達樹のココロ
連続投稿2話目です。
矛盾点、変更しました
魔王の放った黒い闇の中に達樹は一人佇んでいた。
『久しいな、ヒトの子よ』
魔王の声がどこからともなく響いていた。
『何故、魔法耐性のないお前が、異世界に来れたのか知っておるのか?』
それはシスが呼んだから。
『否、それは違う。余が汝を呼んだからだ』
「ふざけるな!」
『ふざけてなどおらぬ。本来であらば、あの翠か哉斗という者が呼ばれて終わりであっただろうよ。余が関知したからこそ、汝がこちらの世界に招かれただけのこと』
本来勇者になるのは翠か哉斗であって、達樹ではなかったということだ。それを魔王が干渉したが為に、達樹が呼び出されたそう言いたいらしい。
『汝は異世界で産まれてすぐ死する運命にあった。それを覆したのは余。黒き髪のエルフリーデの役にたってもらうためにな』
エリの役にたつなど、全力でお断りしたい。達樹はそう思ってしまった。
もし、今魔王が話していることが事実だとすれば、達樹が持つ能力のほとんどが魔王に由来するのかもしれない。サキュバスの色香が効かぬこと、魔族とやりあえること、全てが魔王の掌で転がされていたということか。
『汝は飲み込みが早くて、余は助かる』
こちらの思考を読んだかのように、魔王は話しかけてくる。
『汝は余にその身体を明け渡すためだけに存在しておる』
「断る!」
『そのままでは、すぐに死ぬぞ?』
「……構わない」
思わず笑みがこぼれた。
「あのさ、人間っていつか死ぬし。それに俺は長生きできる身体じゃないし。こっちの世界に来てから楽しく生きてきたし」
特に思い残すことはない。欲を言えば、あの言葉にエルフリーデがどう答えるか、知りたかっただけだ。
もっとも、深い意味は知らないだろうが。
「あなたにこの身体を渡して死ぬつもりもないけどね!」
最期の力で抗ってやる。達樹は思わずにやりと笑った。
『不遜な!』
「お互い様!」
おそらくアネッサ嬢を誘拐したのもこの魔王だろう。シスが召喚術を使うのを見越したのだ。
黒い闇は負の感情。それがない人間など存在しないだろう。いたら見てみたいものだ。だから、その負の感情には抗わない。
こんな時にどうして思い出すのかな、思わず達樹は苦笑した。
達樹の中に流れてきたのは、全てを悟り、殺されることを受け入れた母と、どこまでも能天気なエリだった。
そして、そこから走馬灯のように記憶が走っていく。
千紘たちとの出会いと、共に過ごした日々。
異世界に召喚され、シスと会った時。
エリザベスや魔物たちを巻き込み、自治領、そして守るものを決めた時。
エメラルドのつっけんどんな態度。
そして、エルフリーデの弱くも強くあろうとする心。
心地いい。
自分の死に場所は異世界なのだと、達樹は痛感した。
だったら、守らないと。
そう思った瞬間、達樹の周りを囲っていた闇が消えた。




