強】LV1
【通訳】LV7
──────────
ここに今出た【武器練度増強】を入れる事になる。【毒】と【麻痺】の耐性のどっちを消した方がいいんだろう?
「【毒耐性】LV3と【麻痺耐性】LV1のどっちを消した方がいい?」
「どっちでもいいよ! どうせ新しいスキルが出たらそこに上書きするんだから」
「じゃあ、レベルの低い麻痺耐性を消すね」
「おう、よろしく!」
『スキルスロットから【麻痺耐性】LV1を消し、【武器練度増強】LV1に変えます』
──────────
ユニークスキル:【高速詠唱】LV1
スキル:【毒耐性】LV3
【武器練度増強】LV1
【攻撃力増強】LV1
【防御力増強】LV1
【通訳】LV7
──────────
「書き換えたよ! 持っているスキルを全部書き換えたからこれで終わり。それに経験値が尽きちゃった」
「経験値?」
「うん、書き換える時に私のレベルが一つ必要なんだ」
「なによそれ!? 秋田ちゃんの経験値を犠牲にしてスキルとかステータスを付けてたの?」
「うん」
「秋田ちゃん、あたしと同じくレベルが低いんだからレベルを使って書き換えなんてしちゃだめだよ!」
「でも、今うまくパーティーがまわって無いから私のレベルの犠牲で済むなら……。それに私は【超成長】っていう経験値取得アップのユニークスキルもあるし! だからおねがい、荒川君と青森さんが強くなるまで書き換えさせて!」
「うーん……私としては犠牲になってもらってまでして欲しくないんだけど」
「俺も同じ意見だな」
「じゃあ、使えるスキルが五個揃うまで! おねがい!」
「それぐらいならいいけど。それ以上は絶対にしないって約束してくれる?」
「うん!」
「あと、このスキルを持ってる事は他の人には内緒だよ。もしこんなスキルを持っていることがバレたらスキルの書き換えが殺到して、秋田ちゃんのレベルがずっと1のままになっちゃうからね」
「俺たち二人と秋田ちゃん以外の書き換えもしないって約束してるれる? 隅田のスキルも書き換えたらダメだよ」
「うん! 約束する!」
「わかった! 秋田さんの気持ちは受け取ったから!」
「約束してくれるなら私も何も言わないわ!」
「ありがとう」
「じゃあ、戦ってみようか!」
「おう!」
「うん!」
ちなみに青森さんのスキルはこうなっていた。
──────────
ユニークスキル:【鑑定】LV3
スキル:【MP消費減】LV1
【通訳】LV8
──────────
戦闘を始めてその差がすぐに解る。
今までと違ってカニを一瞬で切り刻めた。
それに回復後に青森さんのMPが尽きる事も無かった。
「すごいね! 回復してもMP尽きないから全然頭が痛くならないよ!」
「俺もビックリだよ! 凄く攻撃力が強くなってる!」
「秋田ちゃんのおかげだね」
「うんうん!」
「えへへへ。褒められると照れるなー」
荒川パーティーの快進撃が始まった瞬間であった。
*
隅田は一人でレベル上げを始めたものの後悔をしていた。
HPポーションは大量に持っているものの、さすがに回復役の居ない一人でのレベル上げは無謀だった。
弱い敵ならば一発二発の攻撃を受けても死ぬことはなかったが、倒すのに手間取り敵の加勢が増えると一気に受けるダメージが多くなり命の危険を感じる。
そうなった場合は逃げるしか手立てはなく、時間を掛けて削った敵の体力は全て無駄になってしまう。
隅田は敵の集団が追ってこない安全な場所まで逃げて来た。
肩で息をしながら、アイテムバッグの中に入っている神殿から支給されたHPポーションを飲みながら体力を回復する。
「うー、まず!」
HPポーションの味は日本で何度か飲んだことのある青汁の味に似ていた。
あまり飲みたいとは思わない味。
でもHP回復の為には飲むしか選択肢はなかった。
「あーあ。あんな役に立たない奴等でも役に立ってたんだな。今更頭下げて戻る訳にもいかないしどうするかな?」
今戦っている敵はウサギだ。
カニよりも二ランク弱い敵。
パーティーで倒すには弱すぎて一瞬で倒していた敵だったんだけどな。
攻撃の手数が多いので一人で倒すにはギリギリ倒せる感じでさすがにキツイ。
しかたない。
敵の加勢が来る度にこうやって逃げてたら効率悪くて仕方ないので、もう少しランクを下げた敵と戦うかな。
そんな弱い敵がダンジョンの中に居るんだろうか?
隅田はダンジョンの第一階層の入り口付近を彷徨い歩く。
*
結局、隅田は頭を下げてパーティーへと復帰した。
だが戻ったパーティーは何か様子がおかしい。
敵をサクサク倒し過ぎる。
いつも倒すのに一〇分ぐらい掛かってる敵が三分いや一分もかからずに倒している。
何かがおかしい。
何かが起こっている。
隅田はパーティーメンバーをじっと見つめる。
すぐに解った。
荒川の攻撃力があり得ないほど上がっていた!
隅田がパーティーから抜けた時の記憶の中の荒川の攻撃力と明らかに違う。
あの時の荒川と比べて攻撃力が10倍いや、それ以上上がっている様に見えた。
少ない手数で敵を倒す。
なんで急にそんなに強くなったんだ?
解らない。
パーティーを抜ける前までは隅田よりも攻撃が弱かったはずだ。
なのになんでそんなに強い?
隅田の強さは抜けた時と変わらず。
なのに荒川だけが強くなっていた。
「荒川、お前レベルが物凄く上がったのか?」
「いや。前とそんなに変わってないけど?」
「でも、なんだかものすごく強くなってる気がするんだけど?」
「お前も気が付いたか! 俺もさっき気が付いたんだけど、今日はすごく調子が良くて結構いい感じで攻撃出来てるんだ」
「あら? 荒川君も?」
回復役の聖女の青森も荒川同様嬉しそうな顔してる。
「なんか私も今日は調子よくて回復魔法使ってもあんまりMP減らないんだよね。いつもだとちょっと回復魔法使うとMPが尽きて頭がフラフラして座るしかないんだけど、今日は一度も座ってないんだ」
「へー。俺は朝から相変わらず変わった感じはしないんだけどな。荒川と青森はスキルレベルでも上がったのかな?」
「そうかもしれないな。終礼で大聖堂に戻ったらいつも見て貰ってるLVだけじゃなく詳しく鑑定してもらおう」
「だね。秋田ちゃんはどう?」
「私は……ぜんぜん」
「使えない奴め!」
「隅田君、秋田ちゃんにそんなこと言うのやめなよ! 秋田ちゃんはレベルが上がりさえすればすごく強くなる強化魔導なんだからね! 秋田ちゃんを蔑ろにした事、あとで後悔するわよ!」
「でも、今使えないのは事実だろ? 役立たずめ!」
「おい! 隅田! やめろよ! 俺たち仲間なんだろ? これ以上グループの雰囲気悪くしてどうする?」
「これ以上雰囲気を悪くするなら、グループから抜けて貰うぞ」
「ごめん、悪かった」
だがこの時、隅田は知らなかった。
三人は口裏を合わせて演技していた事を。
この好調の原因を作り出したのは秋田だったという事を。
そして使えないのは自分だけという事を。




