ちょっぴり嫌な応酬です
帰る時が近づくにつれ、別れを惜しむ者たちが増えてきた。
「エリはどうすんだ?」
千紘が唐突にエリに尋ねた。
「そうですねぇ。……姉さんが心配なので私はこちらにいます。達樹さんが獲物を狙う目で姉さんを見つめてますので」
「……そうだな」
確かにあの目はやばい。婉曲に告白したそうだが、どうするつもりなのか。
「何かあったら連絡しろ。翠の携帯なら使い慣れてるだろ」
「そうしますぅ。私もの凄く不安なんですぅぅぅぅ」
「でしょうね」
千佳も話しに混ざってきた。
「やはり、帰るのか?」
シスの躊躇う声。
「達樹のようにあっちにまったく思い入れがないわけじゃないし、……なんというかどちらにも遣り残したことはあるから、どちらにしろ後悔は残るな」
「そうか……残念だ。これからこの街が発展していくのを一緒に見てもらいたかった」
「連絡はいつでも取れるのよ? それで十分じゃない」
明るく千佳が言った。
「それよりも、問題はあの三人だろ」
そう、哉斗と翠、そして千夏が酒を飲んで騒いでいた。
「この土地でも酒が作れるようになるかな?」
「させてやらぁ! それこそ魔物の名にかけてな!」
「そりゃ、楽しみだ!」
翠の言葉に醸造が得意だという魔物が返し、そしてそれを楽しみにする領民。魔物の力をそんなことに使うのはどうなんだろう、思わず千紘は思ってしまったが、あえて言わないでおいた。
それくらい今の街中は活気づいているのだ。
人間と魔物の共生、意外に上手くいきそうである。
今日は祭りだ。
人間と魔物、そしてその間に産まれた子供たちが皆、楽しく暮らせるところにするという、「目標」に向かって一歩歩き出す、そのための祭り。
実際、達樹の使った魔法が効いたとも言われた。
人間と魔物が協力し合って一つの魔法を作った、それを領民は見ていたのだ。
そして魔王としっかり手を組んでしまったこと。
「そんなつもりじゃ、なかったんだけどな」
すっかり健康体になった達樹は思わず呟いた。
「どうした、人の子よ」
「あなたと手を組んだのは、あなたとの戦いに水を差されたからのはずなんですけどね」
いつも唐突に現れる魔界の王を気にすることなく達樹は言った。
「それがいかがした?」
「いつの間にか俺が『魔王と手を組んで、グレス聖王国とエーベル王国の腐敗した暗部を瞬殺した』になってるんですよ」
「余と汝が天界に向かって行ったのがそう取られたと?」
「そういうことです。お義父さん」
「汝にそう言われる筋合いではないな義息子よ」
「義息子って呼んでる時点で同じだと思いますが」
互いに言われたくないことは同じらしい。それを言い合ってしまうのはご愛嬌というものだろう。
「やはり汝と渡り合うは楽しきことよ」
「同感です」
「いつ、汝以外は出立するのだ?」
「明日ですよ。あ、あの三人、二日酔いは絶対にありえませんから大丈夫です」
「左様か」
それだけ言って、魔王は帰っていった。
そして、シスと千紘が入ってきた。
帰還呪文のためだ。千紘は向こうの世界に連絡を取り、明日帰ると伝えたという。
「あれから何日経ってんだろうね」
「俺も知らん」
「ま。最悪魔王様の手も借りて好きな時間に飛べるようにするよ」
「あの魔王をそういう風にいえるのはタツキくらいなものだよ」
そして三人で笑いあった。
まさか、それがあんなことを引き起こすとは思えなかった。
 




