翔くんとルーちゃん その9
その翌日から、フィルヘイドはずっと魔王城の書庫にこもりきりになった。
「フィル、どしたんだ?」
「何てことはない。色々な書物があるからな。召喚陣を不安定でなく成功させたいのだろうよ。そうすれば翔もこちらに来たときと同じ日時に異世界に戻れる」
「……そういうことか」
ルシファーの説明を聞いて、翔も納得した。
ならば、自分も色々調べるべきだ。
そうなったら行動が早い翔である。ルシファーに案内してもらって書庫にこもった。
書物を読んでいって分かったのは、翔たちがいた世界からこちらへ色々なものが流れてきているということだった。そして翔のように「召喚」されたわけではなく、「迷い人」としてこの世界へ流れてきている人も時折見かけるということだ。
ただ、そのあと帰れたという記録はない。つまり、一方通行なのだ。
それをフィルヘイドは何とかしたいのだろう。
「……時間逆行……時空の扉……このあたりは特殊魔法になるのか」
「フィルはそれが使える。だからこそ、翔を召喚できた」
「おおう。ルーちゃんいつの間に」
「お前達が昼食も取らずに書庫にこもっていると、王妃と宰相に言われてな。色々話を聞きたいのだそうだ」
「……あれ以上話せることないんだけど?」
「それは我も重々知っている」
だったら、拒否してくれよ。翔はそう思ってしまったが、どうやらルシファーでは拒否できない人物らしかった。
「ん。フィルも呼んで、一度戻るか」
和気藹々としながら、食事を取り、また書庫へ三人揃って戻った。
「時間逆行と時空の扉は反発する魔法なんだ。召喚の魔法陣に対しても二つは反発してしまう」
「その反発を少なくする方法を取らぬと、難しいということか」
書物を数冊持ち寄り、三人は頭を悩ませていた。
三人寄れば文殊の知恵。どうやらこの世界では無理なようである。
「一気に発動させると駄目なの? それとも、順番が違うということなの?」
「翔、どういう意味だ?」
翔の発した問いに、ルシファーが驚いていた。
「いやさ、俺魔法のことよく分かんないけどさ、普通火の魔法を使うときって、一つの魔法陣を空中に描く感じじゃないの?」
「違う。魔法陣があるほうが珍しい。魔法耐性があるから魔法を使えるからね」
「よく分かんないんだけど?」
フィルヘイドの答えに翔は頭を悩ませた。
「魔法が使えるということは身体がその魔法属性に耐えられるからこそ使えるんだ。この世界は魔法属性で溢れている。その属性を使うために身体を媒介にしているといった感じかな?」
「よく分かんない」
思わず翔は呟いた。ところがルシファーとフィルヘイドはそれを気にした様子は無かった。
「逆に言うとね、かけちゃんが言った方法って今まで誰も考えていない方法なんだ。だから、魔法陣というものを媒介にすれば、上手くいくと作れるかもしれない!」
よく分からないが、どうやら少しばかり翔はフィルヘイドの悩みを解決していたらしい。
 




