"Oatmeal of Love"
彼女の台詞はいっさい出てきません。心の中の声です♪
ロマンティックな恋だけが恋ではありません。
本物の恋とは、オートミールをかき混ぜるように平凡で当たり前なのです。
─Robert Johnson.
お鍋の中にミルクを注ぎながら、そんな言葉を想い出していた。
オートミール…か。
現在の彼と付き合い始めてもうすぐ一年半。
もう私も彼もいい歳だし、"結婚"なんて早過ぎるにしても、少しはそんなことを前提に歩き出してみるのも、きっと悪くはない。
…そんな風に思う女の心とはほど遠く、男の心は複雑だ。
「ただいま〜。」
彼が仕事から帰って来る。
「ん〜いい匂い!今夜のご飯は何〜?」
決して悪い人なんかじゃない。
仕事も真面目で優しくて、外見だってとびっきりさわやかな彼。
なのにどうしてだろう。
煮え切らない。
安心はするけれど、胸の高鳴りはないなんて。
きっと幸せなため息に過ぎないけれど…
分かってはいるけれど…
「うんうん。いつもみたいに美味しい。」
彼は幸せそうにオートミールを口にして微笑んでいる。
そんな風な情景がなぜだかたまらなく切ない今日この頃。
「どうかしたの?仕事で何か嫌なことでもあった?」
優しい彼のそんなところを好きになったのにな…
なぜだろう。
時々どうしようもなくそんなところが嫌でたまらなくなる。
「もう一杯おかわり♪」
熱いのが苦手な彼。
幸せじゃない、なんていったら嘘になる。
だけど最高に幸せって、イノセントには微笑えない。
「……。」
おもむろに立ち上がり、となりの部屋へ入っていく彼。
マイペース過ぎてたまについていけない。
「……♪」
大っきなクリスマス色の箱を抱えて戻って来る彼。
「……!」
まるで試験に落ちてしまったへなちょこサンタさん。
照れくさそうにその手の中の贈りものをさしだす。
「今年の冬も君と一緒に居られてよかった!メリークリスマス!」
Oh, my dear Santa Claus!
赤と緑のラッピングをほどけば、恋する煌めきが散りばめられていた。
小さな男の子と女の子が、街のおもちゃ屋さんのお店の中を窓からのぞいている。
聖なる雪の舞うオルゴール。
「素敵なイルミネーションやレストランに連れていけなくてごめん。」
へなちょこサンタは頭をぽりぽりぽり。
何だか急に愛おしくなって、微笑んでしまう。
彼のお皿を手に私はオートミールの鍋の前へ。
そんなに熱くなくてもず〜っと温かい愛もある。
─Moon.
熱くなり過ぎる手前で火を止めて、お皿によそう。
熱すぎるのが苦手な彼のために。
彼はとっても幸せそうにオートミールを受けとって頬ばった。
「いつもありがとう。」
こちらこそいつも本当にありがとう。
ハッピーメリークリスマス。