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「魔王様」の定義  作者: 神無 乃愛
「魔王様」の定義 本編
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サキュバスとの交渉です


「どうして、達樹さんああなっちゃったんでしょうか」

「俺に聞くな。お前だって二十年近くあっちにいたんだろうが」

「そうですけど……。達樹さんっていつも本心を隠してるっていうか」

「その通りだな」

 千紘は珍しくエリとまともな会話をしていた。

「女王の話では、『人殺し』といわれもない侮辱を受けたそうだ」

 インキュバスの王の言葉に千紘はたった一人思い当たる女性がいた。

「何かされてたな、あいつ」

 そこで席をたち、千紘は翠と共にアネッサ女王の元へ向かった。


 こちらで謝罪をするいわれはない。それが千紘と翠の共通した見解だった。


「謝罪はせぬとな!?」

「可愛い達樹()がああなるまで手酷いことをしたと考えるのが、当たり前だろう?」

「惑わせて良し、そう言うたなはそちらであろ?」

「限度ってもんがあると思うぞ。あんたらにしてみれば達樹はまだ子供だろうが」

「戯言を!」

 千紘と翠の言葉にアネッサ女王が激怒していた。

「戯言だろうが、世迷言だろうが何でもいいんだけどね」

 唐突に割って入ってきた声。

 その先には達樹が微笑んで立っていた。


「まぁ、俺も悪かったと思うよ。あそこまで酷いと思わなかったし」

 達樹は一歩ずつアネッサ女王に近づいていく。

 千紘たちはそれを止めようとするものの、達樹にやんわりと拒絶された。そしてエルフリーデを頼む、と。

「ごめんね? あそこまであの女(、、、)に似てると思わなくてさ。迂闊だったよ」

 達樹が「あの女」と呼び、蔑むのはたった一人、達樹の継母だ。

「本当に、嫌になるくらい似てるよ。あの女に。あなたが女王でなかったら、話する価値すら見出せないくらいだ」

 それだけ言って、達樹は座っているアネッサ女王のあごを掴んで目線を合わせていた。

「ねぇ、あなたは今でも俺を御しやすい愚かな男、そして子供だと思ってるでしょ」

 ぞくりとするほど冷たい声。まずい、このままではアネッサ女王が危ない。

 アネッサ女王に何かあった場合、サキュバス族どころかインキュバス族まで敵に回ってもおかしくない。

 思わず翠に目配せした。

 翠も黙って頷いてきた。


 だが、動くことはできなかった。

「もの凄い屈辱だよね。男を手玉に取ることができないどころか、男に手玉を取れれるってさ。しかも自分よりも遥か下の人間の子供。どうする?」

「な……何が言いたい!?」

「もう、あなたは贖えないはずだ。選択肢はほとんどないはずだよ。

 誘惑すら効かず、拒絶されたと一族内に知れ渡ってしまうか、俺の誘惑に乗るか。……それとも、俺の提案に乗って、全てを『なかったこと』にするか。どれが賢いかは、聡明な女王なら分かるはずだ」

 アネッサ女王の座るソファに膝だけを置き、顔を近づけていく。

「……わ……分かった。そなたらの提案に乗ろう!」

 くすり、そう微笑む達樹の瞳は何の感情も写していなかった。



 宿屋に戻った達樹たちは、明日ここを出ることにした。そして、一つだけ掴んだ情報、確かに人間(、、)のアネッサはここに来たらしい。一人の男と一緒に。

 だが、そのあとの足取りが掴めないそうだ。

 一人部屋で休むことにした達樹の元へ、エルフリーデが一人でやって来た。

「今日は近づかないで」

 攻撃的になっている自分がいる。何をするか自分でも分からないのだ。

『あなたは、やさしいひと』

 たどたどしい日本語でそこに記されていた。

 ひょいとエルフリーデを抱えて、達樹は皆のところへ向かった。

「あ、お帰りになるんですか?」

「うむ。国交も無事継続できるとのことだ。タツキよ、世話になった。何かあれば我のところへ来てくれ」

「いいんですか?一応『伝説の勇者』とやららしいですが」

「その話は聞き飽きたな。タツキのとりなしがなければ、おそらくここまで上手く交渉は進まなかったはずだ」

「では、何かあった場合は遠慮なく頼らせていただきます。領民に迷惑をかけない程度の淫惑なら認めますから、正式に国交結んでおきますか?」

 その言葉にインキュバスの王が喜んでいた。

「まことか!?」

「翠兄、説明して」

「……ったく、そこで俺に振るな。

 淫魔族にとっての食事を俺たちはとがめること出来ない。ただ、行き過ぎた行為はこちらとしてはいいものじゃない。だから『適度』に性を吸うくらいなら認めるって話。これはあんたの国に入ったときから俺たちの中で、出てた話だ」

「ありがたい。やはり人間のかもし出す欲混じりの性は、美味でな」

「では、何かのご褒美のときくらいにしておいてください。それから数人性を吸うことを禁じている人がいますので、そこは悪しからず」

「承知した。そなたらの望みのままに」

 インキュバス族にとって有利な条件に見えて、実は達樹にとって有利な条件だとは、インキュバス側は誰一人気付かなかった。


 インキュバス族たちが去って間もなく、アネッサ女王が一人のサキュバスを伴ってこちらへ来た。

「条件は飲んでいただけますか?」

 正直、この交渉すら達樹は千紘たちに任せたかった。

「飲むぞ。わたくしの名において、……」

「そうですか。では、引き続き情報をお願いします。俺たちは明日にでもこの地から出ますので、誰か情報共有できる人物を……その方以外で」

「!!」

「そうですね……あなたの前に俺のところに誘惑に来た方を指名したいくらいです」

 勿論、拒否権などあるはずもない。

「あれは……」

「えぇ、あなたの跡継ぎでしょう? だから最適だと言っているのです。飲めませんか?」

 飲まねばもっと酷い条件を叩きつけてやる。

「達樹!!」

「答えは明け方まで待ちましょう。飲む振りをして違う女性を連れてきていただいても差し支えはありませんよ。そうすればあなたがどうなるか(、、、、、)分かっているでしょう?」

 これだけで十分だ。


 達樹はアネッサ女王を通り過ぎ、扉へ向かった。


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