Ⅰ 炎の聖剣
ここは炎神の遺跡と言われる遺跡。
基本的には壁も床も天井も何もかもが石造りという、ベタなものである。しかも、所々にはヒビも確認でき、そこからなんらかの植物のつるや、草が生えている。
この遺跡はかつて炎神が使っていたとされる剣「炎の聖剣」が眠っているという伝説がある。故に何人ものトレジャーハンターがここを訪れ、聖剣を見つけれずに諦めるか、この遺跡の罠やそこに住むモンスターの餌食となっている。
まぁ、宝が眠る遺跡とかそういうのは大概がそんなもんだけどな。
俺は今、師匠と一緒にその炎神の遺跡の中にいる。師匠の背中には大剣が背負われておりこの遺跡に入って遭遇したモンスターの血を浴びている、
頼むから拭き取ってほしい、さっきから血の匂いがプンプンしてて鼻がおかしくなりそうだわ・・・。
などといった文句を押し殺しながら師匠の後をついて行く、ちなみに俺の腰には剣が装備してある、俺愛用の剣だ師匠にもらったものであり、俺の初めての武器でもある。
「ねぇ師匠、炎の聖剣って本当にあるもんなんですか?」
今思っている疑問をストレートに伝える。
「なんでそんなこと聞くんだ?」
「だって、いままで何人ものトレジャーハンターがここにきて見つけれずに終わってるんでしょ?」
「あぁ、まぁな」
「だったらないんじゃないですか?」
「何故そう思う?」
唐突に来た師匠からの質問、しかし答えるのは難しくなっかった。
「そりゃぁ、何人も来て見つかってないからですよ」
師匠は確かにそうだなと言いながら腕を組んでうなずく、ただでさえたくましい腕が組んでるせいでさらにムッキムキに見える。
「だが、この遺跡の中にはまだ誰も踏み入れてない場所がある」
え?なんだそれ、そんな場所があるのか?
「そこは、神の聖域とされてる、かなり強いモンスターが番人としてそこにいるらしい」
「それはどこにあるんですか?」
俺が聞いた瞬間立ち止まった、もしかして禁句だった?すいません師匠
「ここだ」
これまた唐突に言われた言葉、俺はたまらず目が点になる。そこは何やらわけのわからない文字や絵が描いてある石扉の前だった。師匠が開けようとするがびくともしない。すると今度は背中の大剣に手を伸ばし抜く。
まさか?
「どいてろ、危ないぞ」
あぁ、俺の予感は的中。師匠の大剣に電撃が走る、これは波動と呼ばれるものだ。
簡単に説明すると、人の体の中には血液とは別にもう一つあるものが体内を巡っている。それが波動と言われるもので人によって属性がある人もいるし、ない人もいる。師匠は雷の属性の波動が流れていて、俺は炎の属性の波動が流れてる。
師匠が大剣を振り下ろすとバゴォ!!とデカい音立てて石扉が崩れ落ちる。
その奥には何やら大きな人影のようなものが
「こいつが聖域を守る番人、「ゴーレム」だ」
「ゴッツいな!」
正直な突っ込みを入れる、ゴーレムの手には何やら金棒のようなものが、その大きいからだに似合ったデカい鈍器。鈍器なのか?ただの鉄の塊にも見えるが・・・
とにかく何か持ってる。
「・・・ジーク、剣を抜け」
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「あれ?」
今は朝と昼の中間
「夢か・・・」
懐かしい夢を見たもんだな俺も。
結局あのあとゴーレムなるものと闘って、なんだかんだで炎の聖剣は見つかり、いまの俺の武器になっている。そして、それから一年後俺は独り立ちして師匠と同じ道、波動士の道を選んだ。それからまた数年、今に至る。
波動士ってのは、各国のあらゆる街に設置されてる波動士ギルドに入っている者を指し
四つに部類される。
波動を剣に灯して戦う「波動剣士」
波動を弾丸として戦う「波動銃士」
己の肉体に波動を灯し戦う「波動闘士」
波動を術として使い戦う「波動術士」
そしてこの四つを総称して波動士と呼んでいる
俺はこの四つのうちどちらかと言えば波動剣士になるだう、けど基本的に全てできる。いや、銃は・・・あ、持ってないだけか。
「・・・眠い」
当たり前だと自分で思う、寝たのは今から大体2~3時間程前だからだ。
俺は一昨日に王都からこの村に帰ってきたばかりで、昨日は村長にちょっとした頼みごとをされてそれの処理に時間が掛ってしまったという訳だ。
二度寝しようと決めて再び布団の中に顔を埋める。しかしそこへ、トタトタと可愛らしい足音が聞こえてきた。予想はついてる、この村のこの家で訳あって俺が引き取ることになって一緒に暮らしてる獣人族の子供、性別は女、種は猫、名前はエリー。
この世界は、いくつかの人種に別れる、四種を説明しておこう。まず、俺もそうであるように人間族、エリーのような獣人族、猫型やら犬型やらがいる、自然(森とか)の中での活動なら獣人族が一番だろう。次にエルフ族、その特徴はなんといっても耳、見た目は人間族に似てるが耳が大きくそして尖ってる。最後に竜人族、一番強靭な肉体を誇っている、更にその怪力も中々でいくつかの人種の中でも1、2を争うほどの怪力。
「ジーク、起きてるぅ?」
なんだ?遊んで欲しいのか?まぁ、久しぶりだしなぁ、でもごめんよまだ寝たいんだ。口に出して謝ったつもりだったがどうやら今は意識と耳だけがかろうじて起きてるだけのようで口に出すことなく終わった。
「ムゥ・・・起きてないか、こうなったら」
は?こうなったら?
完全に眠りに付こうとしてるせいで頭が働かない。
「えい!」
あ・・・まさか? ちょっ、やめろぉ!
気づいたが時すでに遅し、エリーが俺の腹めがけてダイブしてきた
「ゲフゥ!!」
たまらずベッドから転げ落ち、痛みに苦しむ。
「やっと起きた」
やっと起きた、じゃねぇよこのヤロー!と怒ろうとしてもエリーの顔には満面のやり遂げた感あふれる顔をしていて可愛いから怒る気になれない。
クソ!
「ゲホッ、で?何の用だ?」
まだ痛みがあり咳き込んでしまいながらも尋ねる。
「村長さんがきてるよ」
「村長が?」
ーーーーーーーーーーーーーーー
「おぉ、すまんのジーク」
村長がまだ眠いじゃろ?と気に掛けてくれた。エリーに凄まじい起こされ方をしたから今は眠くないと答える。
「そうかい、大変じゃのぉ」
「あの、それで俺にはなしとは?」
「そうじゃったそうじゃった、実は今朝、王都から、手紙が届いてのう。内容はお主の力を借りたいとのことじゃ。期日は三カ月後までにということじゃ」
「三か月?」
今から三カ月後か・・・あ、そうか。
「もしかして、蟲・・・ですか?」
「フム、そのようじゃ。とうとう来たの、この季節が」
今から三カ月後の季節は夏、虫型のモンスターが大量発生し、王都に押し寄せてくる季節。しかしそれは毎年ではなく数年に一度に起る現象のようである。王都の者はこれをイベントクエストとして「蟲狩り」と呼んでいる、この蟲狩りの時は世界各地からいろんな波動士が集まってきていつも賑やかなのがさらに賑やかになる。ちなみに参加条件は王都から召集状が送られてきた波動士または、各ギルドでこのイベントクエストを受注したもののみ。しかし何故、虫型モンスターが大量発生するのか、詳しいメカニズムは分かっていない。
「どうするんじゃ?」
「どうするって」
まぁ、行くしかないだろうな。しかしなんでまたこんな早い段階で召集がかかるんだ?せめて一か月前とかだろ?
「村長、なんでこんな早くから俺に召集がくるんでしょうか?」
「それはおそらく、前回の蟲狩りの時に目覚ましい活躍をしたからじゃろうな」
あぁ、そういや前回は俺1人で王都を囲む城壁の門を守るために蟲を焼きまくったり、斬りまくったりしてたな。おかげで、門は突破されなかったとかなんとか言ってたな。
「私も行きたい」
エリーが隣から言う、・・・てか、いたの!?
「お前はまだ駄目だ」
「私もジークと一緒にモンスター倒したい!」
ん~、そんなこと言われてもな。
「教えてやったらどうじゃ?ジークや」
「ちょっ!村長!?なに言ってんですか?」
「お主がラギに弟子入りしたのも大体エリーと同じくらいの歳じゃったろ?」
ラギというのは俺の師匠の名前でフルネームは、ラギ・ビライガ
「雷帝」の二つ名を持っている数少ないSランク以上の波動士。
言い忘れてたけど波動士にはランクが存在する。
主に下位ランク、中位ランク、上位ランク、Gランク、GGランク、GGGランク、ここまではギルドの方でつけられるランクでここから上はギルドの最高機関、ギルド連盟が認めたものだけがなれるランク
Sランク、SSランク、SSSランクである。二つ名がつくのはSランクから。
師匠はSSSランクで、俺は実力ならSランク以上だがギルド連盟が武器のおかげだと言って認めてくれない。まぁいいんだけどねそこは。
「ん~、そろそろ頃合いだろうし、いいかな?」
村長は ウム といった感じで頷く。
目をキラキラと輝かせながら見つめてくるエリーの頭をなでる。
「蟲狩りまでどうするつもりじゃ?」
「ん~、何か村人から依頼とかきてません?」
「依頼のう、昨日お主に頼んだことくらいじゃのう。村人から一つ来ていたが。ちょうどレイラが別の依頼から帰ってきたからの、そっちに頼んだ」
「え?レイラに?・・・・そうですか」
はぁ~、依頼とかあったらそれでしばらく暇つぶしも兼ねて運動できたのになぁ。よし、エリーにちょいちょい教えていくかな。
ふと見るとエリーが遊んで欲しそうな目で見てる。
・・・遊びがてら、かな?
「エリー、ちょいとリーガル密林に行くか?」
「うん!」
やったぁとはしゃぐエリー、村長は大丈夫なのか?といった目で見てくる、まぁ、モンスターはいるしな、戦い方の基本とか教えれそうだな。
「よし、釣りとか色々やろうぜ」
釣りやらなんやらかんやらの準備をして村の門を出て、森へと向かう。
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リーガル密林
今は釣りのため河原にいる。結構高い崖を背に向けてる形となる、川の向こうには林がある。
「あぁ!またエサとられた」
エリーが不服そうにエサを取られなにもついてない釣り針を見ている。俺はその様子を少し離れた場所から見ている。
「まぁ、そういわずに。ほら、エサつけてやったぞ・・・ん?」
エリーが耳をピンピン動かしている。
「ジーク、何かいる・・・」
「何か?」
確かに何かの気配がする。しかしその気配がなんの気配かはすぐにわかった。この気配はモンスターだ。
「上か!」
崖の上を見ると大きなゴリラのような姿をしたモンスターの姿があった。そのモンスターは咆哮をあげると飛び降り、水飛沫とドスウン!という音をあげて着地。あ~、魚逃げたなこりゃぁ。
このモンスターはゴリラ型のモンスターで名をジーコンガ。
筋肉の塊のような大きい体にフサフサの毛皮、ゴリラの顔がモンスターっぽい顔つきになって下から上にむかって生えてる牙が特徴的と言えるだろう。その握力は人間の骨なんか簡単に粉々にする。もしかしたら圧死させることも可能かも知れない。大きさはパッと見3メートルは超える。中型モンスター、種は牙獣種に部類される。
「ジーコンガが来るとわな、まぁいい、運動にはちょうどいいさ」
べつにこれは強がりとかそういったものではない、ジーコンガは下位ランクモンスターに部類されている。簡単にとまではいかないが、倒せるっちゃ倒せる。しかし、様子がおかしい、すでに怪我をしている、さっきまでなにかと戦っていたかのようだ。
まさかもう一頭いるのか?気もかなり立っている
ジーコンガが襲ってきた。
「エリー、モンスターと戦うってのがどういうことかよく見ておけよ」
右手に炎を灯しそれを撃ちだす、その炎は火球となってジーコンガめがけて飛んでいく、しかしジーコンガはそれを避けて突っ込んでくる。さらに二発目、三発目と撃つが避けられる。ジーコンガが殴りかかろうとするがそれを避けた。空を切ったジーコンガの大きい拳は地面を凹ませた。
さすがだな・・・おい。
今度は一気にジーコンガとの間合いを詰め、拳に炎を灯し殴る。火花が散りジーコンガは驚いたかのように仰け反る、しかしすぐに体勢を立て直し反撃をしてくる。再び火球を二発放つ、今度は二発とも命中。
怯んだすきに肉薄し炎の拳でラッシュをかける。殴ったところから火傷を負っていくジーコンガ、しかし再びジーコンガが拳を振るってきた。それを跳躍してかわしながら頭に乗り、炎を灯した拳を思いっきり叩きつける。が、まだ倒れない
チッ!脳震盪くらい起こせよこいつ!!さすがに素手(炎灯してるけど)では手強いな、一気にかたをつけるか。
右手の中指に付けられてるリングに波動を込める、その瞬間リングから炎が噴き出しそれがみるみる形が変わっていき炎が消えたときにはその右手には剣が握られていた。
このように、リングやネックレスなどといったアクセサリーから武器に変わるものは珍しくない。
波動士なら誰でも持っているようなものだ、中には師匠のように背中に武器を背負ったり、腰に武器をさしたりする者もいる。
この剣は「炎の聖剣」 かつて炎神が使っていたとされる聖剣。
聖剣に炎を灯し振るう、一撃でジーコンガを大きく怯ませる。さらに一閃、斬られるのと同時に焼かれる、ジーコンガが怒り拳を振るってくるがそれを避けまた一撃、倒れこむ。そこに炎をめいっぱい聖剣に込め振るう、ドゴウン!!と爆発音を立てて煙が上がる。煙が晴れた時には、斬り焼かれ横たわり沈黙しているジーコンガとそれを見下ろす俺、ジーク・アラウドの姿。
「これが、モンスターと戦うということだ。それでも波動士になってモンスターと戦いたいというのか?」
「・・・・・・うん!だってもっと強くなりたい!」
「いい返事だ、ちょいと厳しくなるがついてこいよ?」
この日から、エリーを波動士へと鍛える日々が始まった。
が! その前に、まずは三カ月後に開催される蟲狩りだな。