胃薬必要なのは千紘だけではないようです
「ルシファー様!」
「達樹!」
何故か後ろから魔王軍と千紘たちがついてきた。
「呼んでるよ、魔王様」
「そのようであるな。達樹、汝も呼ばれておるぞ」
「どう返事すればいいんだろうね」
「左様である」
無視して進むのが一番かと思った。
「いい加減にしろ! 達樹!!」
「ルシファー様、お待ちください!」
「どっちでもいいから一回止まれ!」
翠の言葉に魔王と顔を見合わせ、仕方無しに止まった。
「どっちでもいいとは面白し」
そして、哉斗が魔王の身体にいる達樹のほうを向くなり、一回拳を落とし、そのまま達樹の身体にいる魔王のほうを向いてそちらにも拳を落とした。
「いい加減にしろや。達樹」
「かような状態で行き、天界に遅れを取るなど我らは許せませぬ」
既に千紘と魔王軍の誰かが二人に向かって説教を始めた。
「アスタロスさん、多分二人入れ替わってる」
「は!?」
翠の言葉にアスタロスと呼ばれた男と千紘が驚きの声をあげた。
「だって、名前を呼ばれて止まらなかった。達樹は今までそんなことしたことない。ところが俺が『どっちでもいいから』と言ったら止まった。つまり……」
「ルシファー様! 何故そのような入れ替わりの術を!!」
「かような面白きこと、応じぬ方が不可思議であろう?」
その言葉に、その場にいた達樹以外の連中が凍りついた。
アスタロスの胃から不穏な音が聞こえてきそうだった。その音は勿論、千紘の胃からもしている。
やはり、この二人思考回路が似すぎている。
「達樹、負けないのが最優先だろ。このままやったら負けるぞ」
「それは避けたいかな。……一回退いて作戦立て直しますか? 魔王様」
「それもよきかな」
「よくねぇ!」
哉斗がすぐさま突っ込んだ。
「達樹、少しは千紘のこと考えてやってよ。そのうち胃潰瘍で倒れるぞ。そうなったら大変なのお前だろ? そしてルシファーさん、あなたの執事は既に死んでいるわけですから、アスタロスさんに苦労かけるとあなたの仕事増えますよ」
「それは避けたいものであるな」
「同じく」
「いい加減にしろ!」
「いい加減になさってください!!」
翠の優しい言葉に、身も蓋もなく返した魔王と達樹の返答。そして奇しくも千紘とアスタロスの声が綺麗にはもった。
「じゃあ、天界に攻め入るのはヤメロ。とりあえず戻って、二人とも身体交換して」
「魔法が使えて面白かったんだけどなぁ」
「他者の力を借りるというもの乙であるな」
哉斗の言葉にまたしても返す二人の言葉に、全員が言葉を失った。
やはり二人は似た思考回路を持っているのである。




