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「魔王様」の定義  作者: 神無 乃愛
「魔王様」の定義 本編

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27/91

無知は罪だとあとで言われました

 唐突なその行動に、エルフリーデは硬直した。

 あの冷徹な男とは同一人物と思えないほどの、穏やかな気配。


 総てを包み込むかのような温かさ。

――姉さん、だいじょうぶですかぁぁぁ!?――

 妹の声が心話(しんわ)で届いた。この能力は、二人だけの秘密だ。

――大丈夫よ――

――姉さんが達樹さんに食われないか、心配ですぅぅぅぅ――

 人間をどうやって食べるというのだろう、この妹は。


 誰一人、エルフリーデたちに名前をつけなかった。つけたのはリュグナンだった。

 だが、リュグナンが呼ぶのはいつもエルフリーデ(自分)だけだった。


 だから、二人で一つの名前にしたのだ。


 異世界にエルフリーデ()を渡したのは、エルフリーデ(自分)だ。

 リュグナンはエルフリーデ(自分)を異世界に逃がしたかった。「魔界にいるエルフリーデ様が不憫だから」と。

 おそらく、リュグナンは異世界に渡った後、すぐにこちらの世界にエルフリーデ(自分)を連れてくるつもりだったのだろう。だが、一緒に渡ったのがエルフリーデ()だと分かって、計画が狂ったはずだ。だから、自分だけさっさと帰ってきたのだろう。

 まさか、異世界からこちらに戻す魔法なんて唱えられないと思い込んで。


 エルフリーデ()が戻ってきてくれて嬉しかったのは、エルフリーデ(自分)だ。そして、エルフリーデ()から異世界の話を聞き、羨ましくなった。

異世界(むこう)で私のことを『エリ』って呼んでくれたんです! 姉さん以外で私を名前で呼んでくれる人がいましたぁぁ!」

 その報告が、エルフリーデ(自分)にとってどれだけ嬉しかった事か。いつか、異世界に二人で渡って、そんな人たちに会いたいね、そんな話をしていた。

 それが、あの城で叶うと思わなかった。「おいで」と手を差し伸べてくれたのは、達樹だ。


 あの手を取ってよかったと思うが、それと同時に後悔もする。

 理由は、達樹の手段を選ばないやり方だ。


 気に入らない。エルフリーデ()を躊躇いもなく脅し、話をさせるなど。


 この発作を知って、理由が分かった。

 達樹は急いでいたのだ。


 形振りかまわず、目的を達成させるためだけに。


 この国の人たちを守るために。



 それにしても、達樹たちは「忌み子」に対してあまり嫌悪感を抱いていないようだ。

 そのあたりはそのうち、本人から聞いてみたほうがいい。


 そして、籠にいる妖精(ピクシー)の事も。


 あえていれているのだろう。

 さっきあの温かな気配に包まれ、それが分かった。


 手段と口調さえ変えれば、エルフリーデ()だって彼を「魔王」とは呼ばないはずだ。

 それなのに、その「魔王」という称号が達樹に似合っているような気もする。


――姉さぁぁん。達樹さんに食べられそうになったら、すぐ連絡ください。千紘さんたちと急いで駆けつけますから! どちらにしてもこちらの話が終わったら、もう一度達樹さんの部屋に向かいますぅ――

 達樹は食人鬼なのか? だからエルフリーデ()エルフリーデ(自分)が食べられると思い込んでいるのか?


 勿論、起きた達樹に「お前は食人鬼か?」と聞いて、後でがっつりエルフリーデ()が叱られていた。


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