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夏希との唐突の再会に、俺は最初は喜んだものの、すぐに頭がくらっとなった。
「ど、どうしたの!?」
ふらっと倒れそうになるところを、夏希に支えられる。腹がまた鳴った。
「……お腹、空いているの?」
「……」
恥ずかしかったが、コクリと俺はうなずいた。今さらだが、今日はまだ何も食べていない。
「――そっか……えっとじゃあ待ってて!」
夏希は俺をベンチに座らせ、走って公園を出て行った。
「……相変わらず、綺麗だな」
夏希の走り去っていく後ろ姿を見て、俺は初めて会ったときと同じ感想を口にしていた。
「はい、買ってきたよ!」
そして数分後、夏希は右手に袋を抱えて走って戻ってきた。夏希からコンビニ袋を受け取った俺は、さっそく中身を確認する。カレーパンと焼きそばパン、そしてパック入りの豆乳があった。
「こんなのでよかったの?」
「ばっか最高だよ! ありがとなっ!」
自然と唾が口の中にたまる。俺は夏希に礼を言って、少し遅めの朝飯を食べ始めることにした。
「……ごちそうさまでした! あーうまかった……!」
パンと手を叩き俺は食事の終わりを告げた。時間にしては五分程度しか経っていない。俺は最後に残った豆乳をストローからすすっていく。
「元気でた?」
隣に座る夏希は心配そうに声をかける。
「ああ、もう大丈夫だ! 改めてありがとう! お前は命の恩人だ!」
飲み終え、俺は夏希に向かって頭を下げる。誇張ではなく、冗談抜きで夏希が現れてくれなかったら、俺はのたれ死んでいたかもしれない。
「そ、そんな……大げさだよ! ――と、ところで八城くんはどうしてここに?」
恥ずかしさから、夏希は話題を変えるように俺に質問を投げかけてきた。……うん、それは俺も知りたいところだ。
「……まあ、早い話が昨日、ちょっとプチ家出しちゃってさ」
じゃっかんニュアンスを変えて俺はそう答える。だが夏希は想像以上の驚きを見せた。
「プチ家出って……そんな……わざわざこの町まで!?」
「ん……?」
どうにも微妙に話が噛み合わない。俺は少し考え、夏希のいわんとすることを理解する。
「ああ、いや違う違う! えっと、話せば長くなるんだけど、俺は今、この町のある屋敷でお世話になっているんだ」
誤解を解くように、俺は夏希に補足説明をしていく。ただし、本来住む予定だったアパートが火事で失くなったということは伏せておくことにした。
「あ、そうなんだ。――ということは、その屋敷の人たちと何かトラブルがあったの?」
「……あー、その、住人というわけではないんだが……まあ……」
春海との件はとても他人に言えるようなものではないので、俺は曖昧な言葉を口にする。夏希も何か悟ったのか、それ以上追求してくることはなかった。逆に今度は俺が尋ねてみることにした。
「そういう夏希こそ、なにしに傘音町に来たんだ? ――あ、もしかしてお前も傘音町に住んでいるとか?」
「ううん、違うよ。わたしが今……というかずっと住んでいるのは鳩羽町だよ」
「ま、そうだよな」
一応確認として聞いてみたが、やはりジャージのロゴ通り、夏希はまだ鳩羽にいるようだ。
「わたしは……その……」
「あーこんなところにいたぁあっ!」
公園入口から大きな声がする。顔を向けるとそこには、夏希と同じジャージを来た女子がいた。
「あ……雀部先輩……」
雀部というらしい女子はずんずんとこちらに向かってくる。雀部さんは夏希の腕を掴んだ。
「ほら行くわよ!」
そのまま雀部さんは強引に夏希を立ち上がらせる。夏希は観念したかのように、力なく立ち上がる。
「す、すいません、ちょっと気分転換に……」
「ああもう、いいから早く行くわよ、時間ないんだから!」
「はい……」
雀部さんに引っ張られるようにして、夏希は公園出口へと向かっていく。
「……」
二人の姿が見えなくなる。俺はそれをしばらくぼーっと眺めていた。
「あれ?」
そこで俺は、夏希が座っていた隣の席に何かが置かれているのを発見した。財布だった。
「おいおい……シャレになんねえぞ」
俺は財布を握りしめ、すぐさま公園を出る。確実とはいえない……だが、アテはある。俺はとりあえず傘音町南区へ向かうことにした。