シスリードの決意
「とりあえずね、分からないから尋問しないから」
にっこり笑って達樹が宣言する。心なしか、エリはほっとしたような顔をしていた。
勿論、それを逃がす達樹ではない。
「でもね、いくつか知りたいんだけど、供の人ってどうなったの?」
「たたたたた達樹さんっ。じじじじじじ尋問しないって言ったじゃないですかぁぁぁぁ!!」
「尋問じゃないから。素朴な疑問? それにこれ気になってるの、俺だけじゃないよ。皆だ。そして欲を言えば天界と魔界のことも知りたいんだけど」
その瞬間、エルフリーデがエリと達樹の間に立った。
「エルフリーデさん、あなたはじっとしててくれないかな? 俺聖人君主じゃないから。別にあなたに同じことを聞いたって構わないと思ってる。それともあなたが答えてくれるの?」
「タツキ!」
「筆談だって出来るでしょ。それをシスたちに訳してもらえばいいんだから。逆にその方が俺は都合がいい」
びくぅぅぅと怯えたのはエリだった。
「わわわわわ私がこたえますからぁぁぁぁぁ。姉には手を出さないでぇぇぇぇ!」
「どんな悪人なの、俺」
「見たまんまだろ。人畜無害な顔して、ここにいる面子の中で一番腹黒だ」
「兄さん、達樹は腹黒じゃないわよ。腹黒に失礼すぎるわ。腹どころか内臓全部真っ黒でしょ」
「千紘兄、千佳姉、酷い」
「いんや、お前が言った言葉を直訳すれば、内臓が真っ黒くらいですむほうが驚きだぞ? シスさんたちも巻き添え食らわして脅そうとしてるんだから」
哉斗がさらりと言ってのけたが、達樹を止めるつもりははなから無いらしい。
「ちなみに、直訳するとどうなるのかな?」
楽しそうにシスが混ざってきた。
「とりあえず『分かってることは洗いざらい話さないと、ここにいる全員が敵に回ると思え』かしら? シスさんだって、きちんと分からなければ保護のしようが無いでしょう?」
「チカの言う通りだ。だが、エルフリーデ様をそこまで脅すとは……」
「脅して無いよ。正直に答えて欲しいだけだし」
『妹について行った者は人間だった。今は副司祭長をしている』
さらさらとエルフリーデが書き始めた。
「リュグナン副司祭長のことでしょうか?」
エルフリーデがこくりと頷いた。
「……何故、エルフリーデ様があそこにいらっしゃったのかが分かったよ」
シスの言葉に神官たち全てが苦い顔をした。
君たちがエルフリーデ様を保護した城、あそこはリュグナン様のご領地だったんだ。リュグナン様の伯父上が前司祭長だったが、お父上はグレス聖王国の辺境のご領主様。かなり有名な話だ。今、あの城をお守りしているのは、リュグナン様の甥と聞いている。
十年以上前にリュグナン様が一度行方不明になられてね。領主交代されたそうだよ。あそこは代々、司祭と領主を出すことで有名なんだ。
でも、おかしい。魔王領で働いた人間が司祭や司祭長になるというのは有り得ない。いくら、天界、魔界が想像上の場所だとしても。しかも、エルフリーデ様がいらっしゃったのは魔界、そこでお仕えしていたという事実だよ。
僕たち神殿の人間は魔王領に行くのは禁じられている。暗黙の了解とかではなく、破門されるんだ。例外として、魔王を倒すためになら行ってもいいとされているけど、今回のリュグナン様の行動はそれだけで破門、追放されてもおかしくない。
それなのに、副司祭長になっているなんておかしすぎる。
エルフリーデ様が天界の方の貴き血を引き継いでいらっしゃるとしてもだ。
僕たちにも理由なんて分からない。ただ、言えるのはここに僕たちが揃っているときな臭いことになりそうだってことかな?
シスが紡ぎだした言葉に、エルフリードはまた何かを書き出した。
『神殿の転移装置を止めることは?』
「不可能です。それは我々が破門されると同義語で、あなた方を法的に守れなくなります」
『では、神殿を移動させることは?』
「それも難しいです。移動魔法自体が高度で、全属性の高度魔法が必要……」
『光と闇なら私たちが使える。あとは残り四魔法。四魔法に関しては数人で高度魔法を使えば何とかなるのでは? 幸いにも“耐性無し”もいる。この神殿が守る範囲だけどこかに移動させ、神殿経由でしか他から来れないようにするしかない』
「エルフリーデ様……」
『私はあなたたちを信じます』
「御心のままに『聖女エルフリーデ様』」
恭しく、シスがエルフリーデに頭をたれた。そして、数日後までに何とかするということで決着がついた。
その間に、住民に知らせておく。場所は、移動手段の無いところ、二度と帰れない。だからここにいたくない者は逃げろと通達しておいた。
 




