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「魔王様」の定義  作者: 神無 乃愛
「魔王様」の定義 本編

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32/91

色々考えてますけど


 武器に属性がつく場合、理由は二つある。一つは、「火」をおこす魔法を誰かが傍で使った場合だ。そしてもう一つ……「鍛冶屋」の持つ属性の魔法がそのまま武器についてしまうのだ。

 逆を言えば、無属性の武器を作るというのは難しい。冒険の序盤にはそういった属性つきの武器を好む。そして熟練し、複数の魔法が使える冒険者は無属性の丈夫な武器を求めるのだ。……そちらには自分の使える魔法を己で付加できるからだ。

 そういった理由もあるのだろう、クンツォーネたちドワーフを含む「鍛冶屋」は無属性の丈夫な武器・防具を作る練習に勤しんでいた。「偶然」で出来る無属性のものではなく、意図して無属性のものを作るために。

 それが異世界人が戻ってくるまでの自分たちの使命だと言わんばかりだった。

「その修行中に申し訳ないけどさ、ダーツ作ってもらえる?」

 そんな大事な修行中に割り込んだのは、勿論達樹だ。

「ダーツってのはなんだ?」

「あ、そこからか。……投擲(とうてき)なら知ってる?」

「投げナイフか。おうよ」

「その一種なんだ。あとで千夏姉に絵を持ってきてもらうから、作って欲しい。修行代わりに」

「で。属性がついちまったものは?」

「俺が使うよ。だから修行なんだ。俺魔法全部使えないし。属性つきあってもいいし」

「お前が言うと胡散臭せぇ」

「それは百も承知。ちょっとね。あと軽量化したナイフも用意して。エルフリーデさんにも教えるから」

 ちらりと一緒に来た(無理矢理連れてきたともいう)エルフリーデを見た。投擲は達樹が唯一出来る護身術である。そして、それを「ついでに」エルフリーデに教えるのだ。

「お前がそういったものが出来んのに驚いたな」

「驚いてかまわないよ。今、俺以外の男連中が出払ってるからね」

「おめぇの最後の手段ってわけか?」

「違うんだけどなぁ」

 最後の手段は誰にも見せるつもりはない。

「あ、あと爆薬用意して。飛び立つ時に……」

「チヒロから聞いてる。下っ端の火属性もちにやらせてるぜ」

 相変わらず、千紘の仕事は速い。いつの間に、そのことに思いついたのか。

「じゃあ、俺が今頼むのはそれくらいだから。クンツォーネさんと数人、無属性できる人が軽量化されたナイフを作って。修行代わりのが俺でいいから」

「聖女様になにやらせる気だ」

 全員の非難の眼差しが達樹に突き刺さった。

「護身術と暇つぶしだってば。今することが少ないからさ」

「胡散臭せぇ」

 どこからともなく、その声はあがった。しかも複数。

「出来ればダーツの方が軽いんだよね。そちらも新しい武器を作るための修行だと思ってよ」

「それが本音か!」

 クンツォーネが怒鳴った。そう誤解されるなら、それでもいい。本当の目的さえ悟られなければ。

「というわけでよろしく」

 このあたりで切っておけば、問題はない。

「何個作ればいい?」

「時間潰しに何個でも。そのうちダーツの絵を持ってこさせるから、それ作って」

 それは飛び立ってからになるが。それは黙っておく。

「聖女様の分は優先的に作らせてもらう。あとは他の武器を作る合間だ」

「それでいいよ。修行が進めばそれでいいし」


 エルフリーデを促して、達樹は鍛冶屋の町を出た。


「あとはエルフリーデさんの服だね」

 ここからはエリザベスの領域だ。既製服(プレタポルテ)の店の前で二人を待つ。エリの服は千佳と千夏に任せてある。エルフリーデはエリザベスに任せるのが一番だと思った。

「タツキ」

 シスが声をかけてきた。

「今回、行った人間と、こちらに留まらせた人間に何か目的でもあるのか?」

 だんだんシスも鋭くなってきているなぁ、と達樹は思った。

「シス、君が誰にも言わないってのは知ってるけど、今は(、、)誰にも言えない。勿論、兄さんたちも全員知らないし、エルフリーデさんやエリザベスさんにも言ってない。移動を始めたらある程度言うつもりだよ」

「……そうか……。……そういえば神殿側の動きが不穏なのだ」

「そんなもの当たり前でしょ。グレス聖王国に盾突いてるとも取れるんだからさ」

「だから自治領全てを移動させるのか?」

「そっちはついでだって。メインはお姫様二人をどうやって守るかでしょ?」

 言外にそれを肯定しておく。

 今回の移動には、外からの侵入を防ぐ狙いがあるのだ。そのためには神殿が近くにあるか、ないかが大きな問題となる。

「そういうことにしておこう」

「アネッサさん無事だといいけど」

「それは僕も思ってるよ」

 シスに一つだけ頼みごとをして、二人は別れた。

 長話の間中、ずっと買い物をしていた女性陣に達樹は尊敬すら覚えた。



「ナイフを投げる時は……。だと結構遠くまで勢いがある」

 しゅん、と一本のナイフを投げた。投擲の練習だ。

「エリさんに関しては千紘兄たちの方がいいけど、エルフリーデさんにいきなりは難しいからね。俺が出来るのはこれくらいしかないけど」

 エメラルドとエリザベスがいる前で教えていく。エリザベスも投擲はやったことがあるらしく、これまた丁寧にエルフリーデに教えていた。

「タツキ様がお出来になるうえ、教えられるほうが驚きでしたわ」

 エリザベスも言うようになってきた。そういった指摘をすると、誰もが「達樹のおかげ」と言ってくる。中には「達樹のせいで上層部の性格が悪くなった」と指摘した住民までいるくらいである。

 言いたいように言える今の環境は、住民たちには最高らしい。酒場も盛り上がりが凄い。産業の発達も目を見張る。好きな職に就くための努力が出来るのがいいと、誰かが言っていた。今までは親と同じ職にしか就けなかったと。

 正直に言えば、達樹たちも向こうの世界で親の跡を継ぐべく頑張ってきた。……他の生き方が出来る世界で、だ。

 逆に選ばなくていい、そう言われても親の背中を見て育ったせいか、それが当たり前だったのだ。……唯一の例外は勿論、達樹だ。だが、達樹も長生きできると分かっていたら、おそらく祖父の跡を継いだだろう。


 絶望と希望は紙一重だ。だから、ここに住む人たちが絶望に押しやられないようにする義務が達樹にはあるのだ。


 その為には、手段など選ばない。



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