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ブレーメンの聖剣 第3章散華<サンゲ> 下巻  作者: マグネシウム・リン


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挿絵(By みてみん)

「げー。結局こうなるのかよ」

 アーヤのバギーに武闘派3人が乗り込んだ。ニシがハンドルを握り、助手席にはレイナが、その膝の上にシスが乗った。すでにブレーメン廟は見えなくなり、首領の老人が教えてくれた廃村まではもうすぐだった。

「でも元はレイナがとちったからでしょ」

「うっせぇ、だまってろ。穏便に解決しようとしたんだよ、あたしなりに」

「あーあ。わたし(シス)もか弱い女の子なんだけどなぁ」

 今日のシスはツノカバのお面をしていないせいで、遠目から見ても高度な義体化をしたサイボーグだった。

「女の子って歳じゃないだろが」

 機械っぽく見えるところは指摘しないでおこう。

「もーレイナ! 女の子は何歳になっても女の子なんだよ。ね、ニシ?」

 ニシはちらっとシスを見たが、生返事のあと運転に集中するふりをして正面を凝視した。

「ちったぁ大人の女らしく振る舞ったら良いじゃねーか」

「ちっちっち。ガキンチョのレイナじゃ知らないと思うけど、男はみんなロリコンなんだよ」

「ぐぅ、言わせておけば」レイナは歯ぎしりして「あのな、ロリコンはニシだけだ。それにニシは熟女もいけるんだよな。な? 1500歳の化石ババアと仲睦まじいし」

「俺を巻き込むな。あと断じてロリコンじゃない。もうすぐ目的地だから、残りは(かち)だ」

 少し怒らせちゃったか。

 バギーは川に近い、天井の崩れた民家の中に隠した。

 武器を再点検した。(シェル)も十分にある。マチェーテも研いである。拳銃も訓練通り弾を確認して弾倉を再び叩き込む。

「まずはシスの狙撃ポイントを確保しよう。耳の測距儀があれば観測員はいらないはずだ。今日の天候だと、狙撃可能距離は?」

「んとね、4町で82%」

「あーと、3000ヤードほどか」

「ね、すごい?」

「生身の体なら、オリンピック選手になれる」

 ニシはわけのわからない褒め方をしてシスの頭を撫でた。

 ニシを先導に丘を登った。岩がごろごろしていて歩きづらい。それに日差しが真上から降り注いで暑かった。頂上まで休みなく登ってからやっと休憩だった。

「まずは敵の数から確認しよう。闇雲に襲っても返り討ちに遭うか逃げられてしまう」

「こんなことやる意味あるんかね」レイナが口を尖らせて「アーヤはともかく人質役はロゼとネネっしょ。あたしらが帰る頃には全員血祭りだっての」

「レイナ、君はそういうところが欠点だ」

 そういうところてのはどういうところだよ。

「そうだそうだ」

 ライフルを組み立てていたシスも適当に同調しやがったので肘で小突いた。

「それにうっかり人質になったのはレイナじゃん」

「それは! あたしだってあの時やろうと思えばやれたんだぜ。ひょろっちいのが2人だけ。素人の射撃じゃどうせ当たらないって」

「レイナは反省ということを覚えたほうが良い」「覚えたほうが良いぞ、レイナちゃん」

「でもよ」

「彼らは自衛のため武器を取った農民だ。きっと俺達がロナンブルグに近づく前から察知されていたはずだ。ここに来るまで人気(ひとけ)が無かったのもそのせいだ。レイナがあそこで立ち止まらなければ、素通りさせてもらえたんだろうが。ま、どのみち盗賊連中とはやり合うことになってたか」

 ニシが淡々と説明するせいで出鼻をくじかれてしまった。

「さて、いよいよわたし(シス)の偉大な機能の本領発揮なのです」

 シスの機械兎の耳がパタパタ上下する。3人のパルが軍事規格の暗号化無線で同期された。パルの画面に視差を利用した立体映像が浮かび、標的の情報がはっきりと見て取れた。

「3000ヤードでこの観測能力とは。身長体格それに顔の向きまで。驚いた」

「えへん。赤外線、光学観測、パルが出す磁気と電波の両方を走査(そうさ)してるのだ。えへん。シンタローくんがわたし(シス)の頭を調べてくれてわかったんだ♪」

「財団製の義体、か」

 ニシはなにか含みのある言い方だったが、それ以上は言わなかった。

 敵の数は14名。廃村の中央広場に陣取っていた。車両が2つ、軍用トラックが1つ。視界の妨げになる木々は切り倒され横に積んである。

「敵の武器はわからないが、義体化している可能性もある。注意していこう」

 敵の陣地の目前まで歩いて進み、ニシと最後の打ち合わせをした。

「えへへ、給料を注ぎ込んで買った焼夷弾の出番だぜ」

 レイナは赤く塗られたショットガンシェルを弾帯の一番上に挿し直した。ブラックマーケットで買った禁制品なので軍の補助は受けられなかった。

「すぐ屋内に飛び込むんだ。外の敵はシスが撃ってくれる。常に俺の後ろを、2人1組(ツーマンセル)で動く」

「あいあい、訓練通り、だろ」

 廃村の周囲は木々が切り倒されて、燃料に使われる傍ら、敵の車両の足止めに使っているらしかった。ニシは肉眼とパルの敵位置表示を見比べながら黙って雑草の陰に隠れている。

 ぽんとニシがレイナの手を叩いた。そしてレイナはニシの肩に触れる=行動開始。

 ニシは風のような素早さで音を立てずに駆けた。レイナも銀髪らしい体力を活かして離されずに付いて走る。

 一番近くの民家の壁に張り付く。1階部分は石とコンクリートで、2階部分が木造だった。日陰を選んで歩き、鍵のかかってないドアから侵入した。

 屋内の廊下は土間で、部屋の内部は1段高い板張りだった。人の気配はしないが、パルの敵情報では2階に光点が2つある。

「監視員、北東、赤い通気口の横。狙撃手だ。いつでもどうぞ」

 マイク越しにシスへ連絡を取る。窓の角から屋根の上の狙撃手を見ていたが、なんの前触れもなく、足をすべらせたかのようにして地上に落ちた。そして5秒した後に遠鳴りな銃声がかすかに聞こえた。

「初弾で当てやがった」

「ま、機械化してるわけだし」

「んだよ、今日はシスの肩、持たないじゃん」

 ニシの返事はなく、ハンドサインだけで2階へ進むよう指示された。

 外は騒々しかった。落下した死体に駆け寄る盗賊たちの後ろで、軽機関銃をもつ賊がさらに撃たれ窓枠から落下した。

 レイナの正面に敵✕2。手にすでにライフルを持っている=ためらうな。

 引き金を絞る。2発がほぼ同時に発射され1人目は即死。2人目も突然現れた敵に撃たれ呆然としている。

 レイナはマチェーテに持ち替えると間髪入れず首元に振り下ろした。敵の死相なんて気にする前に引きずって窓から投げ落とした。

 階下の敵兵✕3がレイナに気づいて銃を向ける&射撃。銃弾は薄い木板を貫通してレイナの直ぐ側で暴れ転がった。

 ニシがすぐに撃ち返し2名を排除+シスの狙撃が到来して1名が倒れた。

『弾倉交換中。階下に義体化兵』

 ほんのしばらくの間は援護が来ない。

「ニシ、次だ!」

 レイナは空薬莢を捨て、焼夷弾を詰めた。

 ニシが先に飛び降り、レイナもそれに続いた。

 背中合わせの銃撃/正面に集中。

 巨体の兵士は、目が赤く光っていた。財団製の義眼らしく外見の醜美が全く考慮されていない。

 レイナは反射的に引き金を絞る。いつもより軽い反動と共に小さな火花が視界いっぱいに飛び散る。そして一斉に着火して敵兵は火に包まれた。

「えへへ、どんなもんだい!」

 義体化兵は火に包まれもがいたが、すぐに平静を取り戻して、燃えながらニタニタ笑った。

「くそが、全然効いてねぇ」

 代わって拳銃を抜き、至近距離で撃ってみたが完全防弾の体表に弾かれてしまう。敵兵は燃えながらレイナに迫った。

くそったれが(ヒィーヤ)、クソ店主、不良品を掴ませやがったな」

 マチェーテを構え、火だるまのサイボーグとの肉弾戦に備える。しかし同時に、頭上の木の枝が弾け飛んで間に落下する。サイボーグも察したようで身を翻して屋内に飛び込んだ。間髪入れず狙撃が到来して石壁が内側から吹き飛んだ。

『もう、レイナ! あとちょっとで徹甲弾が当たったのに』

「んなこと言ってられるか」

『その“花火”より高いんだよーこのタングステン弾』

 ニシに引っ張られるようにして民家の軒下に逃げた。

 ショットガンと拳銃に装填し直す。レイナの隣でもニシがライフルに弾倉を叩き込んだ。

「シス、アップデート」

『敵残4。小火器で武装。うち1人は義体化』

「レイナ、落ち着いていこう。敵も体勢を整えたはずだ。反撃に備えろ。で、その龍火(ドラゴンブレス)が効かなくてしょげているのか」

「ちげーよ! んなわけ、ないだろ」

「生身相手なら、まあ効いただろうが。義体化したら呼吸も少なくなるし痛覚の遮断もできるし」

「なら教えてくれよ。トーキョーにもいるんだろそういうの」

「いない。いないが、龍火(ドラゴンブレス)は一部のガンマニアが作っていた。そうだ、発火剤はきれいに掃除しないと銃身が腐食する」

 ああ、もう面倒ばかりだ。

 敵が潜んでいる民家から銃弾がばらまかれる。ニシの先導でひとつ下がり石壁の影に隠れた。

「どう出る?」

「遮蔽物はないから無理に押入れない。敵も、シスの位置がわからない以上、不用意には出てこないだろう。対大型テウヘル用の擲弾筒、持ってくればよかったな。民兵にトラックを抑えられてなきゃ、持ってきたのに」

「じゃあ、次はどうするんだ」

「レイナ、君ならどうする? たまには自分の頭で考えてみたらどうだ」

「いつもいつも、お前を頼ってるわけじゃねーよ。ったく」

 敵もバラバラに銃撃しているがそのうちの1発がレイナの頭の近くではぜた。

 さあどうする。そこに止まってる車で突っ込むか。でも鍵を持ってる死体はどこかに転がったまま。シスの援護射撃は、いやボルトアクションだから敵の頭を抑えられない。しかもたった5発だ。車の横の燃料缶(ジェリカン)は、そうか!

「ニシ、そこの燃料缶(ジェリカン)を連中の家に投げられるか。空中で焼夷弾で撃つ。そしたら炎が降り注ぐ。家が燃えたら連中は出てくるだろ。どうだあたしの考え」

「ふむ、悪くない。そのショットガン、持ってきて正解だったな」

 ニシは素早く動いてくれた。中腰のまま遮蔽物の間を猫のように移動した。そして瞳が黄色に光る。レイナも焼夷弾を2発 装填して息を整える。

 おおよそ人間離れした腕力で空に向かって燃料缶が飛び上がる。レイナは銃口をむけて軌道をなぞり速度を合わせた。そしてちょうど、燃料缶が落下し始めるタイミングで引き金を絞った。

 射線上で無数の火花がきらめき、燃料缶が巨大な火の玉と化した。燃える燃料の塊はちょうど窓に投げ込まれ、乾燥した木材が一気に燃えた。そして男たちの悲鳴も聞こえる。

「よし、突っ込むぞ!」

 装填よし、マチェーテも強く握りしめた。あのサイボーグ野郎と対決だ。

 レイナは石垣を飛び越え一気に駆け出した。ニシの牽制射撃も織り込み済みでとにかく足を動かした。

「待てっ、レイナ!」

 ニシの大声/同時に目の前の家屋が内側から膨れ上がった(・・・・・・)



 最初に気付いたのは、青い空と逆光で影の中あるニシの顔だった。

 最後の記憶では、あの廃屋が大爆発した。なぜ……弾薬庫か。はは、なるほど。これからはテキトーに火を投げ込むのを止めにしよう。

 あたしが何を言ってもニシは言葉ひとつ発さず、あたしが嫌々言ってもむりに背中に抱え上げられた。

 ニシの背中にしがみついて、シスと合流するため川沿いを歩いているのは、わかる。しかし妙だ。あたしが喋ってもニシは1つも返事をしてくれないばかりか、自分の声もくぐもってうまく聞き取れない。

 ニシは器用にパルを操作して1行の文字列を見せてくれた。

『爆風で鼓膜が傷ついている。しばらく聴力は戻らない』

 はっ? しかし痛いとかそういうのは感じない。血だって出てない。それにおんぶ(・・・)しなくたって歩ける。あたしのケツを持つな。

 レイナはニシの手を振りほどいて地面に立ったが、世界がグラッと揺れてすぐ倒れてしまった。そしてニシはパルで文字を見せてくれた。

三半規管(さんはんきかん)も傷ついている』

 なんだそれ? それが立てないのとどういう関係があるっていうんだ。

 レイナはなおも暴れていたが、ニシは腕を引っ張り上げファイアマンズキャリー方式でレイナを抱えると有無を言わさず帰路を急いだ。

「途中までかっこよかったのに最後はダサダサ」

 シスがゲラゲラ笑ったが、抱えられたままのレイナに頭を叩かれた。バギーはもう目の前にある。

「少しは聞こえるんだからな。口を見たら何言ってるかわかる」

 しかしレイナの足元はまだふらつくため、ニシに介護されながら助手席に乗り込んだ。シスも空気を読んでレイナの膝の上ではなく荷台に飛び乗って体を安全帯(あんぜんたい)とハーネスでフレームに固定した。

「ニシ、ゆっくり運転しろよ。あたまがぐらぐらする」

「そんな大声出さなくても聞こえてるから」

「あたしが聞こえねーんだよ。つーかどうするんだよ。このままババァみたいに耳が遠いままでかい声で話すのなんてヤだぜ」

「ホモ・サピエンスじゃ鼓膜の再生に1ヶ月単位でかかるんだ。ヒトのさらに銀髪とあっては、回復が早いんじゃないか?」

「なぐさめになってねぇから」

 バギーは激しく揺れた。しかしレイナは水平という感覚を掴めないのでひたすらバギーのフレームを掴んで振り落とされないよう踏ん張った。胃が裏返りそうになっても息を止めて耐えるばかりだった。

 人質のいるブレーメン廟に帰ってくる頃には山の影にすっぽり包まれていた。日は山の向こう側にあって、まだ夕暮れ時じゃないのに真っ暗だった。

「賭けだ。ネネのばーちゃんが連中を血祭りにあげているほうに1万」

 レイナの声が大きいせいでニシは顔を反対に向けていた。

「愛想の良いロゼが農民たちと仲良くやっている方に1万」

「じゃわたし(シス)はね、んーと、アーヤが小難しいブレーメン学派のお話をしている方に1万」

 3人して、冗談ぽくゲラゲラと笑った。レイナは再びニシにおぶわれる(・・・・・)と徒歩でブレーメン廟へ近づいた。

 三方に朱塗りの(やしろ)があり、その中央は焼香台で(タァップ)のような線香が煙を上げている。

 民兵たちは武器を持っているが負革で背中に銃を回し、タバコを吸ったり談笑したりしていた。そしてその輪の真ん中では、チーク材のテーブルが置かれ、村の老人たちがネネを囲って座っていた。

 ネネが座っているのはやたら装飾が凝った高座だった。正座で、茶をすすりながら喋っている。ロゼとアーヤもその輪の中にいて、リラックしている。炭も焚かれ暖をとっていた。

「おいこら、あたしらが血を浴びている間に、なにくつろいでんだよ」

 レイナが大声で言ったせいで、ニシは耳を遠ざけた。3人の帰還に民兵たちもすぐ気づいて道を開けてくれた。

「レ……ちん……たのけ……た?」

「アーヤ、声が小さい」

 やっぱり大声なせいでアーヤも目を丸くした。ニシが出来事をかいつまんで話すと理解したようで、さっきまで座っていたイスをレイナに勧めた。

 あまり大声も良くない気がしたので、レイナはパルで文字を打ち込んで投影モードでテーブルに文字を映し出した。夕暮れとあってよく見える。

『あたしら鉄火場(てっかば)にいたんだぞ。爺婆でお茶会するぐらいなら逃げろよ』

 卑猥かつぞんざいな言い回しにロゼが顔をしかめたが、都会っぽい言い回しに田舎の爺婆たちは理解していないようだった。ネネは甲高い声であれこれ喋っていたがレイナの耳には届かない。

 アーヤが素早くパルで“通訳”してくれた。

『村のご老人たちが妾をブレーメンと見抜いて武器を降ろさせた。しかしレイナたちが行ってしまった後でどうすることもできずとりあえず昔話をしとったんじゃよ』

 レイナはすぐ反論の文を打ち始めた。耳の調子が悪いせいで視差を利用した立体画像を見ると吐き気がする。

 苦労して文字を書いていると、先にネネが話し終わった。

『村の者たちは、今日の非礼と賊を退治した礼をしたいそうだ。金品の類は持ち合わせていないが、精一杯、夕食を準備してくれるとのことじゃ』

『先を急いでるんじゃないのかよ』

 ロゼを見たが、軍隊式のハンドサイン=“静かに待機”が返ってきた。

『夕方に絞ったばかりの新鮮な牛乳もあるぞ』

 そう言われたら、くそ、うなずかなきゃならないじゃないか。

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