Ⅵ 無双の炎使い
防壁から信号弾が撃たれ「蟲狩り」が始まった。
すでに住民の避難は終わっている。
俺は現在、防壁南門にて甲虫種モンスターと交戦中。
俺と和国から来た虎太郎さん、そして、その他波動士や騎士団の方々数十名。
それに対し、甲虫種モンスターの大群はその数、実に200~300という、まさに多勢に無勢の戦い、優勢と劣勢の状況となっている。しかしそれは傍から見たらの話で、俺は一度の攻撃で小型の甲虫種モンスターは軽く10~30は仕留めていく。中型、大型はさすがに10~30とまではいかないがそれなりに倒していく。虎太郎さんも、秋月流と言われる流派の剣術を駆使して、次々と甲虫種モンスターを倒していく。その為、優劣とかは、あまり無い・・・と言っていいのかは分からないが、とりあえず無い。
他の波動士は、小型は1人で相手しているものの、中型、大型は一匹に対し2人以上で相手している。
「なんなんだあいつ」
「あの炎使ってるやつか?」
「あぁ」
「もしかしたら、あいつが「無双の炎使い」かもしんねぇな」
「ハハハ・・・そりゃ頼もしい」
二人の波動士は、炎を振るい続ける一人の波動士に目を向ける。
「虎太郎さん!」
「なんじゃ!ジーク殿」
「あの蟲、見えますよね?」
炎をぶっ放しながら、一匹の巨大な蟲を指さす。
「おう!デカいのう」
「あれも厄介な蟲です。俺はあれを倒しに向かいます」
「あい分かった」
俺は指した蟲、ドスヘラクレスに向かって走り出す。
ドスヘラクレスは全長30mの巨体で大型モンスターに部類され、さっき虎太郎さんが倒した兜蟲と同じ系統になる。このドスヘラクレスもこの系統の蟲の特徴を持っている。
それは、大顎と呼ばれる角に似たものがあるということだ。
ドスヘラクレスは、上下から生えてる大顎と左右から生えてる大顎、計四本の大顎がある。あれに捕まればひとたまりもない。
右手中指の指輪に波動を込め、聖剣を召喚し、さらに聖剣に炎を込めドスヘラクレスの足に斬りかかる。炎のおかげもあり、足を斬ることができる、正確には焼き斬る。足からは体液が吹き出て、俺は斬り続ける。
「キシャァァァァァァァァァァァ!!!」
ドスヘラクレスが雄叫びにも似た奇声を発する。怒ったのだろう。
しかし構わずに今度は大顎に向かって刃をつきたてる。
「ハアァァァァァァァァァ!!」
ザァン!!と切断音があがり上大顎が斬り落とされた。ズゥン・・・と音を立てて上大顎が地面に落ちる。今度は腹下に潜り込み、腹を乱舞の如く斬り続ける。
その間も体液が俺に降りかかる。
体液くっせぇぇ!!
腹に付けた大きな斬り傷に大きな火球をねじ込む。ドスヘラクレスはそのまま体内から爆発を起こし破裂する、しかしまだ死なない。破裂したのは巨大な身体のほんの一部。
今度は背中に飛び乗り、背中の甲殻を一箇所だけ集中的に斬る、ひたすら斬る。ドスヘラクレスはその巨体を揺らし振り落とそうとする。
「ぬおぉ!!落ちてたまるかぁ!」
なんて言うがあっけなく振り落とされてしまった。めげずにまた飛び乗ろうとしたとき、一瞬で天と地が逆転し、更に視界が回る。何が起こったのか、すぐに分かった。大顎を地面に突き立て、俺を地面ごとすくい上げ、飛ばしたのだ。大量の土砂と一緒に中をまう俺。
「うがっ!」
背中に走る激痛と共に天と地が元に戻った。
「ゲホッ!いってぇなぁおい!やってくれんな」
伝わるわけもないと分かっていながらもドスヘラクレスに愚痴を飛ばし、再び突っ込む。
顔に向かって大きめに作った火球を飛ばし、それに隠れ接近し跳躍。火球はドスヘラクレスの顔面で炸裂。背中を切り続け、穴を開ける。再び振り落とされ、また飛び乗り斬りかかる、を繰り返した。切り口は中身が見えるほどに大きく開いていた。結構派手に開けたので内臓やら何やらかんやらがしっかり見える。そこに火球を連発。肉片や体液が飛び散る。
「ギ・・・ギギギ・・・・イィィ・・ガ・・・・・・」
何発火球を撃ち込んだのか、発する声が弱い。ドスヘラクレスはズズゥゥン・・・と力なく倒れた。
「うおっ!」
その揺れで俺はまた落ちてしまった。
「やっと倒れたか・・・」
ケツについた砂埃をはたきながら立ち上がる。
デカい蟲は、こういった状況下では早めに仕留めておいた方がいい。後で面倒になるから。
他が気になり周りを見ると、蟲に喰われて無残な姿になった波動士や騎士の死体が転がっている。
「これ以上は他が持たないか・・・」
大技をかまして早めにかたを付けたいところだが、周りに波動士や騎士が多い為、それが出来ない。巻き添えにしてしまう恐れがあるからだ。このままでは状況は打開できない。どうしたものか・・・
考えを巡らせていると、退避を指示する信号弾が防壁から撃たれた。
これは、戦う者の疲れを少しでも取る為の決まりで。簡単に言えば、交代である。
「虎太郎さん、戻りましょう」
「何故じゃ?わえはまだ戦えるぞ?」
「まだ戦えるとかの問題じゃありませんよ、これは決まりです」
「・・・・わかった」
なにか考えたようだが、すんなり納得してくれた。防壁に戻る。
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防壁
防壁まで戻ってきた。
俺と虎太郎さん以外はかなり疲れてる様子。
それもそのはず。蟲狩りが始まって、2~3時間は戦い続けていたのだから。
誤解しないように言っておこう。俺も疲れてる、ただ他の皆ほどではないということだ。
あ!そうだ。今のうちに言っておこう。
「あの!みなさん!聞いてください!次に俺達が出るときは、合図するまでは俺よりも後ろに10メートル以上離れた場所で待機していてください。蟲の数を大幅に減らします」
「なに?お前一人で何かできんのかよ?」
一人の波動士が言った。
「そうだ、なにか秘策でもあんのか?」
「いや、あったとしてもあれだけの数なんだ、できるはずがねぇ」
周りがザワザワしだした。
「いや、できるかもしんねぇんぞ?」
どこからかでた声にみんなが反応する。
「だって、こいつが噂の「無双の炎使い」だ。そうだろ?」
バレたぁぁぁぁ!!
ざわめきが激しくなった。
「おい小僧、本当なのか?」
「・・・・はい」
バレたものは仕方がない。
「で?無双の炎使い殿よ、どうするんだって?聞かせてもらおうや」
嫌見たらしく言われた・・・
「えっと、大技を使って蟲の数を大幅に・・・」
「減らすってんだろ?」
遮られた
「本当にできんのか?」
「はい」
「証明できるか?」
俺と一人の男の間に冷たい空気が流れ、やがてそれは周りにも伝わり、静まり返る。
「前回の蟲狩りの噂話は聞いてますか?」
「噂だけはな。そういう噂ってのは大概が尾ひれが付きまくって大袈裟に伝わるもんだ。お前もそういう類いの者じゃないのか?」
・・・ご名答、確かに付きまくってた。
「じゃぁ、その目で確かめてみてください」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
お互い睨み合い、沈黙が襲う。その沈黙は長く感じたが実際には10秒ちょいの時間。
「プッ!」
相手が吹いたことで沈黙の壁は崩れた。
「ブハハハハハハ!面白れぇ!」
「な!?え?」
「小僧!気に入ったぞ!みな、この小僧の案を受け入れようや!!」
「「「「うおおぉぉぉぉぉぉぉぉ!」」」」
軽快に、そして豪快に放たれたその一言で一気に盛り上がる。
「期待してるぜ!炎使い!」
「面白く派手なショーにしてくれよ?小僧!」
なんか、さっきから小僧小僧言われてんだけど・・・
「ジーク殿」
久しぶりに名前呼ばれ気分。
「はい?」
「頼みましたぞ?」
「あぁ、任せてください。一気に打開します」