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「魔王様」の定義  作者: 神無 乃愛
「魔王様」の定義 本編

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34/91

いつもと違うと戸惑います


 色々達樹に聞きたいことはある。だが、エルフリーデ()はこちら側の誰かを通さないと達樹に聞けない。

「俺に聞きたいことあるんでしょ?」

 にっこり笑って達樹が言う。

「あまり表情にそういったものを出さない方がいいよ。明日は孤児院に慰問してもらうから」

 これは「聖女様」としての仕事だと達樹はあっさり言いのけた。そして、その慰問に付き合うのはエリザベスとシスリードだと。

 お前は行かないのか、という無言の問いに達樹はあっさりとこう答えた。

「こっちで『仕事』残ってるし、俺子供に嫌われてるからね」

 もの凄く納得がいく台詞だった。


 その夜、エルフリーデ()から心話が入った。

――今から達樹さんのお部屋にいってもらえますか?――

 魔王と達樹を恐れているエルフリーデ()らしくない。

――どうしたの?――

――千紘さんが、そろそろ危ないからって。薬が近くに置いてあるならいいですけど、ないと大変らしいので。……それに今の季節って達樹さんにとって「地雷」なんです――

――どういう意味?――

――えっとですねぇ……。一応千紘さんの許可をもらってから話します。エリザベスさんは絶対に達樹さんのお部屋に近づけないでください――

 滅多にない指示だ。

――あ、簡単に許可が降りちゃいました。「心話」も千紘さんには教えてます。今って冬にさしかかってますよね? 達樹さんのお母さんが殺された(、、、、)季節なんです。殺したのは、……多分ですけど達樹さんのお父様と継母さんなんです――

 そして、エリザベスの気性は達樹の母親とそっくりなため、混同してしまうと後々大変らしい。

――なので、情緒不安定だと達樹さん、軽い発作を起こすんだそうです。だから、お願いします――

――分かったわ。行ってみるから――

 今一緒に居るのは、偶然にも千佳だ。薬のことにも詳しいだろう。


「どうしたの?」

 部屋に行けば、意外にも達樹はいつも通りだった。

「大丈夫なようで何よりよ。兄さんも心配しているみたいだし」

「皆心配性だなぁ」

 苦笑して達樹が言う。

「時期だから。皆ピリピリしてるの。薬の方はいる?」

「ん。さっき飲んだよ」

「ならいいけど」

「初めてかも知れない」

「達樹?」

「お母さんの墓参りに行けないのって」

 母親のいない、エルフリーデ(姉妹)たちには分からない言葉だった。

「……そうね。小母さんの命日にはなるったけ墓参りしてたものね」

 その言葉に達樹はくすりと笑った。

「まぁ、実行犯には制裁加えたからいいんだけどね。……指示した奴は今頃終わってるし」

「……達樹?」

「あ、知らなかった? あれひき逃げとして警察は扱ってないんだよ。『殺人』として扱ってもらえるように翔小父さんに俺が交渉したんだ」

「……まさか……」

「そう。そのまさか。俺が二十歳になったからそろそろ翔小父さんも動くつもりだったんだよ。そんなことをしているうちに、収賄容疑とか色々叩けば叩くほど埃が出てきて大変みたいだったよ」

 ぞくりとするほど、達樹の瞳は冷たい。それで笑っているのだ。恐怖しかない。

「翔小父さんは俺の『制裁』をどうして黙認したと思う? 簡単だよ。もっと大きな事件を俺が与えたから。……勿論犯人ごとね。

 あとはあれ(、、)に対する証拠を延々と集め続けてたんだよ。流石に幼馴染があんな風に殺されたら、誰一人黙ってなかったみたい」

「お父さん、お母さんも知ってるの?」

「勿論。真砂子小母さんも知ってるよ」

 そんな話、どうでもいいじゃん、そう達樹は笑う。

「エルフリーデさんには納得できない話みたいだね。育ちが違うんだから納得してくれなんて言わない。もう終わった話だし」

 その言葉にエルフリーデ()は達樹の腕を掴んだ。

 やはり流れてくる、憎悪と後悔の念。後悔は母を守れなかったことだ。幼子がどうやって守るというのだ。

 エルフリーデにも心当たりはある。エルフリーデ()がいなかった数日間(、、、)どれくらい不安だったか。戻ってきたエルフリーデ()は自分よりも二十近く大きくなっていた。「姉さんを守るため」と。そして、ずっとエルフリーデ()に守られてきたのかも知れない。

 ここ二年間の記憶はエルフリーデ()が握っている。そうしないと、エルフリーデ()を守れないと思ったからだ。今にして思えば、それは違った。自己を殺し、エルフリーデ()を守ってくれたのだ。

 達樹の心の波がおかしくなった。

 あの時と同じ。発作が起きるかもしれない、そう思ったら力を使っていた。

「エルフリーデさん、ありがとう」

 そう言って達樹がエルフリーデ()を抱きしめてきた。


 無理矢理の口付けのときとは違い、優しい抱擁だった。


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