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王太子様と旦那様とのお話合いが終わった後の1週間、目まぐるしい日々が続いておりました。
まずはレイスチャー家の養子へ入るための手続きをするために故郷の戸籍管理部へお忍びで行くこととなりました。先に旦那様が手を回しておいてくれたようで手続きは比較的簡単に終了しました。
その後久しぶりの故郷の風を感じる間もなく馬車で移動し、荷物の整理のためレイスチャー家に戻って参りました。
「お嬢様、ただいま戻りました。」
「あら、ミミ戻っていたのね。というか私たちはこれから姉妹になるのよ。お姉様と呼んで頂戴」
「私はいつまでもお嬢様のメイドです外ではお姉様と呼ばせていただきます。ですがこのお屋敷の中だけでもお嬢様と呼ばせてくださいまし。」
私はレイスチャー家の養子に入ったとしてもお嬢様の専属メイドだ。お嬢様は養子になる前から本当の妹のように接してくださっていた。養子の話が出た時、本物の姉妹になれると喜んでいたと旦那様からお伺いした。
「私はお嬢様に一生お仕えしていくと拾っていただいたあの時から心に決めたのです。ですから、養子に入って書類上姉妹となったとしても、お嬢様は私にとって一生お仕えするご主人様なのです」
「ほんとに強情なんだから。私正直お手紙をいただいたときは、お父様の上奏でどうにかなると思っていたのよ。それが本当に後宮に残ることになるなんて思ってもいなかった。本当に私のために、あなたが犠牲になる必要なんてないのよ。王室を騙した反逆者は私なんですもの。」
「そんな風に思わないでくださいませ。」
「これからの後宮は今までよりもはるかに困難なことも多いと思う。けれどいつでも頼って。本当に困った時は逃げていいのよ。今回の件すべての責任は私にあるのですから。」
いざというときは本気で頼りにしてほしいそんな顔をされている。ハチャメチャなことも多いお嬢様ですが、本当に私のことを心配してくださっているのが伝わってくる。
私は少し泣きそうになりながら「ありがとうございます。お嬢様」と頭を下げた。
また養子になるにあたって変わったことがあります。それがレイスチャー家における私の部屋です。もともとはメイド用の建物にお部屋を賜っていたのですが、新しいお部屋をいただけることとなりました。
新しいお部屋は、本館の日当たりのよい部屋で、メイド部屋よりも良い家具や寝具がそろっておりました。今まで過ごしていたメイド部屋と比べると広くなんだかさみしい気分です。ここよりも広い宮へ初めて住んだ時はそんなこと感じなかったのに。今まで同僚であったメイドたちもどこかよそよそしいですし、なんだか落ち着かないです。
今までレイスチャー家であったはずのメイドの仕事も、引継ぎがされておりやることがありません。
こんな時は今まで整理して時間をつぶすしかない。そう思って私はこの期間で話された情報をまとめるためメモ用紙に書くことにした。
まず私は今お嬢様の代わりつまりレイスチャー伯爵家長女として入宮している。しかしこのままでは辻褄が合わなくなってしまうため、もとから次女が入宮していたが書類のミスにより記録上では長女となっていたという設定で行くらしい。そんな適当なことがあるのかと正直驚きましたが、今は後宮の入れ替わりが激しく、そのようなミスが頻発しているとのことでした。
また今回の帰省での養子手続きも改ざんを行い、5年前には養子になっているということになったらしい。ちなみになぜ5年も前にするのかというと、貴族の養子は家に入ってから3年経たないと結婚が認められないという法律がある。つまり約1年前に入宮しているためその時には条件を満たしていないといけないことになるわけです。そのような法律があるということを知らず貴族社会の洗礼を受けた気分になっています。
また正室選定という名目上、今までの後宮生活とは異なり他の令嬢との関わりも増えると聞きました。そのため貴族としての最低限のマナーや教養を身につけなければならないそうです。読み書きはお嬢様から教えていただいたため基本的にはできますが、それ以外はあまりよく理解できている状態とは言えないです。
特に貴族間の関係、この国の地理、気を付けなければならない令嬢の顔を覚えたりとやらなければいけないことは山積みです。また座学だけでなく実践としてダンス、お茶、毒の選別などもあるそうです。毒の選別は得意で、特に山のキノコの選別は一度も間違えたことがないと自信をもっていました。しかしここで言う毒選別とは、紅茶やお食事に混入したものを臭いで感知するという技能だそうです。その話を聞き私は後宮は恐ろしい場所だと思い直しました。
これだけの教育を後宮で行うのはかなり難しいのではと思い、予習を頑張らなくてはと気を引き締めました。
そんなことを考えながら予定を立てているとカナが声を賭けてきました。
「ミミお嬢様、失礼いたします」
「どうぞ」
「お食事のお時間です。食堂へいらしてください。」
旦那様とお嬢様と一緒に食事をするのは初めてだ。少しわくわくした気持ちで食堂へ足を進めた。




