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「魔王様」の定義  作者: 神無 乃愛
「魔王様」の定義 本編
42/91

領内で戦は二度としたくありません


「お前が自治領(ここ)の王で指揮官だ! それを忘れるな!」

 あえて敵にも分かるように千紘は声をあげた。達樹がそれ(、、)を自覚してくれるなら、多少の危険などどうでもいい。

 既に敵方とは命の取りあいだ。相手を殺さなければ、こちらが殺されるのだ。それを達樹は忘れているような気がしたのだ。

「そう……だね」

 寂しげに笑う達樹()を千紘は黙ってみていた。

「敵は全て城外へ、そしてオアシスの外へ。直接手を下すまでもない。

 俺たちが相手をすべきなのはそこの似非(エセ)副司祭とその甥っ子だけだから」

「承知した! 全員にエリ!」

「わわわ分かりましたぁぁぁ!!」

 空間を繋ぐ魔法をエルフリーデが使い、その間にエリが全員にメールを配信する。


 それを受け、他の面子も動き出す。


 千佳と千夏は住民の避難を。

 自棄になった敵に暴力を受けないように。

 味方の神官と自警団、そして翠と哉斗は敵を砂漠へと押しやっていく。


 敵から見ればオアシスに逃げるようなものだ。楽だと思ったのだろう。


 実は自治領には「開かずの門」がある。以前であれば、他国との国境に面しており、エーベル王国に攻め入られた時に他国へ避難する為のものだった。

 今回はそこを開ける。

 開けた先には気候の厳しい砂漠が待ち受けているのだ。

 魔物にやられるなり、干からびるなりすればいい、それが達樹からの指令だった。


 シスは今、達樹の名代でグレス聖王国へ「宣戦布告」をしている。

 原因はリュグナン副司祭とその甥の蛮行だ。

 この一件に対し、グレス聖王国からの「正式な」謝罪がない場合、どこからでも攻め入れるぞ、と脅しをかけておくくらいのものだが。

「戦争にはならないよ」

 断言したのは達樹だった。おそらく、グレス聖王国へも工作が進んでいたのだろう。いつの間に……と皆が思うが、口出しさせないオーラを放っていた。


「リュグナンさん、あなたはせっかく自分の派閥を築いたのに、一晩で駄目にしましたね」

 達樹はにっこり笑ってリュグナンに言った。

「……どういう意味だ」

「『聖女様奪還』の御旗をたてたところまでは褒めて差し上げます。でもねぇ……色々迂闊すぎ。どす黒いオーラがそこまで漂ってたらね」

 これも嘘だ。リュグナンの派閥はそこそこ大きいと聞く。だから、そのリュグナンを叩き落したい派閥だって神殿内には存在する。

 達樹はそこをついたのだ。

「聖女様」をリュグナンが監禁して、力を奪い我が物として使っていたとか、先代「聖女様」をリュグナンが殺して今の聖女様をその地位につけ、我が物顔で「聖女様」を慰み者にしたとか、リュグナンは実は魔物だとか、リュグナンは魔王の配下で神殿の力を弱めさせる者だとか、その他色々、リュグナンに悪い噂ばかりがたった。

 嘘と真実を混ぜると、真実と嘘が分かりにくくなるが、今回はリュグナン側から見れば悪い方向にしか向かなかった。


 何故なら、今までリュグナンとその甥が支配する城に「聖女様」がいたという事実は変わりなく、そして「聖女様」は魔界にいたこともあるという事実(、、)を「聖女様」から語らせたのだ。

 それだけで、リュグナンに対する不信感というものが大きくなる。そこを達樹とシスはついたのだ。

 グレス聖王国にしてもそうだ。収賄の事実を隠していたからこそ、それが明るみにでて、民衆や高潔な神官たちが離れたのだ。

 隠さず、「こういった事実の元にもらい、このように使った」としっかり表明すれば、問題はなかったのだ。


 あくどい、という意味でなら達樹のほうがあくどい。そして酷いはずだ。それを隠さず、どう使ったかを民衆にまで分かるようにしたため、問題になりにくいだけだ。


 臭いものほど蓋をしないほうがいい。それが達樹の座右の銘だ。



 哉斗と翠はこちらに味方する神官や自警団と共に、神殿から沸いてでたグレス聖王国の自称「聖騎士」や、神官、そしてエーベル王国の兵士たちを倒していく。

 今までと違い、魔物ではない。同じ人間。

 血飛沫が飛び散り、相手が絶命するのをこの瞳に焼き付けた。


 これが自分たちの仕事。達樹の汚れ役。

 その言葉に異を唱えるのは、達樹だろう。哉斗たちが殺した人間は、とどのつまりは達樹が殺したも同じだと。

 そんな優しい心を守るために、哉斗と翠は剣を振い、相手を砂漠に追いやっていく。


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