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私の名前はミミと申します。地方貴族レイスチャー伯爵家で長女であるクリスティお嬢様の専属メイドを務めております。そんな私がどうして今後宮でお茶とすすっているのかと申しますとそれは半年程前まで遡ります。
その日私はいつも通りお嬢様の部屋の掃除をしておりました。掃除もひと段落ついたところで応接間にお茶を出すように先輩メイドから頼まれた。そうしてティーセットを準備し部屋に入ると旦那様とお嬢様が真っ青な表情をされて話し合っておられました。
「この度王太子の後宮が作られることとなったのだ。よって15歳から18歳までの婚約者のいないものは1年間後宮に入ることとなる。私とてお前を後宮になどやりたくはない。しかしこれは王命なのだ。」
「嫌ですわ。どうして私が後宮に行かねばならぬのですか。私にはまだ研究途中の畑が山のように残っております。1年も後宮に入ってしまえばこの研究は無駄になってしまうのです。」
「しかしだな、我々の一族は権威のある中央貴族ではない、ただの田舎貴族だ。王命に逆らえば一家もろともとりつぶしになる。」
「ですが」
「もうこの話は終わりだ。一月後には入宮となる故荷物をまとめなさい。」
そうして旦那様は応接室を出て行かれました。
しかしお嬢様は下を向いたままソファーで何かを考えこまれておりました。
「お嬢様時間もありませんし、早速お荷物の整理を始めましょう。」
「いいえ、わたくしはこれ以上研究を先延ばしにすることなんてできませんわ。よって後宮にはまいりません。そこでミミ、あなた私の代わりに後宮へ1年間行ってきて下さらない?」
私はお嬢様が何をおっしゃっているのかさっぱり理解ができませんでした。
「お、お嬢様何をおっしゃっているのでしょうか。」
「そのままの意味よ。私研究やめたくないからどうしても後宮には行きたくないの。私は基本的に家から出ないから貴族から顔を知られていないから大丈夫よ。」
「そんなこと言われましても…」
「もちろんタダでととは言わないわ。後宮にいる1年間はいまの給金の三倍は出すわ。それにティナの進学費用だってこちらで工面するわ」
それはかなり良い提案でございました。私は現在病死してしまった両親に変わり妹ティナの進学費用を貯めているところでした。借金をしないと厳しいと思っていたためかなりありがたい話でもございました。
さらにお嬢様の研究は、麦の品種改良に関しての研究で、これが進むことで多くの領民の生活が豊かになるといっても過言ではございません。
「承知しました。お嬢様」
こうして私はレイスチャー伯爵家で長女であるクリスティお嬢様の身代わりとして1年間後宮へと入ることとなりました。
後宮へ入ってからは意外と平和な日々が待っていました。朝起きて、朝食をとり読書をしつつお茶を飲んだり庭園で散歩したりと侍女として目まぐるしい日々を送っていた頃とは比べ物にならない程穏やかな日々が続いておりました。
しかしながら本当に暇で窮屈な日々でもございます。他の貴族の令嬢とは接触をしないようにしていたため基本的に自分の宮から出たことがありません。普通貴族のご令嬢はお茶会や夜会で大忙しでのでございますが、わたくしの場合そういったお誘いはお嬢様の方針で欠席をしております。
ひたすら人との関りを避け、1か月程で後宮を出られるというところまで来たある日、普段誰も来ることのないこの宮に一人の使者がやって来た。
「王太子の使いソンと申します。クリスティ殿、本日皇太子様がこちらの宮にお渡りになられます。ご準備をお願いいたします。」
そのあと使者が何かを話していたのだが後半はの話の内容は全くといっていいほど覚えておりません。一応使者様は帰られた様子でした。こんなことをしている場合ではなと、侍女としてレイスチャー家から来ていたカナと顔を見合わせ慌てて準備を始めました。
これからどうしよう皇太子様がお渡りになると後宮への滞在期間が3か月程伸びてしまいます。それは避けたいところでございます。それにお嬢様に言われていた給金の3倍期間は1年間です。それを超えてまでもこの窮屈で何もない後宮にとどまり続けなければならないなんてとても耐えられません。
とりあえず体調を崩したということにしてやり過ごそうかと考えました。しかし先ほど使者様と直接顔を合わせてしまっております。そんな急激な体調不良のような言い訳が通用する訳がありません。ならばもういっそのこと逃げてししまいましょか。後宮の塀くらいなら登れないこともないでしょう。ただそのようなことしたら、レイスチャー家が大変なことになってしまいます。そんな非現実的なことを考えている場合でございません。
仕方ありません。なんとか顔がばれないようにしつつ今晩だけやり過ごしましょう。おそらくお手付きにならなければ予定通り後宮から出ていけます。王太子や王様が後宮を訪れる場合基本的には記録係が外についておりまして、その日の夜伽の有無を記録しています。多くの妃はお渡りがあってもお手付きになっていないと聞いたことがあります。その可能性に賭けるしかありません。
こうして決心した私はカナと一緒にお渡りの準備をはじめました。慌ただしく準備している間に時間は立ちお渡りの時間となっておりました。
「お初にお目にかかります。レイスチャー伯爵家で長女クリスティと申します。拙室ではございますが王太子さまにご快適にお過ごしいただけますよう努めます。」
あいさつを終え王太子さまをお席にご案内し、お酒の準備をカナに頼みました。
ここまでは順調に進んでおります。一息つくと早速王太子様が不思議そうな顔で私を見つめ、口を開きました。
「そなたはなぜ自室であるのに日よけベールをかぶっているのだ?」
「本日ソン殿がいらっしゃったのちお迎えの準備をしていたのですが、利用した洗顔水が肌に合わずかぶれてしまったのでございます。お見苦しいお姿をお見せすることとなってしまいますゆえ、自室ではございますがこのままでよろしいでしょうか?」
「そうであったか。失礼した。そして本日はそなたに大切な話があるのだ。」
とりあえずベールの件はうまくごまかすことができてよかった。そして大切な話とは何だろ
う。とても嫌な予感がする。
「そなたを王太子妃として迎える」
私は頭から雷を受けたような衝撃を受けた。私を正室に迎えるだって。そんなんことあっていいはずがない。そもそも私はクリスティお嬢様ではないのだから。それにそもそも王太子さまとは今日初めて話すのに…声の震えを悟られないように私は口を開いた
「ど、どどうして私なのでしょうか」
「実は後宮の拡大の話しが持ち上がっているのだ。正直私は婚姻に興味がないのだが家臣たちがうるさくてな……これ以上後宮を拡大させ公費を切迫させるわけにはいかない。それに家臣たちの思うままに妃を迎えるとなると派閥によっては大きな対立を生むことなってしまう。」
つまり政治的な問題から解放されために地方貴族であり、中央政治とのかかわりが薄いレイスチャー家の娘を娶りたいということだそうです。正直身代わりで来ているミミからしたらとんだ迷惑な話という感想しか出てきません。正直レイスチャー家と同じような境遇の姫も何人もいらっしゃいます。無難にお断りすれば別の妃へと打診が行くはずです。
「申し訳ありません王太子さま。私に王太子妃など到底勤まりません。」
跪いて許しを請おうとした瞬間体を引かれ寝床に押し倒されていた。
「そなたの意見など聞いていない。そもそも正式な手続きをし後宮へ召し上げられたのだ。そのため、そなたは今日私のお手付きとなり正式な妃として本宮に上がることとなる。」
本当まずいこのままではお手付きとなってしまってまう。正室となってしまうこともいずればれ、レイスチャー家はおとりつぶしとなってしまう。それどころか私は王室を冒涜した罪で死刑となり家族もただでは済まないだろう。とりあえずこの場をやり過ごさなければ。
「大変申し訳ありません。本日月の障りがあり…夜伽はできません」
「月の障り…だと」
私は苦しまぎれの言い訳をを放った。正直これで逃れられるかは怪しいところであるが仕方ない。主人の家と自分の家族の命がかかっているのだ。もうこれで逃げ切るしかない。
「事前にご連絡をすべきところでしたがソン殿のいらっしゃった数時間後に始まってしまいまして…侍女に確認していただければ確かかと」
そういって王太子様の顔を見ると不可解な顔はしていたもののの、何とか逃げ切れそうな様子であった。もう一押しかというところで皇太子さまは
「もうよい。そういったことであればまた1週間後にこの部屋に参る。その時は万全の準備で望むように。」
そう言って王太子宮へ戻られた。




