父親の企みは成功しました
帰還の為に、再度魔法陣が描かれた。
そして、その中に達樹以外のあちら側の幼馴染たちが入った。
それぞれが「お土産」を手にしていることに、達樹の口から思わずため息が出たが、仕方あるまい。早々何度も行き来できる世界ではないのだ。
「準備が出来たようだね」
感情を込めずにシスが言った。
そして、呪文を唱え始めた。
達樹のスマホにアンテナが入ったことを確認した時、千紘が電話をかけた。
「え? 哉斗から? いや、哉斗も携帯置いてくって……。……分かった。じゃ、俺が一度切って何とかする」
通話を終えると呆れたような声で千紘がうめいた。
「哉斗から哉斗の親父さんに電話させろってさ」
「じゃあ、俺の携帯使う? 俺、翔小父さんの連絡先入れてあるから」
「持ってくぞ」
そうなるから達樹は言いたくなかったのだが。
仕方がない、と言わんばかりに達樹から受け取ったスマホで哉斗が電話をかけていた。
「あ、もしもし。……はぁ!? ちょっと待ちやがれ! 親父!!」
「どうした?」
既にこちらの神官たちは疲労困憊だ。それなのに帰還が進まない。
『いいかぁ、電話切るなよ。馬鹿息子。切ったらそちらの神官さんが大変だからな』
急に大きな声で翔の声が響いた。
「かかかかか翔さんですっ。嫌な予感しかしませんっ!!」
「エリさん、珍しく意見が合うね。何を考えてるんだろ、あの人」
「私も知りたいですっ」
そんなことをエリと話していたらスマホが壊れ、大きな扉が現れた。
「おお~~成功! だから言っただろ? 真壁」
「お前の言うことなど、そうそう信じられると思うのか? 首藤」
扉の向こうから中年の男女が現れた。達樹以外の親だ。
「あとは、これを固定すれば、行き来は楽になる、と。
お、エリ。久しぶりだな。相変わらずの怯えっぷり」
「かかかかか翔さん! なななな何してんですかぁぁぁぁ!!」
「二つの世界を繋ぐ扉作り」
あっさりと翔は言う。そして何かの呪文を唱え始めた。
「お、ルーちゃんも久しぶり」
「誰が『ルーちゃん』なものか。翔よ」
どうやら、魔王と翔は知り合いだったらしい。
「ルーちゃんがただの皇子の頃ね、俺こっちの世界に来たことあるからね~~」
さらりと出た、衝撃の告白だった。
「はぁ!? 親父、ふざけんな!!」
「ふざけてないぞ。だからこそ、エリをあっさり受け入れられたんだろうが」
全員、その可能性というものを見逃していた。
「哉斗と言う子供が汝の子か?」
「そ。達樹君に手を出したことを黙ってたんだから、これ位手伝ってよ」
「余に何をせよと」
「扉の固定」
さらりと翔が言い、魔王がため息をついていた。
「よしっ。扉固定完了! これでいつでも行き来出来るぞ!」
翔が楽しそうに言った。
「あちらの扉の場所は?」
「達樹君の家」
さらりと翔は答えた。
「どうやって俺の家に入ったの?」
「家宅捜索ついでに? あ、三人とも逮捕されたから大丈夫だぞ」
「祖父は?」
「昨日入院した」
「そっか」
特に何の感情も浮かばなかった。
「達樹君はこちらに残るのか」
「うん。俺が結構関わっちゃったし、あの人たちがそうなったんだったら、別にいる必要ないし。時々行って、投資信託のほうしっかり見ればいいだけだし」
それを聞いた翔が笑っていた。
「それでいいんじゃないか? さて、お前らは戻る。ただでさえこっち来てから半年経ってるんだ」
「そんなに?」
「そ。扉が出来たから、あとは向こうもこちらも同じように時間を刻んでいくはずだ」
やはり翔は油断ならない。
「ルーちゃん、今度またチェスやろうぜ」
「汝も拘らぬ男であったな。三百年経っても変わらんとは」
なんだか恐ろしい会話を聞いたような気がしたが、達樹一同スルーを決めた。
「互いに異世界旅行できるようになったんだ。いいことだろ?」
翔の言葉に全員がため息をついた。
そして、今までのそういった知識集めは、このためにしていたとあっさり豪語した翔に全員言葉を失った。




