Ⅵ 狼鬼
「・・・・俺と来るか?」
「?」
「俺の所に来い、これからは俺がお前の家族になろう。もう、お前を孤独にはさせない」
「・・・家族?」
「そうだ」
「・・・・・・うん・・・家族・・・なる」
「俺はジーク、よろしくな」
「う、うぅ・・・・うえぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇん!」
エリーは泣きながら差し出した手をそっと握る。
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現在
俺は今でもあの時のエリーの手の震えを覚えている。
「・・・・・ジーク?どうしたの?」
「ん?いや、なんでもない。まだ寝てていいけど?」
「いい」
「あ、そう」
しばらくエリーを背負ったまま歩いていくと。
ミシ・・・・
みし?
不意に聞こえてきた音と共に異常な気配を感じた。
こ・・・これはまさか!?
ズシン・・・ズシン・・・・
「な・・・なんで」
地面を踏みしめる脚には強靭な爪が、毛は漆黒で且つ光沢があり美しく、同時に恐れを感じさせる毛並み。大きさは俺の身長を軽く越えている。全長4メートルの大きな漆黒の狼。
狼鬼 ガルウルフ
頭にはその凶暴さを主張するかの如く生えた角、しかしその角は半ば折れている。
「・・・・この前のやつか」
角はまだ生えていない様子。
なんか、俺を睨んでるような・・・・?
なんて思っていた
ガルウルフが右前脚を大きくゆっくりと持ち上げる。
この動作は・・・これはマズイ!
刹那それを持ち上げたたときとは違い、途轍もない速さで振り下ろした。
俺は咄嗟に後ろへ跳躍して避ける。
グボゴォ!
ガルウルフの攻撃は空を切って地面に炸裂した。
「っ!あっぶねぇ!!」
「ジーク!」
「シッ!でかい声出すな。奴を余計に刺激してしまう」
「ウォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ!!!」
「っく!」
ガルウルフの咆哮が大気をビリビリと振るわせる。
「・・・・大丈夫か?エリー」
「う、うん」
「そこの岩陰に隠れてろ」
「いや!あたしも戦う!」
「お前には無理だ」
「でも」
「言うことを聞け!!」
「っ!」
思わず怒鳴ってしまう
「いいな?絶対にここにいろ」
「・・・わかった」
「いい子だ」
俺はエリーの頭を撫でてからガルウルフの気を引くようにエリーがいる岩陰から離れる。
「さて、あんときは逃がしたが今日は逃がさないぞ?」
「グウゥゥアアア・・・!」
前回と変わらずこの唸りには背筋に悪寒が走るな。流石は凶暴種・・・
モンスターは基本的に生態調査が行われている。甲虫種モンスターのアクレイやスピアビー、草食モンスターのカラシカなど、一般的なモンスターはその生態が明らかになっているものが多い。逆に生態が明らかになっていないモンスターは希少だったり、個体数が少なかったりで調査が困難なモンスター、もしくは伝承でしか存在が確認されてないモンスターが多い。しかし凶暴さ故に生態が明かされていないモンスターも存在する。そのモンスターは総称して凶暴種モンスターと呼ばれている。
ちなみに分類は
甲虫種、甲殻種、草食種、牙獣種、人獣種、水獣種、鳥竜種、獣竜種、飛竜種、魚竜種、水竜種、巨竜種、龍種、凶暴種、最強種、古代種、幻獣種
となっている。
他の種についての説明は後々していくとしよう。
「グゥアァ!!」
再び前脚を振るってくる。
「くっ!」
横に転がる形で回避してすぐに体勢を戻し距離を取る為に後ろへ飛ぶ。しかしガルウルフは跳躍して体を丸めて回転しながら突っ込んでくる。
「ぐうぅっ!!」
ズゴォォォォ!!
回避したがギリギリで肩をかすめた。服のかすめた部分が破けて若干の出血。
前回は一度も攻撃を喰らうことなく撃退したからといって無意識に油断していたか・・・
一度も喰らってはいなかったが全部紙一重だったからな。それにガルウルフのあの様子を見ると俺の顔を覚えているようだ、それに俺の大体の強さも。だからいきなり全開で攻撃してきたと思われる。
・・・てか絶対そうだ。
火球で牽制する。
しかしガルウルフは見事な素早い動きで回避して接近してくる。火球は爆散し火の粉を散らす。
接近してくるガルウルフの周りには火の粉が舞っている。
俺はその火の粉を一気に発火させ粉塵爆発を無理やり引き起こす。実際の原理は違うけど・・・
ドゴゴゴゴゴゴゴゴゴォォォ!!
火球の爆散よりも圧倒的に多い爆発量。
しかしこれはあくまでも威嚇でありダメージは期待していない。
煙の中から飛び出してくる。
そのまま俺の所へ突っ込んできて噛みつこうとしてくる。
「っく!」
これまたギリギリの回避となった。
「・・・厄介だな」
一歩間違えれば体の一部が持っていかれ、気を抜いたら死にかねない、こんなギリギリの戦いは最近はあまりなかった。身体の奥底から熱のようなものが湧き上がってくる、しかし思考は冷静だ。
ここからが本番だ。
湧き上がってくるものが俺の肉体を程よく緊張させ、よりベストなコンディションに持って行ってくれる。思考が冷静なおかげで感覚が研ぎ澄まされていき、より速くガルウルフの動きに反応できるように集中できる。
「フゥ~」
俺はガルウルフを睨み息を大きく吐いて無駄に入った力を抜く。聖剣を召喚し完全なる戦闘態勢をとる。
足に炎を灯しそれを爆発させて煙を起こしてその煙に紛れて肉薄する。
「せやぁ!」
ヒュン
外した。咄嗟にガルウルフは後ろへ飛び退いたようだ。
地面に足が着くと同時に炎で加速し再び肉薄して横に振るうがジークの頭上を飛び越えるように回避して着地。それと同時に後足で蹴りをかましてきた。
「がっ!あぁ!」
聖剣を振りぬいた隙をつかれた一撃だったために回避が間に合わず諸に喰らってしまった。
い、息が・・・!
息が詰まって苦しいのを堪えながら、吹き飛ぶ身体をそのままゆだね地面を転がる。
「がはっ!ゲホッ!」
「グオォォォォォォ!!!」
「・・・っぐ!」
息を整える暇もくれぬまま、突っ込んでくる。
「・・・・っのぉ!!」
口の中の血を吐き出して地面に拳を叩きつける。そこから炎が線となって地面を一直線に走る。向かう先はもちろんガルウルフ。
「地裂炎刃!!」
地面を裂くように走る炎がガルウルフを捉えた。跳躍するが一瞬対応が遅れて左後足を負傷する。
炎は更に地面を走りながら複数本に裂け、うねりながら大蛇の如く大きく、高く舞い上がりガルウルフを囲んだ。
「龍炎演舞!」
炎の先端が龍の頭のように形を変え、不規則な動きをしながら噛み付くようにガルウルフに襲い掛かる。最初は上手く回避していたが、複数の龍の形をした炎が絶妙なタイミングで襲い掛かっていく為それも徐々になくなっていく。
「ガァ!!グルアァ!!!」
龍炎に噛み付かれ、噛まれた箇所に火傷を負う。転がり回避して迎撃の為に爪を振るうが軌道を逸らすだけで破壊には至らない。
俺の高純度波動の炎を舐めんな!
「グオォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ!!!!!」
「っ!」
ガルウルフの咆哮に、つい耳をふさいでしまう。
どれだけ体を鍛えても、どれだけ精神を鍛えても、どれだけ波動を高めても、どれだけ技を磨いても、どれだけ技術を身に付けても、どれだけ戦闘経験を積んでも、逆らえないものがある。
それは本能だ。
むしろ戦闘経験を積めば積むほどに強くなる。その本能が今現在俺に危険を告げている。
そのせいで体が無意識に硬直してしまう。
しかも相手はかなりお怒りになられた様子。毛が逆立っている。更に咆哮で体が硬直してしまったために龍炎の動きが止まった。龍炎の包囲を突破したガルウルフが俺を殺さんと襲いくる。
やられ・・・・
「・・・・るかよ!!」
自分の足を殴り付け無理やり硬直を解いて横跳びで回避する。前転してそのまま背後へ回り込み聖剣を龍炎の方へ向け、炎を聖剣に集める。
「万物を焼き切る業炎の刃」
聖剣に集めた炎が大剣のように伸びていく。
「烈火 爆炎刃」
爆炎刃を横なぎに振るう。ガルウルフは勿論、跳躍して回避した。すかさず一歩踏み込んで縦に構え直してもう一度振るう。
「うるぁぁぁぁ!!!」
めいっぱい力を剣先にまで伝達させて渾身の一振りを叩き込む。
「グルァ!?」
おそらくガルウルフとしては予想外だったであろう。着地する前に二撃目が繰り出されたのだから。空中では回避のしようがない。例え今着地しても回避は間に合わない。
「おぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」
ズガァァッ!! ドォォン!
炸裂音の直後に爆発音がする。手ごたえはあった。
煙が立ち込める。ガルウルフの生死を確認しないと緊張が解けない。
「ガルルル・・・」
唸り声が微かに聞こえた。
「・・・まだ生きてんのか?」
煙の中からのしのしとゆっくりと歩いてくるガルウルフの影が確認できた。
どんだけしぶてぇんだよ!
なんて思っていたがどうやら相手も限界の様でふらついている。毛並みも焼けてチリチリになっており、所々の毛がハゲて地肌が見え、出血も確認できる。
次で決めれるか?
俺は自問しながら聖剣を腰に構える。
これから繰り出す技は蟲狩りで知り合った虎太郎さんの技を参考に編み出したものだがまだ未完成だ。
「フゥゥゥゥゥ・・・・・」
脱力させ、聖剣に炎を集める。足に炎を灯し急加速してガルウルフに肉薄する。
「烈火・・・」
ガルウルフのすぐ目前まで迫り、聖剣を抜き放つ。
「焔砕刃」
ザァンッ!!
聖剣の刃は炎の線光を残しながらガルウルフに炸裂した、しかし・・・
「手応えが甘い!?」
完全には捉えきれず倒すに至らなかった。失敗に終わった。
くっそ!
「もおぅいっちょぉぉぉ!!」
切り返し更なる一撃を叩き込む、それでも倒れない。
「まだまだぁぁぁ!!」
ガルウルフに連撃を仕掛ける。
スピードで翻弄し、立ち位置を素早く変えながら一撃、二撃と確実に捉えていく。ガルウルフが反撃してくるが離脱、直後に跳躍し体を捻って回転を加え、背中に切り込んで着地。長さ3メートルの火炎鞭で左後ろ脚に一撃入れて立ち位置を変える。ガルウルフが振り向いた瞬間を見計らい跳躍して顔面に蹴りを入れて身を翻しながら火球を三発撃ちこむ。ここで攻撃の手を止めたらすかさず反撃が来るだろう。攻撃を重ねながら聖剣に炎を込めていく。
ガルウルフが再び反撃してきたところを切り目にして離脱、もう一度腰に構えて肉薄する。
「今度ははずさん!」
先ほど失敗したのは踏み込みが甘く下半身での支えがうまくできていなかったからだ。そのせいで上半身がぶれ、剣先が逸れてしまい捉え切れなかった。
「烈火 焔砕刃!」
ズバァァァァァッ!!!
手応えあり!
聖剣がガルウルフを完全に捉え、刈り取った。
「ガ・・・ァァ・・・」
ズゥン・・・
ガルウルフは力なく唸り、倒れた。
「・・・・おわったか」
一息いれてエリーが隠れている岩陰に戻ろうとしたとき気づいた。
ここどこ?
戦っているうちに森を駆け回って訳の分からない場所まで来てしまったようだった。




