翔くんとルーちゃん その6
その宿屋にちらほらと、多種多様な魔族の長が訪ねてきた。
勿論、ルシファーに挨拶するためである。
ところが……。
「へぇぇぇ。ドワーフさんかぁ。え!? これ素材から見つけたの? どこで?」
「流石アルプ族。素晴らしい細工。やはりわが国にもアルプ族が暮らせるようにしたいものです」
ルシファーそっちのけで話に興じる翔とフィルヘイドの姿があった。
「おっちゃん、素材取りに俺も連れてってよ」
「翔! 待て!!」
今まで放置していたはずのルシファーもさすがに黙っていられなくなったらしく、口を出してきた。
「お前の興味如きにドワーフの長の手を煩わせてどうする!? フィルヘイド、お前もだ! お前の采配でアルプ族を人界に住ませられるわけが無かろう!!」
「えぇぇ? これ、重さもよし、切れ味もよさそうだからさ、どうやって作るか見たかったんだよ。
おっちゃん、俺の国の伝統工芸の刀、作ってみる気ない?」
「翔! 人の話を聞け!!」
「殿下、いいお話を聞けました! 新たなる武器防具の設計は心躍るものです。
しかし、我らにも刀はあるのだが……」
「そう? 俺の国の刀はね、『折れず、曲がらず、よく切れる』ことで有名なんだ。それが出来上がるまでの工程を、祖父さんの伝手で一回見せてもらったけど凄かった!」
「なんと!? その三拍子を揃えているだと? これは一度よく聞かねば!!」
「かけちゃん、そんな話今まで聞いたことないんだけど?」
この話にフィルヘイドがすぐさま文句をつけてきた。
「いやさぁ、色々鍛冶場見せてもらったけど、作るの無理そうだったから言わなかったの。だけど、このサーベル見たらさ、作れるかもって思っただけ」
「わが国の武器とどう違うんだい?」
「んとね、フィルの国の剣は両刃なんだ。俺が昔居合とかで使ってたのは片刃。あとは使い方が違う。
フィルに用意してもらった剣は突いたり、力技で『叩き潰す』のが武器としての使い方。ところが、俺が造って欲しい刀は本当に『斬る』っていう言い方がしっくり来るものだからね」
「それは見てみたいね」
鞍替えをするかのように、フィルヘイドが言う。それを見計らい、翔はアルプ族の長に視線を移した。
「簪なんて作れる?」
「か……かんざし、ですか?」
「そ。これまた日本の伝統工芸の一つで……」
「翔! お前はなにを考えているのだ!!」
熱く語ろうとしたら、ルシファーに止められた。
ところが、気をよくしたドワーフ族の長とアルプ族の長は翔の話を聞いて、作ることを約束してくれた。
特に、刀は作り方が特殊なため、傍に付っきりで教えることになり、翔とドワーフ族の垣根はほとんど無くなっていた。
「かけちゃんの人徳だよね、こればかりは」
ドワーフ族と戯れる翔を見たフィルヘイドがルシファーに囁いた。
「そうとしか言えぬな。確かに人界では作るのが難しいものだな」
「簪くらいなら、何とかいけそうだけど、王妃陛下がどう反応するかによって流行るかが決まるからねぇ」
しみじみと二人で語り合っていた。
本日、二人が飲んでいるのは火酒である。ルシファーはストレートで飲んでいるが、さすがにフィルヘイドは果実の汁で薄めてある。
「出来たぁぁぁ! おっちゃん、試してみていい?」
「当然だ! お前が言わなければここまでの作品は出来なかった。カケルが試すのが道理だ!」
そんな喜びのドワーフの長と翔を眺めつつ、のんびりと肴を食べながら飲んでいた。
「ルーちゃん、ちょっとばっかり手伝って欲しいんだけど」
「何をさせるつもりだ?」
「んとね……」
魔王陛下の前で、日本刀の試し切りが行われることになった。




