達樹の負け
今回開催された国と交易がもてなかったことが、達樹としては心残りではある。
元々、自治領時代に隣の国と交易の文面を交わしているので、早急に必要なものではない。その国も小さな王国だったな、と達樹は思った。
自治領がごっそり抜けてしまったことで、エーベル王国との行き来が出来なくなったそうで、侵略の心配がなくなったと「お礼」が来た。
あの狸爺はやはり強かだ。本日はその狸爺こと、フルム王国国王と神殿の鏡越しでの対話である。
「こちらからは砂漠の特産品を卸したいと思ってますが」
『左様か。こちらからは塩の他に麦等を出させてもらおう。流石に一気に主食が変わってしまえば、住民も混乱するであろう?』
老獪な王の言葉に達樹は苦笑するしかない。
ソルトと渡り合えたのも、この王と事前に話し合っていたおかげだと思っている。
『今までどおりこちらとしてはドワーフの作った武器とこちらから産出している鉱物への細工、それから織物をお願いしたい』
「その依頼があるだけでこちらは助かります」
特に織物産業は住民たちの内職として盛んである。日中日差しが暑いので外に出るのを最小限にするよう言ってあるので、どうしても内職に力が注がれる。
砂漠は朝晩の温度差がかなり激しい。オアシス内であるからこそ、そこまで酷くはないが、どうしても冷暖房が必要となりそうだ。
『そちらの特産品は他に出そうかの?』
相変わらず食えない爺だ、そう思っていると傍にいたソルトたちも苦笑しているようだった。
「そちらでは手に入らぬこちら特有の実くらいであろうな」
『ほほう、そのうち食してみたいものよ』
ソルトの言葉にもフルム国王は笑って返してきた。
とりあえず最近までで分かったのは、何とかこの地域は小麦が取れること、そして綿花が取れるということだ。そして特有の果実。
「家畜と他の野菜栽培に力入れさせないとね」
「あの綿をどうするつもりだ、王よ」
「俺たちのいた世界では綿花と呼ばれていて、衣類の元になったんだ。あとは、医療で使う脱脂綿とかそういったものにもなったよ」
「ふむ、ではどのようにしてあの綿を布にするのだ?」
「それが分からない」
そこまで達樹だって博識ではない。ただ、ドラゴンフルーツと呼ばれるものが、サボテンの実であること、――これはソルトの言う「こちら特有の実」のことだ――あとはサボテンの茎を料理に使っているということくらいである。
「タツキ様、綿のことでしたらフルム国王が詳しいですわよ」
「!?」
エリザベスが当たり前のように言ってきた。
「あの王は強かですから、そういたお話はしていないかと存じます。羊毛しかこちらには渡して来ておりませんが、あちらの特産品です」
「あ~~~~!! だからあの王以外とも交易取りたかったんだよ! 他にも絶対隠してる!」
「タツキが言っても真実味がない。タツキもフルム国王に隠していることは多いはずだ。例えば麦、とか」
「あと葡萄だよね」
シスの言葉に千夏が畳み掛けてきた。
「もう一回フルム国王と話するから。まずは技術者確保が先!」
こうなれば自棄である。
フルム国王に、珍しい果実を渡す約束をしてこちらに何とか数名技術者を渡してもらえた。
 




