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昔なじみに効果あり  作者: 釜揚げ製菓
第二章 青嶋夏希①
5/11


 夏希との唐突の再会に、俺は最初は喜んだものの、すぐに頭がくらっとなった。


「ど、どうしたの!?」


 ふらっと倒れそうになるところを、夏希に支えられる。腹がまた鳴った。


「……お腹、空いているの?」


「……」


 恥ずかしかったが、コクリと俺はうなずいた。今さらだが、今日はまだ何も食べていない。


「――そっか……えっとじゃあ待ってて!」


 夏希は俺をベンチに座らせ、走って公園を出て行った。


「……相変わらず、綺麗だな」


 夏希の走り去っていく後ろ姿を見て、俺は初めて会ったときと同じ感想を口にしていた。


「はい、買ってきたよ!」


 そして数分後、夏希は右手に袋を抱えて走って戻ってきた。夏希からコンビニ袋を受け取った俺は、さっそく中身を確認する。カレーパンと焼きそばパン、そしてパック入りの豆乳があった。


「こんなのでよかったの?」


「ばっか最高だよ! ありがとなっ!」


 自然と唾が口の中にたまる。俺は夏希に礼を言って、少し遅めの朝飯を食べ始めることにした。


「……ごちそうさまでした! あーうまかった……!」


 パンと手を叩き俺は食事の終わりを告げた。時間にしては五分程度しか経っていない。俺は最後に残った豆乳をストローからすすっていく。


「元気でた?」


 隣に座る夏希は心配そうに声をかける。


「ああ、もう大丈夫だ! 改めてありがとう! お前は命の恩人だ!」


 飲み終え、俺は夏希に向かって頭を下げる。誇張ではなく、冗談抜きで夏希が現れてくれなかったら、俺はのたれ死んでいたかもしれない。


「そ、そんな……大げさだよ! ――と、ところで八城くんはどうしてここに?」

 

 恥ずかしさから、夏希は話題を変えるように俺に質問を投げかけてきた。……うん、それは俺も知りたいところだ。


「……まあ、早い話が昨日、ちょっとプチ家出しちゃってさ」


 じゃっかんニュアンスを変えて俺はそう答える。だが夏希は想像以上の驚きを見せた。


「プチ家出って……そんな……わざわざこの町まで!?」


「ん……?」


 どうにも微妙に話が噛み合わない。俺は少し考え、夏希のいわんとすることを理解する。


「ああ、いや違う違う! えっと、話せば長くなるんだけど、俺は今、この町のある屋敷でお世話になっているんだ」


 誤解を解くように、俺は夏希に補足説明をしていく。ただし、本来住む予定だったアパートが火事で失くなったということは伏せておくことにした。


「あ、そうなんだ。――ということは、その屋敷の人たちと何かトラブルがあったの?」


「……あー、その、住人というわけではないんだが……まあ……」


 春海との件はとても他人に言えるようなものではないので、俺は曖昧な言葉を口にする。夏希も何か悟ったのか、それ以上追求してくることはなかった。逆に今度は俺が尋ねてみることにした。


「そういう夏希こそ、なにしに傘音町に来たんだ? ――あ、もしかしてお前も傘音町に住んでいるとか?」


「ううん、違うよ。わたしが今……というかずっと住んでいるのは鳩羽町だよ」


「ま、そうだよな」


 一応確認として聞いてみたが、やはりジャージのロゴ通り、夏希はまだ鳩羽にいるようだ。


「わたしは……その……」


「あーこんなところにいたぁあっ!」


 公園入口から大きな声がする。顔を向けるとそこには、夏希と同じジャージを来た女子がいた。


「あ……雀部先輩……」


 雀部というらしい女子はずんずんとこちらに向かってくる。雀部さんは夏希の腕を掴んだ。


「ほら行くわよ!」


 そのまま雀部さんは強引に夏希を立ち上がらせる。夏希は観念したかのように、力なく立ち上がる。


「す、すいません、ちょっと気分転換に……」


「ああもう、いいから早く行くわよ、時間ないんだから!」


「はい……」


 雀部さんに引っ張られるようにして、夏希は公園出口へと向かっていく。


「……」


 二人の姿が見えなくなる。俺はそれをしばらくぼーっと眺めていた。


「あれ?」


 そこで俺は、夏希が座っていた隣の席に何かが置かれているのを発見した。財布だった。


「おいおい……シャレになんねえぞ」


 俺は財布を握りしめ、すぐさま公園を出る。確実とはいえない……だが、アテはある。俺はとりあえず傘音町南区へ向かうことにした。

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