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「魔王様」の定義  作者: 神無 乃愛
「魔王様」の定義 本編

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40/91

一応、お祭りですが?

 達樹たちは浮遊している自治領に戻り、ソルトの指示を待った。


 自治領を定着させるための場所はギルタブルルの部族に一任している。

 おそらくは数度くらいギルタブルルの部族と自治領内の住民でいざこざが起きるだろう。


 ソルトや、屈強な兵士が達樹を「王」と認めたところで、侵略してきたことには間違いない。しかも自治領内には「間違いなく裏切る」輩が数多いる。それを一掃し、ギルタブルルの部族と自治領内の住民の間にある垣根を低くすることが先決だ。


 ソルトたちに導かれ、自治領をおいたのはオアシスと続きになる砂漠だった。

 勿論水脈もあり、これから砂漠も育つ食物を自治領内で育てていく。おそらく今まで育てた樹木ではなく、砂漠に見合う樹木を育てることになるだろう。

 これからは塩が高価な取引となる。

 気候的にどこに属するのかによって、育てる産業として興すものが変わってくる。

 地上に置いた直後から達樹が色々考えていると、「我が王は勤勉なのだな」とソルトに笑われる羽目になった。


 この砂漠とこの地域の王として、達樹は即位せざるを得ない。

 そのためには民の信任が必要だ。


 それをあっさりシスと哉斗によって承認された。千紘のほうにばかり注意していたが、どうやら発端人は哉斗だったようだ。そこにエリザベスも加わり、あっという間に王として承認されてしまった。

 これでは自由がきかないではないか。


 定住の地を決めたことと、達樹の王即位の祝いとして「祭り」が始まった。


 達樹から見れば「狩り」の始まりである。



「おう! タツキ! 飲まねぇのか?」

 いつも行く酒場の店主が気安く声をかけてきた。

 達樹が王になってもこの店主のようにまったく変わらない人もいれば、かしこまって話しかけてこない人もいる。

「俺酒飲めないって、昔から言ってるでしょ?」

 わざと大きな声で達樹は言った。

「なんでぇい? せっかくお前の祝いだってのに」

「薬飲んでるからね。その薬がないと大変だし。薬と酒の相性って悪いのが多いんだ」

「本当か!? この間一番でかい倅が風邪ひいちまったんで、『薬師』に頼んで調合してもらったんだが、酒と一緒に薬飲んでたぞ」

「一番悪い例だ。『魔法医師(ウィッチドクター)』としては聞き捨てならないな」

 千紘が話しに入ってきた。

「薬を飲むら、白湯が一番だ」

「初耳だぜ」

「千紘兄、千佳姉ちゃんと千夏姉に掛け合ってそのあたり教育したら?」

「だな。治るもんも治らんし、睡眠薬とかは薬が効きすぎて危ないからな」

 酒場の店主に感謝だ。この店主、ドワーフと意気投合してしまって以来色々と情報を教えてくれる。どうも、金を持っていなかったドワーフに酒を飲ませたら「お礼」として包丁が返ってきたそうだ。この包丁の使い勝手のよさに、惚れたらしい。

 こういう人物は少数派で、いまだ差別意識は残っている。

 子供同士のほうが、交流は盛んだ。


 酒場の隅で、動く男が数人いた。

 さて、祭り開始である。



「王からの差し入れだ!」

 そう言ってどこからともなく差し入れが来る。自警団の屯所にも、神殿にも。

 ありがたがって飲む連中を、一部の人間が冷めた目で見ていた。


「その酒、飲むな!」

 神殿で唐突にいったのは、シスリード。屯所では哉斗だった。

「毒か睡眠薬が入ってる。達樹は差し入れを用意していない」

 その代わりに、自治領内でかかる本日の金は全部達樹もちという太っ腹にしたのだ。

 例外として治療院の中のみ、達樹から豪勢な差し入れが入っている。当直にとって祭りの雰囲気を味わえないのは不憫ということで、その辺の食堂や酒場では飲み食いできないものばかりを集めている。ただ、酒がないというだけで。勿論、終わった後にはこれまた高価な酒を一瓶ずつプレゼントする手はずになっている。

「第一、達樹がこんな安っい酒を差し入れすると思ってんのか?」

 そういいのけたのは哉斗だった。

「あいつは飲めない分、そういう気配りが出来んだよ。酒に関しては俺と翠が差し入れする分を決めたんでね。そんな低級な酒じゃないのは俺がよく知ってるさ。食い物だって、こんな見た目だけのもんじゃねぇ。こんなん食って喜ぶのは貴族だけだ。お前らが美味いと言ってた食堂や酒場に掛け合って、あいつが用意させてっからな」

 この言葉は魔法を通じて神殿にも届けられた。酒を決めたのは屯所にいる自警団、そして食べ物は神殿の人間だろうと、シスも言う。

「そうでなければ、こんなちぐはぐな差し入れなんて起きない」

 ぞろぞろと神殿の転移装置から兵士や神職が現れた。あまりにも達樹の読みどおりで、シスとしては呆れるしかない。

 まったく、愚王二人とその側近が束になっても達樹には叶わない。

 シスは心のそこから実感した。

「グレス聖王国の戦士よ。どうせなら、その「神の恩恵」を受けた剣とドワーフの創った剣のどちらが強いか試してみないか?」

 いつの間にか来ていた翠が相手を挑発した。

「そのような魔物が創った剣など、我らの剣の前には無意味!」

「やってやろうじゃないか!」

 自治領内で諍いを起こすわけにはいかない。だから神殿内で終わらせるしかないのだ。

一応(、、)剣の心得はあるぞ」

 不安そうに見ていたシスに、翠は笑って答えた。



 起こりうる全ての事象が揃ったところで、達樹は酒場をあとにした。

「ソルト、外敵からの守りを。内の守りはこちらでするから」

「御意」

「千紘兄、エリさんとエルフリーデさんのところに向かおう」

 今、動けるのは千紘と達樹のみである。


 おそらくリュグナン副司祭が動くはずだ。


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