冒険者ギルド2
主な登場人物
高山亜流人(タカヤマ アルト) 男 主人公 クラス唯一のランクE
石川 女 口うるさい ランクD
長野さん 女 特に特徴がない、いい人 ランクD
香川ちゃん 女 ロリッ子 ランクD
リリィ 女 盗賊 冒険者ギルド長の娘、副ギルド長
モヒカンマッチョ 男 冒険者ギルド長
リリィは床の上に崩れ落ちて泡を吹く高山を見て動揺しまくった。
リリィが本気で切りつけていたのは間違いない。
でも、その後突き飛ばされて壁に頭をぶつける程の事故になるとは……。
しかも顔面は血だらけで、足を見るとどう見ても骨が折れていた。
転倒時に壁にぶつかったせい?
軽い気持ちで本気を出した事でこんな事になるとは!
己の過ちに後悔する。
リリィは軽い気持ちで素人相手に腕試しをして、事故を起こした事を激しく後悔した。
「な、な、なんでこんな事になっちゃうのよ!? き、君は、実力を隠してるタイプの勇者様じゃないの!?」
顔面蒼白、顔をぐちゃぐちゃにして泣き始めるリリィ。
とんでもない事をしちゃった感と後悔がリリィを襲っていた。
*
俺は目の前で泣きじゃくるリリィさんを見て、ミスをしてしまったと後悔をする。
ヘマしたわ。
一言で言うとヤリ過ぎた。
つまずいてコケる程度の演技で良かった。
それで足を捻挫する程度の演技で良かった。
なのに、転倒して、足を折って、壁に頭をぶつけて顔面血だらけになって、泡を吐く。
ちょっとオーバー過ぎたな。
でも全てはやってしまった事!
今更後戻りなんて事は出来ない!
やるならとことんこの演技を貫くしかない!
ここは対処を施した後、それらしく気絶する事としよう。
『システム!』
『何でしょうか勇者様?』
『悪いんだが、俺の怪我の遅効性回復治療と生命維持の監視を頼む。万一異常値になったらブーストモードとして全ステータスを一気に全快にして起こしてくれ』
『はい』
『あとな、俺はこれから寝るから。全身の血流を半分に抑制して青ざめた感じの顔にした上に状態を気絶。俺の治療が終わってから半日ぐらい経ったら気絶を解除して起こしてくれ』
『了解いたしました。御命令の状態設定を完了しました』
あとは成り行きに身を任せるか。システムちゃんがしてくれた気絶状態が効いて来たのか意識が遠くなってきた。
俺は意識を暗い闇の中に落として寝ることとした。
*
はあ、どうしよ?
どうしよ?
リリィは混乱していた。
「僕、大怪我させちゃったよ! どうしよ!」
顔からどっと冷汗が流れるリリィ。
「なんなんもー! この子! 全く短剣がかする気配すらも無かったのに! なんで腕が当たっただけで物凄い転倒をして、足が折れて、おまけに壁に頭をぶつけて失神しちゃうのよ! このまま死んじゃうとか二度と起きれなくなって植物人間とかは無いよね? そんな事になったら、僕は傷害罪に問われちゃうよ! まずはギルドに戻って医務室の僧侶を連れてきて魔法で治療してもらって……それまで絶対に死なないでよ!」
タカヤマに実力が有るなら、この程度の攻撃は容易に避けれるはずだった。
このタカヤマという冒険者は明らかにおかしかった。
冒険者ランクFなのに、短剣も持たずに笑顔でリリィの攻撃をかわすだけだった。
かわすにしても普通なら武器ぐらいは構えて武器の受け流しも使って回避するのが普通だ。
それなのに身のこなしだけで僕の短剣の避け続けた。
それも笑顔で。
最初こそ手加減して攻撃していたリリィだが、気が付くと本気で連撃を仕掛けていた。
装備とスキルで普通の盗賊の3倍にまで命中と速度をブーストしたBランクの冒険者でも躱すのに苦労をするリリィの攻撃を易々躱した。
明らかにおかしかった。
そんな相手と今まで戦ったことが無い。
おかしいというよりも身の毛がよだつ感触だった。
『何か底知れない化け物と戦っている』
そんな気がしてきた。
この男の深淵を引き出す前に試合を止めた方がいい。
『君の実力は十分解ったからこのぐらいでやめにしよう』
そうリリィから降参の声を掛けようかと迷った時それが起こった。
戦いの最中にタカヤマがいきなりリリィの攻撃を喰らった。
いや、どう見ても自分から当たりに来たようにしか見えなかった。
あの軽々とそして楽々とリリィの自慢の短剣攻撃を避ける足さばきで当たるのは明らかにおかしい。
しかも刃の部分は避け腕の肘に当たっていた。
その時見てしまった。
リリィの攻撃が当たった直前のタカヤマ目を。
終始笑顔だったタカヤマの目に鋭い眼光が籠ったのを。
『お前なんて、いつでも殺せるんだ』
タカヤマの目はそう語っていた。
リリィはその目に恐怖する。
これは明らかに殺意を持った目だ。
野獣が獲物の小動物を狩る目。
12の時から盗賊を始めて18の今になるまで味わったことのない恐怖だった。
まるで魔王が内に棲んでいるような目。
背筋が凍りついた。
気がつくとタカヤマは転倒し壁に頭からぶつかっていた。
そして何度揺り起こしても目を覚まさなかった。
その時リリィは自分が何をしたかを悟った。
「とんでもない事をしてしまった」と。
*
気がつくとそこは医務室だった。
多分冒険者ギルドの医務室だろう。
ギルドに来たのは朝早い時間の筈だったが、窓からのぞく夕日は真っ赤な色を帯びていた。
足を折ってからかなりの時間が経過していたみたいだ。
俺がシステムちゃんに頼んだ予定通り半日気絶していたらしい。
システムちゃんと話をして大体の経過を知った。
ギルドの僧侶がやって来て怪我の治療をし、この医務室に運んで来て外傷の治療を魔法で行い、それからずっとベッドの上に横になっていたようだ。
治った筈なのに起きない俺を見てリリィさんが大混乱したそうだ。
石川、長野さん、香川ちゃんの三名はついさっきまでこの部屋で看病しててくれたみたいだけど、もう日が暮れる時間なので今はモヒカンマッチョに連れられて大神殿へと戻って行ったようだ。
部屋にはリリィさんだけがいた。
俺が目を覚ますと俺のベッド横に座って看病していたリリィが立ち上がる。
心配そうな顔が笑顔に変わったと思ったら、今度は涙をボロボロこぼしながら泣きじゃくる。
表情の変化が激しい娘だ。
俺が目を覚ましたのに気が付くと俺にまくし立てる様に話しかけて来た。
「よかった! やっと目を覚ましてくれたんだ! 治療を終えて怪我が治った筈なのに全然目を覚まさないし、顔も真っ青なままだし、もう君は二度と目を覚ましてくれないんじゃないかと思ったよ。本当に心配したよ。でも、目を覚ましてくれて本当に良かった。あと、ごめん。あんな事して本当にごめん」
「ここはどこだ?」
「ギルドの医務室だよ」
「医務室か。なんで俺はここに?」
「僕の攻撃が当たって君が倒れてそれで治療で……本当にごめん」
申し訳なさそうに話す彼女に俺はオーバー気味に驚いた素振りをする。
役者じゃないのでかなり白々しい演技だが気にしない。
「あー、思い出した思い出した! 攻撃を避けそこなって転倒したんだったな」
「本当にごめん。腕試しの筈なのに、足を折るほどの怪我をさせちゃって本当にごめん。なんでもお詫びはするから許して」
「なんでもか?」
「なんでもするよ! もしこの傷が原因で君が勇者や冒険者が二度と出来なくなるっていうなら責任取って僕が君のお嫁さんになって一生養ってあげるし、僕の顔を二度と見たくないって言うなら一生生活できる位のお金を払うから!」
なんか良く解らんがこの可愛い子ちゃんが俺の嫁になってくれるの?
いいね。
いいよ!
ならば、ここは一生仮病を使って俺の嫁に……。
むふふふ。
その小さなお胸に顔を埋めてあんな事やこんな事をしまくってやる!
もふなでしまくってやる!
ぐふふふ。
てのは、妄想だけでやめとこう。
この子を嫁に貰えるのはとっても魅力的な話だがそれはまずい。
こんな可愛い子、しかも冒険者ギルドの娘といきなり結婚したら絶対に目立つ。
理由を探りに来る奴が間違いなく出る。
『リリィさんが俺に恐怖した』ってとこから、俺の実力がバレ、真の勇者だとバレる可能性が少なからずある。
そうなれば幽閉バッドエンドルートしか待っていない。
まあなんだ。
ここは結婚は諦めて、素直に貸しを作っておくべきだな。
もしくは謝礼か。
そういや、女の子達が腹空かせてるみたいだから飯でも奢ってもらうか。
そうだな。
それでいこう。
俺はリリィさんから謝礼を引き出すべく話し始める。
「まだ足と頭がズキズキと痛むけど、そんな大げさな怪我じゃないし。冒険者をやるならこのぐらいの傷は日常茶飯事の怪我だろ? ちゃんと治療をして貰ったから命に別状は無いみたいだし気にしなくていいよ」
「いいのか!?」
「ただ、お願いが有る」
「お願いか? 何でも聞くよ!」
「俺の怪我が治るまでは冒険者の依頼をしばらくの間こなせなくなるから、怪我が治るまでかなり金銭的に困る事になるだろ? それでパーティーの女の子たちに迷惑が掛かるだと思うんだ」
「そうだな。ごめん」
「そこでだ。お詫びにこのギルドにある酒場でパーティーの女の子達に飯を食わせてやって欲しいんだ。いいかな?」
「そんな事でいいのか? なんなら訓練の期間中、街にいる間はずっとご飯食わせてやるよ。君も僕も一緒にな」
「すまない。助かる」
俺は食事の約束を取り付けた。
部屋に戻って食事の件を報告。
これを聞いた石川、長野さん、香川ちゃんは、美味しいものが食べれると涙を流して大喜びした。
リリィさんに貸しは出来なかったが、腹を空かせてる女の子達には大きな貸しが出来た。
これが本当の怪我の功名ってやつだな。




