Ⅲ 到着
ナタール王国王都に向かう馬車の中。まぁ、森の中を行ってるからモンスターに遭遇、なんてことも何回かあった。その度に焼き払ったり、切り裂いたりして王都に到着。
聳え立つ王宮、それは正に王都の象徴で装飾もかなり鮮やかで且つ目障りじゃない。その王宮を中心に街が広がっており更にそれを防壁が囲む。
「許可証、または自分の身分を証明出来るものは?」
門番に聞かれる、毎回の事なのでもう完全になれた。最初の頃なんか変に緊張してしまってたな。
とりあえず波動士であるという証明にもなるギルドカードを見せ、その後召集条を見せた。この時の門番の反応は中々面白かった。
「なんと!?波動士殿でありましたか!しかも召集条まで。失礼致しました!」
そんな畏まらなくてもいいのになぁ。なんて思いつつ許可が下りたので王都に入る。たまにああいう反応をする門番もいるのでちょっとした楽しみになっている。門を潜ってギルドを目指す。相変わらず広いし、デカいし、賑やかだしで活気あふれてる。さらに今回は蟲狩り、波動士と思しき者も確認できる、王都に入ってまだ50メートルも歩いてないのに20人程確認。ほんとすげぇな・・・
波動士以外にも蟲狩りを見たいっていう人も来るので、これに乗じてスリやひったくりも発生する。
「あぁ!!だれか、その人を!!」
あ、早速だ、どうやらひったくりだな。ひったくり犯は中々の俊足、ってこっち来たぁぁ
「そこのガキィ!どけぇ!!」
とりあえず避けた振りしてラリアットをかまして確保。
「ガハッ!」
そのまま犯人は突っ伏した
「おっと、ワリィ。わざとだ、許してくれ」
許してくれとか言いつつ拘束技をかけ拘束する。犯人はうつ伏せ、俺はその上に乗り腕を背中で押さえつけてる形となる。
「この!放せ!」
「やかましい」
腕を軽く上げる
「いででで!!!この野郎!」
「どの口が言ってんだよこの野郎が。このまま肩はずしてやろうか?ん?」
「あだだだだ!!!」
更に腕を上げる、肩がみしみしと悲鳴をあげていた。
そこへ警備兵と被害者がやってきた。
「え~と、こ・・・この男ですか?」
俺がひったくり犯を取り押さえてる光景に少々戸惑った様子の警備兵
「・・・はい」
「君、犯人の取り押さえ感謝する」
「すいません、ありがとうございます。」
被害者は女性だった、深くお辞儀をし去って行く。そのまま犯人は駆けつけた警備兵にしょっ引かれていった。
乙だな。
とまぁ、こういったこともありつつギルドへ到着。
カウンターの受付嬢に話しかける。
「あの、すいません」
「はい、ナンパですか?」
「何故!?」
この受付嬢とは普通に顔見知りで(常連だから当たり前だが)村に帰って久しぶりに来るとこれだ。
「あぁ、ジークさん。お久しぶりです。村に帰られてたんですか?」
「ん?まぁな」
「満喫できましたか?」
「いや、満喫ってほどではなかったな、うん。ちょっと大変だった」
「なにかあったんですか?」
「まぁ、いくつかあったな」
「例えば?」
「ん~そうだな。一番大変だったのはガルウルフに遭遇したことかな」
「・・・・・・・・」
受付嬢、(名をメイという)が沈黙した。
「狼鬼ですよね?」
「? あぁ」
「凶暴種ですよね?」
「? あぁ」
「かなり危ないモンスターですよね?」
「? あぁ」
「倒したんですか?」
「いや、追い払った」
「ギルドに報告しなくていいんですか?」
「いや、今はどこにいるか分からないから、報告したところで発見するのに時間かかるだろ。それに角へし折ったからしばらくは大人しくしてるだろうし」
「! 折ったんですか!?」
「あぁ、ボッキリと、ズバッと行きましたぞ?」
「いや、行きましたぞ て・・・そんなすごいことをコミカルに言う人初めて見ました」
「そりゃあ、大抵は自慢げに言うだろうしな」
なんせ、凶暴種だから、この種と対峙して倒すなり撃退するなりできればその実力を認められる。
「でも、さすがのジークさんでも倒せなかったんですね」
「ちがうよ、倒さなかっただけ」
「・・・・・え?」
「いや、だから倒さなかっただけ」
「どうして倒さなかったんですか?」
「だって、帰ってすぐに森を調査するように頼まれて、眠気を堪えながら歩き回った挙句のガルウルフだぞ?なえるって。つうか本題入っていい?」
話し込みそうだったのでここで切り上げる。
「え?あ!どうぞ。ナンパですか?」
「しつこい!!!」
「ジークさんは楽しいですね」
「人で遊ぶな」
ケラケラ笑うメイ。
このヤロー、いつか仕返ししてやろうかな・・・
「すみません。コホン。用件は何でしょうか?」
やっと本題に入った。
「蟲狩りの召集に応じて参加することを報告するのと、その手続きってとこかな?」
「召集条が来たんですか?さすがです!あ、ここにサインをお願いします」
契約証にサインをする。
「はい、ありがとうございます。蟲狩り、ジークさんの活躍話、期待してますよ」
ハンコを押しながら笑顔で言った。
「おう、そこまで期待して欲しくないが。頑張ってくるよ」
カウンターを離れ空いていたテーブルに座り料理を注文した。
ギルドの中は酒場にもなっていて飲食できる、飲食だけならば波動士でない者もふつうに利用できる。
「お待たせしました、黒牛特性ソースのステーキです」
俺が注文したステーキが来た。ステーキにかぶりつく、噛んだ瞬間に肉汁があふれ出す、特性ソースとの相性がまた素晴らしく絶品。
こんな感じで空腹を満たしていると、さすが蟲狩りというべきか、世界最強の七人の剣士「七剣士」の1人、ジャック・エスルがやってきた。彼は、切り裂きジャックの異名を持つ。彼は類い希なる戦闘センスを持ち、あらゆる刃物を自在に操る、この二つ名の通り、モンスターを切り裂く。おかげでついたのがこの切り裂きジャックという訳だ。髪は全て後ろで留めてあるが雑にしているのか纏っていない、しかしそれがかなり似合う、首筋から少しタトゥーが見える、顔つきもちょっと怖い。そのせいもあってか、裏では暗殺とかやってるんじゃないか?という噂も立てられたりしてる。
ジャックは酒を飲み始めた。そこへまた一人。
「あれ?ジャックじゃないか。久しぶり」
イケメンの登場、その声は上品な響きを持っている。シュバルツ・ブリューガ、ジャックと同じ七剣士の一人。二つ名は「剣の王子」王子の名が似合うほどさわやか系のイケメンで、ロン毛の金髪。もちろん女性人気が高い。
「よう、シュバルツ。お前今年は参加すんのか?」
酒を飲みながら問いかける。
「蟲狩りか?もちろん、今年はちょうどいいタイミングで召集条が届いたからね」
「ハハハ!そうか。前回はタイミング悪く長期クエストに行ってたもんな!さて、今年は来ると思うか?」
「? 誰が?」
「あ?「無双の炎使い」だよ」
「無双の・・・炎使い?」
「あれ? あ!そうか、知らないのか。そういやそうか」
「おい、さっき自分で言ってたろ・・・で?どんなやつなんだ?」
「いや、俺もよくは知らねぇんだが。剣士だって言うやつもいれば、闘士だって言うやつもいるし、術士だって言うやつだっているんだ」
・・・・・・
「どうやら単身で城壁門を守り抜いたらしいぜ。その姿はまさに無双だったってさ。そいつが戦った後に残るのは陽炎と炎と黒く焼け焦げた蟲達の死骸。中には一瞬で目の前の蟲たちが風化するかのように燃えて灰になってしまったって言うやつもいる」
ウソオォォォォォォォ!!?
「なるほど」
いやいや、なるほど じゃなくて。ありえないでしょ!?普通!尾ひれついてるんですけど!!
「ま、今回はくるか来ないかはそいつ次第だがな」
「もし来たなら、会ってみたいものだな」
もうここ離れよう・・・
大袈裟な噂まで出てるし、怖い・・・
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宿屋
この宿は王都に来た当時から使ってる宿でここの管理者であるクルイットさん(女のエルフ族)ともかなり仲良しになっている。
「あら、ジークさん。お帰りなさい。村はどうでした?」
やはり聞かれた。
「ガルウルフと遭遇したよ」
「まぁ!あの狼鬼にですか?大変でしたでしょう?」
「まあね。討伐はしなかったけど、撃退はした」
「ジークさんの出身はどちらでしたっけ?」
「ん?リーガル村だけど?」
「ここと同じウルーブ地方でしたよね?あの辺りにガルウルフが出るなんて聞いたことないですよ?ガルウルフの習性としては、一度縄張りを決めたら他の場所へ縄張りを移すことはほとんどなく群れて行動することもないわ。主な生息地としてはジャバ地方のはずなんだけどね、もし縄張り争いに負けて徘徊していたとしてもジャバ地方を離れるなんて・・・」
うわぁ・・・さすがエルフ族。多彩な知識を持ってらっしゃる。
「・・・・?なぁ、もしかして世界に異変が起きている。なんていわないよね?」
なんか怖くなったので聞いた。
「それはさすがにないでしょう」
フフッと笑うクルイットさん。
こんなやり取りをやって自分の部屋に行く。この宿は中々広い。システムとしては、ふつうの宿と変わりないが波動士に対してはやはり一般客とは異なってくる。
まず波動士は時々長期クエストに出かけたりすることがある、長期で仕事に出ている間の家賃は払うことにはなっているが格安になる、といった具合だ。波動士の出入りが多いところは基本的に波動士向けの施設や店が並んでる。この宿もまたその一つといってもいい。中庭が設置してありそこではモンスター殺傷レベルの攻撃波動の発動が許可されている、つまりここでは鍛錬とかもできるってわけだ。
宿舎の廊下を歩いていると見覚えのある男がいた、ていうか師匠だった。
マジか!
「師匠!お久しぶりです」
「ん?あぁ、ジークか。腕をあげたようだな」
うわぁ・・・一目見ただけでわかるんか?すげぇな。
「どうだ?久しぶりに組手でもせんか?波動を交えてな」
「お願いします」
果たして俺はどのくらい師匠に近づけてるのでしょうか?
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宿舎中庭
拳に宿した炎と雷が激突していた、土埃を巻き上げ地面を抉る。傍から見ると普通の組手じゃない、むしろ波動士同士の度を過ぎた喧嘩、あるいは殺し合い。お互い組手ではあるがそれでも尋常じゃない殺気を放ちながら戦っている。ヘタしたら決闘てきな見方をされるかもしれない。
「ハハハハハ!!やはり腕を上げたなジークよ、師として嬉しい限りだ」
「そう言う師匠こそ、また強くなりましたね」
本当に師匠はまた強くなっている。最後に会って以来俺もまた強くなるために、師匠を超えるために頑張ってきたが追いついてない、それどころかむしろ離されてる。
あんたは底なしか!!
「フム、この分ならそろそろSランクに上がれるだろう」
バゴォゥン!と爆音を上げながら、あくまで組手であって戦いや殺し合いではない行為を尋常じゃないやり方でやりながら師匠は言った。
「うおっとぉ。そうですかあっぶねぇ・・っ!!」
「フム、中々の動きだ。波動と技の組み合わせもまた」
褒めてくれるのは嬉んだが、師匠はかなり余裕の様子。俺はかなり必死。相対する二人・・・
クソ面白くもないわ!
「おっと、ここまでにするか」
「え?」
波動を宿した拳を収めなぜかと聞く。
「これ以上やるとここがぶっ壊れちまう」
ハハハ・・・・そりゃ困る。
「しかしまぁ、いい運動になった。お前の成長も見れてよかったぞ?もし成長が見れなかった場合は、熱い拳を叩き込んでいたがな」
あんたの拳喰らったら俺がぶっ壊れちまう。
今回の話で「狼鬼」とでました。
中型、大型モンスターにはもう一つの名前が存在している個体があります、名前に「鬼」の名がつく種のモンスターは凶暴種に分類されるモンスターを示し、凶暴さ故に生態があまり解明されてないモンスターが主に凶暴種となります。