定住場所が決まりました
唐突にたったアンテナと、すぐさま送られてきたメールを見て千紘は苦笑した。
自治領側の動きは達樹の読みどおり。
あとはギルタブルル側との交渉が上手くいくか、である。
「チヒロ……」
「翠からだ。あちらは動いたみたいだ。あと三十分して達樹が戻らなかったら、俺たちも動くぞ」
「タツキを見捨てるのか?」
「見捨てたくはないんだがな」
三十分して達樹が戻らなかったら見捨てて動き出せ、それが達樹から言われたことである。
もう一箇所、目星をつけていて、そちらに移動し交渉すれば問題ないそうだ。どこまで計算しているかがまったく分からない。それが弟だ。
「……とりあえず、達樹の意思を無視するわけにはいかない。とりあえず戻る。一両日上空で待機して、達樹が戻ってこなかったら最悪パターンを想像して動くしかない」
「僕は、ここで達樹が来るまで待ちたい」
「シス?」
「達樹がこちらに来たのは僕が呼んだからだ。だから最後まで僕が責任を持ちたい」
「だったら俺らと一緒に来い。全部終わったら達樹はともかく、俺は戻りたい」
「……もう一人、時空移転できる神官がいれば、僕はチヒロの申し出を断れるのに」
「阿呆。シスが呼んだから、あいつは協力しようと思った。あいつは基本的に自分に益が無ければ人助けなんてしない」
その言葉に、シスは驚いて千紘を見つめた。
ただひたすら、二人で達樹の無事を祈るしかない。それが歯がゆかった。
三十分という、達樹が指示した時間は二時間前に過ぎた。それでも二人は動けなかった。
そろそろ……なんて言葉はどちらからも出なかった。
もうすぐ日が暮れる。
砂漠の夜は寒いのだ。
「……シス? 千紘兄?」
飄々とした声で達樹が戻ってきた。
「俺、三十分したら動けって言ったよね」
「生憎僕はそちらの時間単位は分からない」
さらりとシスが誤魔化した。こちらの世界とあちらの世界の時間単位が一緒なのは知っている。
「俺の時計も三十分経ってないぞ」
「……まったく……どうして」
「賭けは我の勝ちのようだな、我が王よ」
ギルタブルルが笑って言った。
賭けの内容を聞いて呆れしまった。
もし、達樹の言う通りに自治領が移動していた場合、オアシスから離れた水脈を教え、そこに定住をさせる。
自治領が移動していなかった場合、オアシス近くに定住を許す。
千紘たちがまだその場で待っていた場合、達樹はこのオアシスの王になるというものだったそうだ。
「俺、王にはなりたくなかったからさ、自治領移動なしに賭けてたんだ」
「自分の命を賭けに使うなとあれほど言っただろうが!!」
「どうやら我らが王は強かなようだ。流石、我らの戦士を相手に交渉しただけはある」
百対一、これで交渉したという。呆れ果てて開いた口が塞がらなかった。
「我はこのオアシスと王を守るギルタブルルの部族が一、長のソルトと申す。この先、王を戒めるにあたり、そなたらの助けが必要だ。よろしく頼む、チヒロ、シスリード」
「シスで結構です。ソルト殿」
「『殿』付けなど要らぬ。呼び捨てでよい。早々に悪い芽を摘んでしまおうかと思っておる」
「同感です。……達樹、策は?」
「色々。降りたあと、お祭り騒ぎをしようと思ってるんだけどね」
そこで罠にかけるつもりなのは痛いほどによく分かった。




