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「魔王様」の定義  作者: 神無 乃愛
「魔王様」の定義 本編
8/91

兄さん、姉さんの性格、なおりませんか?


 自治領を少しでも出てしまえば、あっという間に道どころか全てが悪くなる。一応、もうすぐ出来る壁と門が浮浪者が入ってくるのを防ぐだろう。いくら難民を引き入れると言っても限界というものがある。

 この国は全ての政策を、自治領に投げ出したのだ。

「馬鹿としか言いようないけどね」

 日常的に飲む薬持った、薬草持った、解毒剤持った、傷薬持った。毎日確認してしまうのはご愛嬌として欲しい。

「他のものも大丈夫だぞ」

 翆が楽しそうに言う。ちなみに翆の武器は「ハンマー」だった。理由は「『鍛冶屋』っぽく、建築にも使う道具」ということらしい。哉斗は剣と槍と弓。一番多い。相手によって使いわけるつもりらしい。千紘はメスだった。マッドサイエンティストっぽくてやめて欲しかったが、何故か悪乗りしたのだ。千夏は意外にも「杖」。そして千佳と達樹は武器を持たない。

『ふぅん。あまり戦うつもりないのね、チカとタツキは』

「違う。適材適所。俺が戦っても一瞬で負けるから。それくらいなら、皆に任せた方がいい」

 人の周りをうろうろと楽しそうに飛び回る妖精(ピクシー)に、少しイライラしながら答えた。

「ファイヤー!」

「ヒール!」

 襲ってくる魔物たちを倒すときにわざと声を出すのは翆と千夏。……いや、千夏の場合は治癒する時ですら声を出す。声を出さない方が効率がいいと分かっていても「ファンタジーっぽい」という一言だけで済ますのだ。

「次はどこの街?」

 地図を広げた達樹に千佳が聞いてきた。

「国境を越えたよ。今度は『グレス聖王国』だね。一番魔物に対して嫌悪感を抱いているところみたいだよ」

 そこまで言って、妖精(ピクシー)の方に目をやる。

「この国について、色々教えて欲しいな。物知りな『エメラルド』さん」

『!!』

 妖精(ピクシー)が驚いているのが分かった。

「気がつかないはずないでしょ? そして君はおそらくアネッサ嬢を捕まえた『魔王』に言われて俺たちについてきてる」

『いつ、分かったの?』

「何となく最初から思ってたよ。俺は君たちの一族とは交渉してないからね。『魔王様』は君たちとも交渉すると思って君を寄越したのかは、まだ分からないけど。確証を得たのは今だよ。……名前は適当に言ってみただけ」

『信じらんないッ!! 人間にばれるなんて!!』

「強いて言うなら、君は無用心すぎたんだよ。俺たちは六人いるんだから、たとえ戦闘中だろうが君を監視するくらいは出来る。あとは『神官の捕縛』がついてるし」

 「神官の捕縛」は最初から気付いていただろう。ただ、ばれないようにそのままにしていただけで。その術に紛れて「盗聴」とかもつけていただけの話だ。そのあたりは科学と魔法の融合万歳といったところだろう。

 ぎゃあぎゃあ騒ぐ妖精(フェアリー)ことエメラルドに、達樹はにっこり微笑む。幼馴染連中曰く、「悪魔の微笑み」だ。

『わっ私の警戒不足ってことで、……ゆ、許してやるわよ! だけどこれ以上情報を与えるつもりなんてないからねッ! 私は魔王様に忠誠を誓っているんだから!!』

「わぁ、リアルツンデレ!」

 そう言って千佳がエメラルドに頬擦りした。

「ありがとう、魔王様に忠誠を誓ってるだなんて、貴重な情報を俺にくれて」

 達樹のその言葉にエメラルドが「しまった」と言う顔をしていた。その調子で少しずつボロを出してもらえればいい。


 グレス聖王国について、エメラルドが説明を始めた。

 曰く、この国では魔法が使えない人間は屑であると。

 曰く、この国では魔物と戦っていると。しかも、王国から仕掛けてくるらしい。そんな国は少ないと。

『当たり前でしょ? 魔物の方が本来魔法には特化してるんだもの。ドワーフの武器だってそうじゃない』

「ってことは、ここにはドワーフの武器がないのか」

 翆が驚いたようにエメラルドに訊ねていた。

『ない、と思うわよ。私だってこの国のことほとんど知らないもの。私が見つかったらあなたたちごと殺されちゃうわ』

「ドワーフ製の武器に代わるものって?」

「翆兄、そんなに難しく考えることないよ。中世ヨーロッパの歴史を思い出そうよ。おそらくは、宗教がらみじゃない? 十字軍みたいにさ」

「なるほど。達樹の言い分を考慮すりゃ、『神に洗礼を受けし武器』となるとやっぱり『エスクカリバー』が有名だよな!」

『そんな武器あるわけないでしょ!? “魔剣”だって少ないのに!! スイ、あなたおかしなこと考えないで』

「エメラルド、大義名分としてありえるって、翠兄は言いたいだけだよ。上層部で銘打ってれば、そこまで分からないだろ?」

『人間族はやっぱり卑怯ね!!』

「お褒めに預かり、光栄ですよ。エメラルド王女様」

 達樹としてはちょっとした意趣返しのつもりだったが、どうやら図星だったらしい。真っ赤にして怒り出した。

「ほれ、この中に入ってろ」

 急にエメラルドを袋に隠したのは哉斗だった。

『え?』

「宿に着くまで、しゃべんな」

 ここから先、ばれるとどう関係が変わるか分からないと言うのが哉斗の言い分だった。無論、誰一人その言い分に反論するものはいない。というか、千紘よりも早く哉斗がエメラルドを保護したことに、驚いているくらいだった。

「一応協力者だからな。……何かあってからじゃ、遅いだろ」

「いやぁぁぁん。エメラルドちゃんに続いて哉斗までツンデレよ!」

 見た!? とはしゃぐ千夏に問答無用で哉斗が頭を叩いていた。

「おうよ。哉斗は昔っからツンデレだって言ってるだろ? 自分より弱いもの限定でな!」

「翠!!」

「お前のツンデレっぷりは、俺らがちゃぁんと分かってるって。特に達樹に対するツンデレはもう……」

「そうそう! 何度哉斗×達樹を妄想し……」

「翠、千夏! 気持ち悪いこと言うな!!」

「いっやぁぁぁん。哉斗ったら照れ隠しよ、翠! これは祝いものだわ! やっぱりここは哉斗をはさんで三角関係ね! 哉斗×達樹に哉斗×エメラルドちゃんよ! 身体の大きさとかどうするのかしら!?」

「ち~な~つ~~~~!!」

 すぐさま抜刀しそうな哉斗を、大人の優しさで千紘と千佳が止めた。……久しぶりのノリだと思うと、達樹の顔も思わずほころんだ。


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