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「魔王様」の定義  作者: 神無 乃愛
「魔王様」の定義 本編
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エリとエルフリーデと食糧事情


 エルフリーデ相手に無茶苦茶なことはしないだろうというのが、千紘の見解である。

「珍しくタツキが心配性になってるね」

「……ずっと一番下だったから、面倒見れる対象がいるってのがいいんだろ」

 一番の理由はこれだろう。それにしても話は進まない。

「『議会は踊る、されど進まず』……か」

「何だい? その名言は」

「俺たちのいた世界での名言だ。互いの利益ばかりを追い求めて、議会が進まない時に言ったりするな」

 くつくつとシスが笑っていた。

「その通りだね。タツキが最初に出していた希望すらこちらでは蹂躙されている。これをチヒロたちはどう見ている?」

「どうもこうも……あいつ一人に今日の全権委ねたことをすさまじい勢いで後悔している」

 千紘の懺悔ともいえた。エルフリーデの世話役として、互いの国が一人ずつ世話役を出すということで、満場一致で千佳がついて行ってしまった。侍女たちまで千佳を推すとはどういうことだと思ったが、「エルフリーデ様には沢山の侍女をこの国でつけるでしょうから、海千山千のチカ様が適任です! エリ様にあの連中は侍女をつけないでしょう? ですからわたくしたちがお世話させていただきます!」と異口同音で言われた瞬間、達樹の策に侍女たちも乗せられたことに気がついた。

「長男は苦労性だとチカとカナトが言っていた。長男という括りが僕には分からないが、チヒロを見ていると、チヒロのための言葉だと思ってしまうよ」

「……的確な慰めをありがとう」

「僕も不安を覚えているからね。あの連中、タツキの思惑通りに動いてしまわないかな?」

「動くさ。ソルトと話し合いをしたことはあるか?」

「ある。末恐ろしいお方だと思ったよ。こちらの意見を聞くが、一切の妥協というものをしない」

「そのソルトと対等に渡り合ったんだぞ」

「だから僕も懸念している。……各国が一人ずつ出し合うことで話を進めるというが、向こうとしては四対一だと思って楽勝だと思い込んでいる」

 そこにつけ込むのが達樹だ。他の面々の影に隠れて無能者を装っているが、達樹の無茶振り的な提案をそちらに呑ませないようにするために、どれくらい千紘とシスが動いているか分かっていないだろう。

 二人からほぼ同時にため息が出た。

 そんな二人に自警団から来た男と侍女は苦笑していた。



「ふざけるな!」

 外から聞こえてきたエーベル王国国王の声を聞いて、二人はまたため息をついた。

 おそらく、四者の思惑がかみ合わないところを達樹が的確に突いて、話し合いは決裂したのだろう。

「だから達樹一人を行かせるのは反対なんだ」

「同感だね。ただ向こうがそう言ったんだ。僕たちに不手際はないよ」

 ぎぃっと扉が開いて、達樹が入ってきた。

「この先は、各代表者との個別協議になるから、シス、記録係の神官を一人出して欲しいんだ」

「僕では駄目なのかい?」

「シスと千紘兄には一緒に来てもらうよ。あと二日でけりをつけたいから」

「つまり、シスが話し合いに同席するから別の神官に記録してもらうということか」

 その言葉に達樹はにやりと笑った。その顔が千紘とシスの不安を増大させる。

 おそらくはどう「処理」するか腹の中で決まっているのだろう。

「あ、エーベル王国もグレス聖王国も多分今日中に決めたいんじゃないかな? 何せエーベル王国では革命が、グレス聖王国ではクーデターが起きたみたいだし」

「!!」

「考えてみれば分かるでしょ。この時期によく国を離れる気になったなと思うよ。俺は数日で解決するつもりで来たし、エリザベスさんや哉斗兄たちを留守番に頼んであるんだよ。向こうは腹心を置いてきたと思っていたみたいだけど、あっさり陥落しちゃった」

「『しちゃった』……て何をした!」

「特別何もしてないよ? グレス聖王国に対しては、『罪人であるリュグナンを国王が庇うかもしれない』って言っただけだし」

「……誰に?」

 これはシスの口から出た。

「グレス聖王国から来ていた使節団の人と神殿の人にだよ。そんなそぶりを見せてたでしょ? それに俺は『かもしれない』ってしか言ってない。つまり、それくらい信用がなかった。だから二ヶ所は最初から崩れてた。エーベル王国に関しては、……あの阿呆の顔も見たくないんだけど」

 よほど酷かったと見えた。そしてこの国の王に対して、最高のもてなしをしろと二国が言っていたそうで、それに対してこの国の王が反発していたのだそうだ。

「翠兄に城下で色々情報収集と購入をさせてたのがいいように出たみたいだよ。そんなことしていたのは俺たちだけだってさ。

 しかも、城下で購入した食材で俺たちは調理して食ってるでしょ? だから俺たちのところに世話係が必要ない、それがまたあちらとしてはあり難かったみたいだよ」

 あの馬鹿共より交渉が面白いと達樹は笑っていた。

「こことは個別に国交を持ちたいと思ってるよ。農業も盛んなようだし、一昨年から農業も豊作で値崩れしそうな勢いみたいだし」

「それは誰情報だ?」

「翠兄情報。ちょっと多めに食物を買っていこうかと思ってるよ。適正な価格でね」

「……市場からの直接購入か」

「あたり。王室通すのは今度だね」

 達樹と千紘の会話についていけなかったシスが、二人を交互に見つめていた。


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