新しい国にいけました
本来であれば達樹たちは「侵略された」側であり、防衛しきっていることから「戦勝国」であるとも言えた。
実のところ開催国も日程も全て達樹たちが決めれる立場にあったといえる。
それをあえてあちら側に譲ったのには訳がある。
そして、予想通りの国が選ばれた。「第三国」ということを謳っているとはいえ、達樹たちが治める自治領よりも小さい国、そしてグレス聖王国とエーベル王国に恭順を示している。つまりは魔物や魔族といった人間以外の種族に対して他排的といえた。
まずはそれでいい、そう思うのは達樹だけだろう。
ソルトが手配してくれたギルタブルルの二人には、まず差別対象になるだろうと伝え ておく。それだけで、クンツォーネまで行きたいとのたまいだし、それだけは止めておいた。
こちらの弱味は少ないほうがいい。
こちらは使節団と言っていいくらい大きな規模になっていた。
まずは達樹、そして千紘。千紘は達樹のストッパー役兼、主治医的立場として。
翠。哉斗の代わりの護衛であり、素材等を吟味するにはもってこいだそうだ。
千佳。千夏では暴走しかねないとの事と、やはり達樹のストッパーだという。
シス。自治領の神官長という役目と、捕虜預かりの件、そして向こう側の神官がこちらの指示した相手なのかを見極めるためという、かなり面倒な役目を一気に押し付けられている。その為、供の人数も一番多く十人いる。
エリとエルフリーデ。そしてその二人の身の回りの世話をする侍女が数名。
そしてギルタブルルの戦士二人と、自警団から護衛としてかなりの人数。
正直、「護衛は自警団からの護衛はもっと少なくていいんじゃね?」という声も聞こえてきたが、あえて人数を多くした。
理由として、ギルタブルルの戦士と盟約を結べたことをあげている。
ギルタブルルの戦士と自警団で連携を結び、この先動いてもらった方がいい。だからこそ、自警団からの護衛を増やしたのだ。
今、自治領内では砂漠の魔物狩りを奨励している。
達樹たちが「魔物」と括るのは、こちらに害意を持ち、攻撃してくるものたちだけだ。向こうの縄張りに入らなければ、攻撃してこないものは数に入れていない。そのあたりをギルタブルルの戦士に教えてもらうという狙いもあった。
そして、もう一つ奨励しているのは植林である。
そこまで大規模ではない。こちらで使う分を植える、そして伐採した分をまた植えるだけだ。オアシスの砂漠化を防げれば問題はない。
このあたりの適度な量もやはり、ギルタブルルの戦士たちの手助けがないとやっていけないのだ。
それを一番痛感しているのは、住民たちといえた。
今回の一件は、魔物に対して差別意識を持つ住民にとって衝撃的といえよう。自分たちを襲ってきたのは同じ人間で、自分たちを助けてくれたのはご近所の自警団と達樹たち、そしてギルタブルルの戦士なのだ。
今まで教えられてきたものは一体なんなのか? そんな声もかなりあがっていた。
達樹はそれでいいと思っている。
元々、シスを初めとした自治領内の神官たちは魔物に対して寛容であった。一部、エーベル王国やグレス聖王国側についていた神官だけが差別していたに過ぎない。
いきなり認識を変えるのは難しい。それだけは徐々に変わっていけばいいと、自分の目を信じて動けばいいと住民に伝えてある。
話し合いの場は、宮殿の中だった。「魔物お断り」といわれ、ギルタブルルたちは入れない。それを逆手に、入りきれなかった護衛たちと訓練をしているあたり、強かだと達樹は思う。
スマホはレコーダー代わりに使える。そんなことを教えてやるほど達樹は人間が出来ていない。
エルフリーデは「聖女様」であるから、神殿の置く深くへと当たり前のように向こうが打診してきた。
「どちらのエルフリーデ様を?」
その言葉に、その場が凍りついた。
「私はずっと神殿を通して全ての話を公表していたはずですよね? 勿論、各国の王へも同様の手はずを整えておりましたが」
神殿を通せば大体の国の位置が分かる。それを逆手に取り、神殿の他に「こっそりと」各国へも知らしめていた。その中には、エルフリーデは双子であり、銀色の髪と黒色の髪だと伝えてある。
二人を、と言わないのはわざとなのか。達樹がどちらかを「聖女」にしろと言われたら。間違いなくエリの方を「聖女」として、エルフリーデを匿う。
能力の差とか、贔屓目とかではない。適材適所とでも言わせてもらう。
エリをその辺に放置したら、何をしでかすか分からないし、失言も多い。「聖女」として振舞わせ、多少黙らせておけば、迷惑を被る度合いが低くなる。
一方、エルフリーデを「聖女」にしてしまった場合、物言わぬことからいいように扱われてしまうだろう。
勿論、これもある種の贔屓目であることに達樹以外の仲間が気付いていた。
そして、エルフリーデを神殿側で連れて行った。




