Ⅷ 共闘
雷と共に現れた師匠、ラギ・ビライガ
結構派手なご登場であった。そして、久しぶりの共闘となる。
「あの男・・・・」
「? 知ってるのか?」
「まさかとは思うが、雷帝ラギじゃないか?」
「お?お前もそう思うのか?」
などと口々に師匠について話し始める。そんな場合じゃないってのに・・・余裕無いってのに!!
「ジーク、行くぞ」
あ、師匠は無視して蟲に集中するおつもりなんですね。
いまダジャレっぽかったけど気にしない、気にしたら終わり、てか気にしてられない。それこそ無視だ!
なんて訳の分からない事言ってる場合ではなかった、マジで・・・
空にも蟲がいて、防壁からバリスタの槍や、波動銃士の銃弾が絶え間なく飛び、撃ち落していくが数匹はその弾幕から逃れ都市内へと侵入していくのが分かる。
中には戦える人いんのかな?
ドンドンドンボゴォ!!
地面が突如、爆発でもするかのように土が噴きあがり他の蟲達を吹き飛ばす。その近くに残った蟲は地中から現れたであろう大きなはさみのような物に捕まり潰された。そのすぐ隣では、また他の蟲がもう一つのはさみのような物で薙ぎ払われる。蟲達を押し退けるように地中から現れたのはキングスコーピオン。
キングスコーピオンは全長約5メートルの巨大サソリで普通のサソリのように尻尾の針に毒を持っておりそれを刺し毒を注入する。このキングスコーピオンは刺すだけでなく尾の先から毒液を射出して攻撃することもある。他には地中に潜り移動することもできるため、さっきのように地中からの奇襲攻撃を仕掛けるという厄介さをもち、対峙した波動士は主にこの奇襲でやられることが多い。上位ランクの甲虫種モンスター。
キングスコーピオンが師匠に向かってはさみのような手、触肢を振るう。
ガゴォォン!
大剣によってあっけなく受け止められる。
「うおぉぉぉぉらぁぁぁぁぁ!!」
更に押し返し、払う。
何も知らなければ どんだけ怪力なんだよ!! なんていうツッコミを入れるだろう。
波動による強化系術「ボディコーティング」という術がある。この術は格闘戦を行う波動闘士が主に使う術。俺が炎を拳に灯して殴ったり、脚に灯して蹴ったりしてたのも部分的なボディコーティングとなる。
冷静に師匠の体を見れば帯電してるのがわかる。
ボディコーティングは波動を体に纏うことで防御力、攻撃力を上昇させる術だ。師匠の場合はそれを独自に応用し、防御力、攻撃力は勿論だがそれに加え、身体能力も上昇させる「スキルコーティング」を編み出した。
「ジーク!上から叩き込め!」
これはつまり、師匠は真正面から攻撃をぶちかますからその直後に上から渾身の一撃を決めろってことか。
師匠は拳に雷を帯電させキングスコーピオンの顔面を思いっきり殴り、その体勢のままキングスコーピオンの身体に電撃を走らせる。
「ボルトスタン!」
ボルトスタンは相手を電気ショックで気絶、又は一時的に麻痺させる技。
「おおおおおおお!!」
俺はすかさず跳躍し、聖剣を構え切り込む。同時に炎が爆発するように炸裂し、キングスコーピオンを瀕死に追いやる。
ちっ、倒せなかったか・・・
「・・・雷槍」
師匠が大剣を納め、右手を開き前に出す構えをとり言った。電撃が棒状に伸びて槍のような形になった。俺は何をしようとしているのか分かった。ずっと一緒にいてよく一緒に戦っていたからとか師弟関係だからとかではなく、ただ単にそういう動作に入ったからわかった。俺はすぐにそこから飛び退く。
師匠は雷で形作られたそれを構え、キングスコーピオンに向け零距離投擲。
ズギャァ!!
と音を立ててキングスコーピオンは真っ二つに裂け、絶命した。
相変わらず強いな師匠は・・・
「ジーク、休む暇は無いぞ?」
師匠は言いながら再び大剣を抜いた。
「分かってますよ。早く終わらせましょうよ!」
拳に炎を灯し蟲の大群に向け突き出す。炎が火炎放射の如く前方へ走り、正面の蟲達を焼死させる。次に聖剣を構え、乱舞をかけてこれまた次々と切り殺していく。
師匠もまた、電撃と大剣の攻撃を組み合わせ蟲達を圧倒していく。
「・・・なんなんだあいつら・・・」
「強すぎるだろこれ・・・・」
「雷帝もすごいが、一緒にいる小僧もまたすごいな・・・」
「だよな、あの小僧すげぇよな。」
「蟲の大群を一度一掃させる程の術を発動しても尚、あれだけ戦い続けてんだ」
「・・・てか、剣士なの?術士なの?闘士なの?」
「全部だろ」
「全部って・・・かなり大変だぞ?それ」
「雷帝も一応剣士だが、全部できるって話だろ?」
「あ!そうだった」
・・・・・あんたら、いい加減加勢してくんないか?
なんて思いながら蟲達を師匠と一緒に倒していく。気が付けば蟲の数もかなり減っていた。
いつの間に!?こんなにはやいもんだっけ?いや、師匠も一緒だからか。北門はすでに大体片付けたって言ってたしな。恐るべし雷帝。
しばらくすると後ろから別の団体が来た。波動騎士団でもなさそうだが。
「蟲の数が目測でも500を切ったそうだ。後は前発と後発に別れる必要はなでしょう」
!? この装備はまさか!
羽飾りがある赤い鍔広帽に片周りが膨らんだ八分丈の白いシャツ、その上に紅のベストを着ている。黒のズボンに革の編み上げブーツという中々に洒落た格好である。
だがこれはただの服ではない、れっきとした防具だ。使われている素材はかなり特殊な素材を使っており見た目とは裏腹にその耐久性は高く、弓の矢も簡単には通さない。
特定の者達だけが身にまとうことを許された、別の言い方をすれば、これを着ていればすぐにそれなんだと分かる恰好。ナタール王国の王城を守護する最高位の階級に位置する精鋭の部隊。
その名は「近衛師団」
噂では、団員一人一人がGランクに匹敵する実力を持っているとかないとか、真実は分からない。
「おっと、申し遅れました。私は近衛師団長のクルス・アイズです」
うそぉ!団長かよ
「あ、俺はジークって言います。ジーク・アラウドです」
「ジーク君、中々の活躍ぶりだったようだね」
「え?」
「申し訳ない、この話は蟲狩りが終わってからゆっくりしよう」
「はぁ・・・」
ってなに話すつまりなの?
「とりあえず、今日一日は君たち波動士と騎士団の方々に頑張ってもらったんだ、ここからは我々近衛師団と宮廷術師団に任せてしばらく休んでいてください」
「・・・・ありがとうございます」
俺は言葉に甘えて防壁に戻ることにした。師匠に「ひよっこがぁぁぁ!!!」とか言いながら殴り飛ばされるんじゃないかと思い背筋を振るわせてしまったがそうはならなかった。クルスさんと何か話している。
よくよく辺りを見回すと、日は沈みかけていたし本当に宮廷術師団の姿もあった。宮廷術師団は白いシャツに革の編み上げブーツその上に蒼いマントを纏っている恰好。うん、術士!って感じ。この素材もまた近衛師団の防具と同じ素材が使われている。
ドドン! ゴォォン・・・
爆発音が響く。
俺や師匠の波動と防壁から絶え間なく放たれていた砲弾のせいだろうか、辺り一面黒煙が上がっている、一番の原因は「爆砕炎柱」かな?あれは爆発してその後燃えるしな・・・今更だけど、以外とエグイ術だな、あれ。
「ジークどのぉ!」
ん?虎太郎さんだ。何か叫ん・・・
瞬間、何かが俺の真後ろに落ちてきたような音がした直後。
「うおぉぉぉぉ!???」
ズドン!
つい飛び退きながら叫んでしまった。
俺がさっきまでいたところには鎌のように発達した蟲の前脚が突き刺さっていた。
カマキリのような姿をした甲虫種モンスター、アクレイ。
「わえに任せい!」
虎太郎さんが日本刀を鞘に納めた状態のまま柄を握った構えのまま走ってきた。
「秋月流 居合式 斬の型」
右足で踏込み姿勢を一気に低くした。
「迅刃 業斬断!!」
熟練の者でなければ、その剣閃を見切ることはできないだろう。その構えのままアクレイの横を跳んで過ぎていっただけに見えたはずだ。
虎太郎さんの日本刀を持つ手は確かに鞘から日本刀を抜き、その動作の流れのままアクレイを斬り、鞘に戻した。
「え?はずした?」
なわけないよな?確かに日本刀はアクレイを捕えていた。
なんて思っていたらアクレイの身体がズズズ・・・と二つに別れていく。
「虎太郎さん!」
「なんじゃ?」
「今のはなんですか?」
「抜刀術じゃ」
「抜刀術?」
「刀を鞘に収めた状態で帯刀し、鞘から抜き放つ動作で一撃を加えるか相手の攻撃を受け流し、二の太刀で相手にとどめを刺す型の事じゃ。居合、居合術とも言われておる」
そんな技まで存在しているのか。和国はすげぇな。
「とりあえず、防壁に戻りましょう。後は近衛師団と宮廷術師団の方々が引き継いでくれるそうです」
「そうか。では参ろう」
防壁には怪我を負った波動士や騎士がいて、その手当をしている医者達の姿があった。
「おや?君たちは怪我はないようだね」
「えぇ、まぁ」
「かなりの実力があるのでしょうな」
「そんなことはないですよ」
「どっちにしても、怪我をしないのはいいことだ。わしらの仕事が増えるからね、はっはっはっはっは!」
「ハハハ」
間もなく蟲狩りが終焉を迎えようとしていた。