達樹が危険!?
「たたたた達樹さん!」
闇に囚われた達樹を見たエルフリーデたちは言葉を失った。
どんなに小さな負の感情でも大きくし、化け物に変えてしまう魔王の力。
そして、魔界の王たる魔王の前ではどんな人間も無力なのだ。
魔王領を統括するくらいの「魔王」であれば、神官の力で祓うことが出来る。それを遥かに超えた、神の領域。
エルフリーデはその闇に向かって魔法を放つも、吸収され終わってしまった。
「愚かなり」
魔王がこちらを見すえて冷たく言った。
「礼を言うぞ、人の子よ。余の為に召喚を行ってくれて」
「な!?」
「何のために人間如きを誑かしたと思っておる? 人の子に召喚を行ってもらうためだ。達樹をこちらの世界に呼び寄せるためにすぎぬ」
「タツキを……呼び寄せる?」
「砂漠から金の粒を探し当てたと思っておったか? 余が干渉したからこそ達樹が来たに過ぎぬ」
悔しそうにシスリードの顔が歪んだ。
「この身体は余が貰い受ける」
「さささささささせません! たとえあなただろうと、そんなことはさせません!」
怯えながらもエルフリーデが叫んだ。
「邪魔である」
軽く手を払うかのような仕草で、エルフリーデとシスリードをなぎ払った。
「お前には絶望を味わって死んでもらわねばな」
エルフリーデの前に魔王がふわりと向かってきた。
「姉さん!」
「エルフリーデ様!」
敵わない、この男に。達樹すら助けられない。
足が震えるのが分かった。
――怖い? 深呼吸してみようか――
――「食べる」? それ誰に聞いたの?――
――よほど俺に食べて欲しいんだね――
――月が綺麗だね――
達樹がかけてくれた言葉が、エルフリーデの中に残った。
「タツキ!!」
今まで出ることのなかった声が、あたりにこだました。
「我、天界の主の元門を開く! ……きゃぁぁぁぁ!!」
「姉さん!」
「エルフリーデ様!」
魔法を唱える暇もなく、エルフリーデまでもが闇に掴まった。
「闇には闇で対抗します! シスリードさん、姉さんを頼みます!」
「承知した。ソルト殿! タツキを!」
「無論!」
既に傷ついたエルフリーデたちが、エルフリーデと達樹を助けるために動き出した。
「汝のせいだ。銀の髪の娘よ。お前がいるから変に希望を持ち、助けようとする」
「わ……私の……せい」
魔王は囁くようにエルフリーデにのみ呟いた。
「姉さん!」
――姉さん、私が闇を唱えた瞬間、光の小さな魔法を使ってください! そうすればシスリードさんとソルトさんが何とかしますから――
慌てたようにエルフリーデが心話で話してきた。
その言葉どおり、エルフリーデの闇魔法にあわせて光魔法を放った。
ぱしゅん。
不思議とエルフリーデと達樹を戒めていた闇が解けた。
 




