ⅩⅠ 蟲狩り終わり
朝日の光が大地の全てを照らし全ての生命に夜が明けたこと告げる。
昨夜、世界最強の三人の銃士「三銃士」のひとり、ゼオンが場を強制的に沈めるために放った空砲、あれは射出時に蟲が嫌う音を放ち、射出後に蟲が嫌う臭いを爆散させる特殊な弾丸だったとのこと。おかげで俺達は一晩蟲に襲撃されることはなかった。
一本取られた・・・
結局俺もゼオンと共にこのチームを指揮していくこととなった。
現在は再び蟲の卵を探すべく森の最奥部を目指して進んでいる。因みに、この森の最奥部まで行ったことがある者は歴史上、誰一人として存在しない。それだけ広大で危険な森であり、俺達はその森の中に身を置いているのである。死の危険はこの森に入った時点で隣合わせ・・・いや、この森が死の世界そのものなのかもしれない。
「お?」
本日最初に遭遇した、大量の卵。
硬そうな物で覆われた卵。
「・・・アクレイの卵か?」
アクレイ、蟷螂型の甲虫種モンスター。体は細長く、褐色。前脚は鎌状に曲がり鋭く発達しており人間なんて草を切る様にスッパリと切断してしまう。他の甲虫種モンスターを捕食する。頭は三角形で、左右に大きな複眼をもつ。雌は交尾ののち、太木で産卵し、卵を粘液で包んだ卵嚢を作る。今回の蟲狩りで俺も一度襲われた。
昨日のオオコガネの卵群級に大量にある。
「いや、こっちにはスピアビーの巣があるぞ」
スピアビー 蜂型の甲虫種モンスター。産卵管の変化した毒針をもち、その毒針が攻撃時に槍のように突出する事からこの名がついた。木や地中などに巣を作り、花から蜜を集めたり狩りを行うがスピアビーは完全に狩りのみ。社会生活を営むもので、女王蜂・雄蜂・働き蜂などの階級があり、分業がみられる。このスピアビーはその習性が他の蜂型のモンスターに比べ強く、外敵に襲われた場合は働き蜂が攻撃蜂、守り蜂の二つに別れ巣を守る。
周りを見るとアクレイやスピアビー以外の蟲の卵が多々存在。
「うへぇ・・・こりゃ大変だ」
昨日みたいにフルバーストを撃てないのかと思いゼオンに視線をやると目が合った。俺の思考を察したらしく、首を横に振った。
縦に振ってくださいよ、お願いですから・・・
「無理なもんは無理だ」
心読まれたよおい!!
「あれを撃った後にもう一度撃つには中身を色々と整備しなきゃいけないんだ。今撃ったら込めた波動の量の分だけ爆発するぞ?」
跡形もなく消し飛びますね。すさまじいですね。やめておきましょう。
「がぁぁぁぁぁ!!」
後ろから悲鳴が聞こえ、反射的にそっちを見る。そこには背後から胸を刺された一人の男。
スピアビーに刺されている。
「みな!蟲に気を付けろ」
刺された男は出血とスピアビーの毒によって死亡。
俺はすぐにスピアビーに向けて、炎槍を投げつける。見事に刺さり、スピアビーは焼死。
「蟲に気を付けろ!いろんな所から来るぞ」
ゼオンが叫び、ほぼ全員が反応する。
ゼオンはライフルの撃鉄を引いて弾を込め発砲。その弾丸はアクレイの卵が付いている木に命中し、少しの時差の後に爆発する。
「おっと!」
俺のところにアクレイが2匹襲ってきた。
前脚を振り上げ斬りかかる。回避してアクレイの顔ほどの高さまで跳躍して足に炎を灯し回し蹴りを決める。回し蹴りを喰らったアクレイの頭が吹き飛び体液を撒き散らしながら倒れる。攻撃の後の一瞬の隙を突くようにもう1匹のアクレイが体当たりをかましてきた。
「ぐっ!」
ギリギリで防御用波動術「炎壁」が間に合いダメージはなかった、しかし吹き飛ばされてしまう。
「てんめぇ、狙ったな?」
実際には今のタイミングでの体当たりは偶然だろう、しかし狙ったかのようなタイミングのよさにそう言葉を漏らしてしまう。
「ギシャアァァ」
いま答えた?
こいつ、とんでもない奴だ。タイミング良すぎ。
肉薄しながら聖剣を召喚し、細い胴体を真っ二つに両断する。今度はスピアビーの団体約20匹がやってくる。
「容赦なしか」
槍のように突出させた毒針を突き立ててくる。かわして腹部を斬り裂き、火球を放ち、蹴り、殴り、叩きつけ、半数を片付ける。
「万物を焼き切る業炎の刃!」
聖剣に灯した炎が大きくなり、大剣程かそれ以上の大きさの剣の形になる。
この術の影響で周りに被害が出ないよう、足に灯した炎を推進力に木の背より高く跳躍する。狙い通りスピアビーが追いかけきた。
「烈火 爆炎刃」
炎の大剣をなぎ払うように横一文字に振り、炎が伸びて範囲が拡大する。更にその遠心力を使い、回転するように二度、三度と振り回す。
追いかけてきたスピアビーは全て黒く焼け焦げ、その体をバラバラにしながら墜ちていく。
落下地点となるであろう場所を見るとアクレイがまた1匹いた。再び炎を推進力に空中での位置調整をしてアクレイの真上に落ちる。落ちると同時に剣を頭部に突き立てる。アクレイは力尽きる。
よしゃ、奇襲成功!
喜んだのもつかの間。背後に嫌な気配。スピアビーが毒針を刺そうとしていた。
うそぉ!?
ザグゥ!
うそおぉぉぉぉぉぉぉぉ!??
スピアビーをアクレイが斬り殺した。しかしこれはお互いの生態を考えればそんな異様なことでもなかった。
アクレイもスピアビーも他の甲虫種を喰らう蟲。つまりお互いが喰らう者であり、お互いが喰われる者なのだ。同じ場所に卵を産みつけたとしても共存しているわけではないのだ。お互いがお互いの食物になるという点ではある意味共存しているが。
アクレイは斬ったスピアビーを器用に前脚で拾い上げるとパリパリと音を立てながら食べ始めた。
時々ヌチャァとかグチュッ!とかグロイ音がする。しかも俺に気づいていない。これはチャンス。
「とりあえず朽ちろ!」
大きめの火球をぶっ放す。アクレイは爆死した。
てかさっきから俺、卵一個も破壊してないんだけど・・・
ボンボンボンボンボンボン ボゴォォォ!!
土が爆発するように巻き上がりる、何かが来たことが分かる。一昨日見たのと同じ。
「キングスコーピオンが来たぞぉ!!」
キングスコーピオンは大きな「触肢」と呼ばれるはさみをもち、歩脚は四対、尾端に毒針があり、キングスコーピオンの場合は毒液を射出して攻撃することがある。主に甲虫種モンスターを捕食。
以上、二度目の説明でした。
ボゴォ!
また1匹出現。
ボグゥン!
更に1匹
ボボン! ボウウン! バゴォ!! ドゴウン!
まてぇ!何匹出て来るんだよ!!
「うそだろ!ここにきてスコーピオンかよ!」
他の波動士も嫌そうな顔。出現したのは約10匹といったところか。
「サソリは俺が相手します。卵に集中してください」
「頼んだぞ小僧!」
小僧言うなし・・・
聖剣を構え1匹のキングスコーピオンに向かっていく。
毒液を射出してくるが、跳躍でよけて尻尾を切り落としそのまま背後へと回り込んで炎槍を突き刺し、爆発させる。
「キングスコーピオンを見つけた!こっちだ」
へ?
複数人の波動士、他のチームの波動士だ。
ということは
「あんたらはもしかして?」
「もしかしなくてもそうです」
「てことは、卵駆除ももう終わりか」
そういうことだ。
この森での卵駆除はある程度の卵の駆除が完了すれば終わりという、どこかアバウトなシステムだ。
しかし、どの程度まで駆除したら帰れるのかなんてはっきり言って分からない。そこで決められたのが、全チームが卵を駆除しながら進んでいるため、他のチームと合流すれば必然的に卵はかなりの数が駆除されているということとなる。他のチームと合流すれば王都での蟲狩りの合図に使われる信号弾よりも強力な信号弾を撃ち、他のチームに合図する。後は蟲狩りの合図同様、これに気づいたチームが撃ち知らせていく方式となる。
「とりあえず、ここの卵とキングスコーピオンを片付けてからにしよう」
近くにいたキングスコーピオンに斬りかかる。触肢を切り落とし、顔面に突き刺す。もう1匹のキングスコーピオンに炎針を打ち込み、肉薄して脚を斬り、頭部を切り裂く。その後ろから別のキングスコーピオンが毒針を刺そうとしてきた。これを転がる形で回避して拳に炎を灯す。
「万物を爆圧砕する業炎の鉄槌」
炎を一気に拡大させる。大きさは俺の上半身とほぼ同じ大きさ。
「烈火 爆炎槌」
跳躍して拳に構築した炎の塊を投げつけるように振り下ろす。炎の塊ははそのまま飛んで行き、炎の塊と俺の拳を細い炎が繋いでいる。その姿はまさに炎で作られた鎖ハンマー。
炎のハンマーはキングスコーピオンを叩き潰し、更に爆発の追い討ち。
「こっちもキングスコーピオンは片付きました」
波動士が言う。
「君、すごいな・・・一人でキングスコーピオンを3匹も片付けるとは・・・」
「自分でも驚きです」
なにそれ・・・
自分で言っておきながらのことだが、意味の分からない発言。
「とりあえず、卵の駆除をしましょう」
「そうだな」
蟲を蹴散らしながら卵の駆除を行う。燃やしたり、斬ったり、潰したり。長時間の作業の末、ようやく卵は全て駆除された。
「しんど!」
「だがこれで帰れるんだな」
「あぁ、こんな森からはさっさとおさらばしたいもんだ」
もう帰れるということで安心しているのか、自然と笑みがこぼれている。
「ジーク・・・だったか?よくやったな」
「あ、ゼオンさん。ゼオンさんの方がすごい働きしてたじゃないですか」
「いや、お前は他のメンバーが蟲に襲われないように戦っていた。おかげで死者は少なくてすんだ。お前が居なかったらもっと多くの死人が出ていただろう」
「ありがとうございます」
軽くお礼を言う。
「さて帰るか!っと、その前に・・・」
ゼオンが腰の辺りをゴソゴソと探り、なにか取り出した。それを上に向け撃った。
バシュウゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ・・・・・・ドパァァン!
信号弾だ。
「うっ」
信号弾の煙を目で追うととてつもないまぶしさに視界が襲われた。太陽がいつの間にか真上に来ていた。
「もう昼か・・・はやいな」
卵の駆除を再開したのが早朝、朝日が少し昇ったくらいの時間帯だった。
道理で腹減ったわけだよ。
なんて思いながら王都へ向けて歩き出した。
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王都 南門前
ここまで来るのにやはり蟲の襲撃を受けた。その度に交戦して披露が溜まっていく。ぶっちゃけ疲れが半端じゃない。リーガルの森でガルウルフを撃退した時以来だな。
「やっと着いたぁ!!」
門をくぐり仮設テントまで来て、皆倒れこむ。肉体的疲労もあるだろうが一番は危険な森で常に気を張っておかないといけない状況にあったが故に精神的疲労が大きいだろう。
何故そう言えるのかって?
俺が今そうだから。
「波動士の皆さん!お疲れ様です」
騎士団の人が駆け寄ってくる。
「とにかく今は寝せてくれ」
「え?」
一人の波動士の言葉に戸惑ってしまう騎士団員。
「ハハハ・・・それだけ疲労がピークなんだ、何もしなくていい、休ませてやってくれ」
「か、かしこまりました」
さすがゼオンといったところか、すかさずカバーリング。
そのまま、大半の人が眠りについた。
「ジークは寝ないのか?」
軽い昼食を終えてずっとここ、防壁の上に座って森を眺めていたら後ろから声をかけられた。
「ゼオンさんですか」
「さん付けはやめてくれ、呼び捨てで構わない」
「そうですか」
たまにいるよね。
「隣いいか?」
「あ、はい」
「ん~、敬語もあまりな、為口でいい」
言いながら腰を掛けるゼオン
「じ、じゃぁ、遠慮なく」
「で、お前は寝ないのか?」
「まぁね、疲れはしたけど眠くはないからさ。それに、今は静かになったこの森を見ていたいな~と」
「ん?本当にそうか?」
「え?」
それ以外には理由はないけどな。ん~なんで?
「家族かだれかが心配ではないのか?」
あ~、なるほど。確かにそれは思っていた。
「なんで分かったの?」
「俺もたまにそうだからかな」
「そうなんだ」
「まさか恋人とかか?」
うげっ!この人、この辺はすっげぇオッサンだ!
ニヤニヤしながら聞いてきた。
「ち、違う違う。家族だよ」
「そうなのか?それにしては慈愛に満ちすぎた顔をしてたぞ?」
そんな顔してたの!?俺。しかも「満ちすぎた」て、「満ちた」じゃないんだ・・・
「ただの家族じゃない。あることがあって俺が引き取ることになった猫人の子供」
「ほう、獣人か。心配なのか?」
「うん。ちゃんと修行してるかな」
「そっちかよ!」
「え?」
なに?いきなり
「なんか、家族としての心配なのかとおもったわ」
「あ~それは、他の村の人がいるんで大丈夫かな?と。それに結構しっかりした奴なんで」
「そうか。修行ってことは波動士にしようともってか?」
「いや、それは本人次第かな。とりあえず今は、生きるための力、己の身を守るための力をつけさせる為にやってる程度」
「そうなのか?しかし、お前は中々の強さだからな。ランクは?」
「GGランク」
「その若さでか!?」
やっぱりビックりだよね。
「よく言われる。師匠が師匠だからね」
「え?師匠って誰?」
「ラギ」
「ブッ!!」
吹いた!!
「マジかよ!だからか。納得できた」
名前出したら納得される。流石は雷帝。
「なんで雷帝の弟子に?」
「ん~。俺の故郷の村が地震に襲われて、更にモンスターに襲われて壊滅したんだ。その時に俺を助けたのが師匠、ラギなんだ」
「・・・お前、今結構壮絶な過去を軽く話したな」
そこ!?
「ま、お前はかなり強い。しっかり守ってやれよ?」
「え?」
言うとゼオンは立ち上がり去っていった。
気がつけばもう夕方になっていて、きれいな夕日が森を照らしていた。




