翔くんとルーちゃん その11
色々書物を漁るものの、数年たってもまだ向こうへ行ける陣は完成していなかった。
そんな翔を見た、両親が見合いを強行したのだ。
「俺、やりたいことがありますから、あまり構えませんよ」
「いいですよ? 私も趣味に生きたい人間ですから。でなきゃ、両親が見合いを承諾するわけないじゃないですか」
その通りだ。あっけらかんとする彼女に、翔は事の次第を話した。
「……異世界、ですか」
「信じてもらえないかもしれないけどね。こちらの幼馴染と同じくらい大切な友人があちらにも出来たんだ。もう一度会って、今度は酒盛りをするのが夢かな」
そして、昔と違い、日本の文化を勉強している。
「そんなんでよく、公務員になりましたね」
そこを言われるとかなり痛い。
「しかも警察官ですよ? 不穏分子とか言われませんか?」
「そういう話はあまりしないから。だから分からないんだと思う」
「そうですか。なら別にいいですけど。……正直な話、あなたがもし居なくなったら殉職したものだと思っていいってことですよね?」
かなりえげつないことを言い出した。
「……戻ってくるつもりはかなりあるんだけど。成功したら、君を連れて行きたいくらいだよ」
「はぁ!?」
「あちらの友人に、『妻です』って紹介したいくらいだよ」
この女性の潔さに翔は心底惚れた。
そして、翔はこの女性と結婚することになった。
女性の趣味は薄い本作りだった。
それを見た翔は思わず笑った。
似たもの夫婦なのかも知れないと、それが嬉しかった。
「ただいま」
いつものように仕事を終え、官舎に帰宅する。
現在は実家から遠いため、官舎に住まいを移している。
「おかえり~~。次は移動ないよね!?」
「今回は辞令出なかったよ。しばらくは安泰かな?」
引越しのたびに妻には苦労をかけていると思う。その中で薄い本作りは妻にとって唯一のストレス発散のようなものだろう。
妻の描くイラストを見ながら、どっかりと腰を落ち着けようとした瞬間、それは起きた。
「またか!?」
「いってらっしゃい。ほんとに帰ってきてね?」
寂しげに言う妻に、行ってきますとしか言えなかった。
 




