翔くんとルーちゃん その13
「ちっくしょう……」
翔は旅の途中で困ってしまったのだ。
前回と道が違いすぎる。
「せめてフィルの……」
フィルヘイドはエーベル王国の王子だったはずだ。それを忘れていた。
慌ててエーベル王国に戻り、五百年前の王家の家系図を見ても出てこなかった。
「勇者様」
神官の一人がこちらに来ていたらしい。
「何をお調べですか?」
「召喚魔法を完成させた人を知りたいだけだよ」
「左様でしたか。その方はクロム様と仰る、東神殿の神官長でした」
「嘘だ!!」
そんな名前の神官は記憶にない。
「何故、勇者様は嘘だと思われるのですか? こちらが記録です。誰が召喚されたかも全て載っております」
ぱらりとめくり、翔は絶句した。
約五百年前、魔族が侵攻してきたため、その脅威から国を守るために当時の神官長が編み出したとされている。
そして、呼び出された男の名は「角川 宗二」。そのあとの記述を見ても、翔の名は勿論フィルヘイドの名前も無かった。
違う、これは違う!! 叫びたくても声にならなった。
その前後を見ても、フィルヘイドの名前は無かった。
確か中央の神殿で神官長をやっていたことを思い出した。
そのまま中央神殿の神官一覧をめくっていた時、不思議な空白を見つけた。
時は七百年前位に遡っている。まったく違うじゃないか。
――事実とはこんなものだよ、かけちゃん――
不意に懐かしい声が聞こえてきた。
――あの頃とは違うんだ。今や魔族と人間は敵対している。理由は分からない。そして魔界に行ったことのある私は王家からも名前が外されてしまったよ――
「なぁ、フィル。俺、あっちに戻って結婚したんだ。フィルとルーちゃんを『友達』って紹介するって言ったんだぞ」
その言葉に何も返ってこなかった。
ただ、分かったのはあれから七百年も年月が流れてしまったこと。フィルヘイドは既におらず、墓も処分されていること。そして、フィルヘイドの母方の実家は取り潰され、エーベル王国にいないということだけだった。
「ちっくしょーーーーー!!」
何か手がかりだけでも捜したいと、翔は思った。
 




