Ⅴ 蟲狩り開始
王都にきて一か月経とうとしていた。
前回は一週間だったが今回は一か月、次回は一年経つのかな?なんてしょうもないこと考えていた。
が、しかし!
今回は事態が大きく動いた。
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ナタール王都某所
某所とはいっても一種の商店街みたいなところなのだが、いやしかし、ここは某所といってもいい。
何せ、説明しにくいのだから、まぁ、某商店街付近としておくとしよう。
「わぁい!3段アイス」
「走ると、こけてアイス落とすぞ?」
親子と思しき二人、父と娘だろうか、幼い娘に3段アイスを買って、それを貰った娘がはしゃいでいるといったところか。
ドン! ベチョ!
子供は周りが見えてなかったのか男とぶつかる、その拍子にアイスがつぶれ男のズボンにべっちょりと付いた。
「・・・・・・・・・・・・・・」
男は無言のまま視線を子供とアイスが染みついたズボンを往復させる。その行動は結構な威圧感を与えてしまう、今にも子供になにか暴力でもふりそうなくらい。
「ア・・・アイス・・・・」
無残な姿になったアイスを見て泣きかける子供。そこへ
「!! すみません!」
男をみて怖がるような態度で謝罪の言葉を述べる父
「ク・・・クリーニング代は出しますから、許してください、この子はまだ子供ですし」
無言で親子に近づく男、そして男が付けている指輪が光を放ち、片刃の大きな剣が現れる。
「ちょ!子供なんですよ!?」
「・・・・・・・・・・・」
親の抗議に対し問答無用で振りかぶり、一閃。
「ひぃ!!」
親は子をかばう
ズバシュゥ!という鈍い切断音と血肉が弾けるかのような音が混ざった音が鳴る。
「・・・・?」
子をかばった親は自分にも子にも何も起きず、後ろで何かが斬られたような音が鳴ったことに疑問を感じ後ろを見た。そこにあった光景は、真っ二つに両断された蟲の死骸が転がり、それを見下ろす男の姿。
「な・・・」
若干状況がつかめずにいる親の元に歩み寄る男。
「悪いな、アイスは俺が食っちまった、次は4段なり5段なり買うといい」
男は子共の頭に手を載せ、お金を渡しながら言った。
「す・・・すいません、ありがとうございました」
「避難を始めた方がいいだろう、蟲が来る。知らせもせねばならんしな」
男は言いながら発煙弾を空に向かって撃った。
煙をあげながら上空に舞い上がった発煙弾、それを頭に時間差で次々と発煙弾が都市中で撃たれ最後に防壁から信号弾が パァン! と音をたてこれもまた次々に撃たれる。
蟲狩りが始まった。
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「あ、発煙弾」
俺は今、武器屋でエリーの為に新しく武器を買っていた。
「ジーク殿」
「あぁ、蟲さんのご登場だ。防壁に向かいましょう、蟲が来ていたら返り討ちです」
「カッハッハッハ!よかろう、燃えてきたわい!!」
俺と虎太郎さんは防壁へ向かって走り出した。
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防壁 南門
「蟲の様子はどうですか?」
警備兵に状況を聴く
「あ、波動士殿ではないですか。今はまだ来てないようです。もし来た場合は調査騎士団から合図が来るはずですので」
「そうですか、ご苦労様です」
「いえいえ」
軽いノリで終わった。
どうやら住民の避難は混乱もなく順調に進んでるようなのでとりあえずここに居ることにする。
「あ!そういえば波動士殿」
「? はい」
「無双の炎使いの話知ってますか?」
ギクッ!
「え・・・えぇ」
「今年は来ると思いますか?」
「さぁ、それはどうでしょうね」
「ですよねぇ・・・・ん?」
「あ」
防壁から見える森の中から調査騎士団が帰還してきた。
「調査騎士団のお帰りだぁ!!開門しろ!見たところ怪我人も居るようだから救護班を呼べ!」
うお!この人、防壁南門警備兵団の団長だったの!?
何気なく話しかけた人物の階級に少し驚いた。
「団長殿、調査ご苦労さまです。森の様子は?」
警備団長が問う。
「ふむ、まもなく蟲達が来るだろう。この怪我人も蟲達の襲撃によるものだ」
「・・・では、すぐに準備をはじめるとしよう。皆!直ちに固定砲台とバリスタを装填せよ!信号花火の準備も忘れるな!」
「「「ハッ!!!」」」
各々が自分の仕事に就く。
バシュウゥゥ・・・ パアァァン!!
「信号花火・・・東門側だ。向こうはもう来たか」
「! こちらも来ます!!」
「信号花火、撃てぇぇぇ!!!」
掛け声と共に真上に向けられた固定砲台から信号花火が撃ち上げられた。
蟲狩りが完全に始まった。
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ドォォォ・・・ン
ズズズズン・・・・
ブシュァァァ!!
果てしなく続く爆発音や斬烈音
防壁の外には大勢の波動士や騎士団が、そしてそのすぐ眼前には大中小様々な大きさで、様々な形をしている蟲達の姿。
防壁の上からは砲弾、バリスタの槍が飛ぶ。
「・・・さて、俺も行くか」
俺は躊躇なく防壁から飛び降りる、高さは50mくらい。
炎を逆噴射し落下速度を落とし着地、そのまま蟲の元へ走り出す。
「対大群の新技、行くぜ」
両手に炎を灯し蟲の大群の中へと突っ込み、炎を広範囲に伸ばし振るう。
その長さ大体15m。
「火炎鞭!!」
その名の通り炎は鞭のようにしなり地面をえぐり、爆発を起こし、蟲を燃やし、吹き飛ばしてていく。
「な!なんだあいつ!!あんなに波動使いまくってたらすぐに電池切れおこすぞ!?」
「なにもしらねぇガキってこったぁ」
周りから嫌な言葉が聞こえてくるが構わずそのまま火炎鞭を振るい続ける。
時には火球を放ち、炎を灯した拳で殴り、炎を灯した脚で蹴り飛ばす。
「ジークどのぉぉ!!助太刀にまいったぁ!!」
虎太郎さんが手に剣をもって走ってきた。
・・・・剣?
虎太郎さんが持っている武器に若干の疑問を抱いた。
何故ならその武器は片刃である、ここまでは普通。しかし、その刃が特徴的だった。若干の曲線を描くような形状をしており一種の美しさや、芸術を感じてしまう。
「虎太郎さん?それは?」
「ぬ?これか?こいつは愛刀「秋雨じゃ!」
「あきさめ?」
「そうじゃ、わえが作った刀じゃ。ここらでは日本刀じゃったかの?」
日本刀か・・・
「よぉし!ぬしに見せてやるわ、我が「秋月流」の剣術をな」
虎太郎さんはそう言って一匹の大きい蟲に・・・ってえぇぇぇ!!????
結構厄介な蟲に向かっていった
虎太郎さんが向かっていったのは兜蟲と言われる全長15m程の若干大型に部類される甲虫種モンスター。
どうやって戦うんだろ。
かなり興味がわいた。
虎太郎さんは兜蟲の脚に斬撃を一撃、しかし甲殻がかなり堅いため切り傷一つつかない。
今度は兜蟲の頭部に飛び乗り日本刀の柄の先が下に来るように構えた。
「斬撃が通らぬのならば打撃を与える」
日本刀を握る手に力が籠る
「秋月流 攻式 打の型」
日本刀の柄の先が兜蟲の頭部に向かって勢い良く振り下ろされる。
「金剛 岩山打破!!」
日本刀の柄が兜蟲の頭部を叩く、その威力は見ただけですぐに分かる。
この一撃は兜蟲の頭部をかち割り、さらにその衝撃波が兜蟲の頭部を伝い、風圧となって地面の砂埃を巻き上げる(砂場などで真上から息を吹きかけた感じ)
ヒビが入った兜蟲の頭部からは体液が噴き出て、兜蟲はそのままズズズズン!と音を立てて倒れた。
「なんって技だよ・・・こんなんありかよ・・・・」
俺はその光景に衝撃を受け、言葉を失う。
「どうじゃ!これが秋月流じゃぁ!!」
今回の蟲狩りは、結構頼もしい男が俺と一緒に行動していた。
俺も負けてられねぇな・・・