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物語tips:鼠の糞隊長
完全義体化兵部隊の隊長。イケオジ。ただし顔は芸術家がデザインしたもので生身の頃とは顔が違う。
元々は"司書"に所属する攻勢部隊だった。皇アナの王政復古の宣言と政変により司書は解体され人員の殆どが近衛兵団に吸収された。キー・シュー隊長は、もともと司書のやり方をよく思っていなかったため今では組織によく馴染んでいる。
隊員のコールサインは不吉かつ下品なものが付けられている。これは元上司がゴマすり野郎で気に入らない腹いせだった。レイナたちとは以前、タムソム市で刃を交えたことがあるがキー・シュー隊長たちは反撃できるにも関わらずレイナたちを"命令にない"という理由で見逃している。
連邦製の戦闘用義体は、性能こそ財団製の義体に劣るもののデータリンクや電子線装備などが配備されている。
噂とは、“根も葉もない噂”というように根拠がない。実体がない。証拠がない。根っこか葉っぱか、それぐらいならあるかもしれないが生えているのは木じゃなくて雑草だ。そういうのを噂っていう。
噂が広まるのは恐ろしい。大衆操作心理学とかいう夢うつつ10時間もかかったお勉強だったが、唯一覚えているのは実体がなくても大衆は動く、というものだ。
嘘では動かせないし命令しても動かない。大衆を動かすのは大変な労力なのだが、簡単な方法がある。噂、だ。どんな噂でもいいわけじゃないが、“単純明快”かつ“自分の利益にかかわる”ことなら話は別だ。口の軽そうなほんの数人に「ここだけの話だけど」って枕詞を付ければ、あとは寝て待つだけで噂が広まる。
「オーランド政府は情報開示をせよ、か」
レイナは空きオフィスの窓辺から眼下を見下ろしていた。道を埋め尽くすのはデモ隊だった。最初は、オーランド周辺域の工場労働者が厳しいノルマに反発したいざこざが、警察沙汰になり、扇動者が武闘派の活動家を引き寄せた結果、こうなった。
警官隊は、6桁区に続くハイウェイを封鎖している。デモ隊もそれをよくわかったうえであえて警官と衝突せずロータリーに集まっていた。何もせず、ただシュプレヒコールを唱えている。
「家族を助けて」
横断幕が見えた。国営工廠に掛けてあるような“勤労奉仕忠誠”とか書いている横断幕の、その裏地にペンキで労働者たちのメッセージが書いてある。得に企業連合やらの街から来た難民は工場労働と引き換えに仮の居住許可を与えられている。
そして、彼らの故郷からの連絡がぱったりと途絶えてしまった。難民を満載したバスも先週から姿を見せていない。そういう噂が今回のデモの原因だった。
「装備を点検しろ」
鼠の糞隊長の命令で、小隊の全員が輪になってライフルと弾薬と弾薬を手で触れて確かめる。どれだけ体を機械化してもそういう所作は生身と変わらない。
レイナは、今回は鼠の糞隊長の指揮下に入っていた。というよりオーランドの外へ巡空艦に乗って、そこの廃墟で実弾訓練しに行くはずが暴動発生の可能性が報告され、7桁区で降ろされた。
ロープ懸下訓練は正直嫌だから、任務に切り替わったことには感謝しているが、こう大規模なデモ隊を相手にするのは厄介だ。あたしは義体化野郎と戦う準備はできているがたくさんの市民相手に警棒を振るのは正直言って躊躇ってしまう。
装備を確認する。短縮型の三三式ライフルに、弾倉は3つだけ。閃光音響弾が2つ支給された。拳銃は金属ワイヤーでタクティカルベルトと繋いだ——どこかに引っ掛かりそうで嫌だ。しかし背中は背嚢ではなく、ベストの上から給水袋を背負うだけなので軽い。
「任務を説明する——」
キー・シュー隊長が話し始めたが、通りのほうが騒がしくなった。デモ隊が暴動に変わった。警官隊と乱闘している。
「俺たちは後詰だ。軍警察からの要請があれば我々が出るが、それまでは待機だ。ん、レイナ君、待機は不服かね」
「いえ、何でもありません、隊長」
慣れない敬語に他の隊員たちもつられて笑った。ここにいるのは完全義体兵の4人+レイナだけで、他の隊員は別の場所で待機していた。
「こういうゴテゴテいかつい部隊は、案外出番がないんだ。想定している敵は財団の完全義体兵であって、デモ隊でも銃を握る生身のド素人でもない」
「じゃあなんで」
「命令があったから」
ま、そりゃそうだな。そしてあたしは、生身で銀髪/扱いにくいので小隊本部たるキー・シュー隊長の膝元に配置された。
「レイナ君は、そうだな、ハン・ヒヤ、お前が付いてやれ。もう彼女は経験が豊富だ。後ろについていくだけでいい。ま、君は男を尻に敷くタイプが好みだから満足だろう」
男どもっぽい下卑たジョークだった。しかしトカゲのしっぽという名前は下品というより不吉な名前でヤなやつだ。
「よぉし。ばっちり決めていくぞ」
「お、おう、よろしくな」
完全義体化兵は、みな機械仕掛けの巨体だがハン・ヒヤの場合は頭の中まで巨体だった。
イヤホンを耳に挿し、軍用パルを展開する。キー・シューから無言のまま配置図を転送された。
「さあ、レイナ君、ついてくるのだ!」
ハン・ヒヤがどすどすと体を揺らして出発した。巨体だがちょうどドアが通り抜けられるぐらいにはサイズが抑えられている。足取りはかなり速くレイナのことはあまり頭に入ってないらしい。
レイナは階段を駆け下りて下の階の窓から隣のビルの窓へ飛び出した。先に飛び出していたハン・ヒヤが窓を割ってくれたおかげでけがせずに済んだ。ブーツの底でガラスの割れる音がする。
『群衆が火炎瓶を持っている。発砲許可を』
イヤホンから声が聞こえる/防諜ノイズが入っているせいで誰の声か判然としない=サイボーグ・マッチョたちは補助脳を駆使して分かっている。
『だめだ……軍警察には連絡しておいた』
レイナとハン・ヒヤは2階の窓から下界を見渡した。
「おい、こっちにも。火は着いていないがありゃ火炎瓶だよな。あっちはライフルも」
「うむ、いい気概だ、レイナ君。だがまだ動くべき時じゃない」
「でもよ……あ、いやわかった。我慢する」
「フフフ、それでいい」
やりにくいったらない。命令に従うってのは嫌いだ。ニシならそのへん、融通してくれる。今、あの火炎瓶に火がついて警官が火だるまになって死んでもあたしのせいじゃない、命令がないから動けなかったから。そんなクソったれなことあってたまるか。
警官隊は盾を構えたまま、その間を通って軍警察の装甲車両が出てきた。屋根には放水銃がついている。デモ隊は散り散り退いたが顔半分をスカーフで覆っている若者たちが火炎瓶を投げる/意味もなく装甲車の表面を焦がしただけで、返って放水銃で吹き飛ばされる。
「ありゃ、骨2,3本折れたで済んだらラッキーじゃん」
「なかなかに良いガッツだ、うん。勝てぬ相手にも真正面から立ち向かう勇気、賞賛に値する」
「ハン、おめーどっちの味方よ」
「もちろん、連邦市民の味方さ。さっきの彼ならよい兵士になっただろう。体がややひ弱すぎるのは否めないが」
「へぇ」
「してレイナ君、以前勧めたプロテインは飲んでいるのかね」
「飲んでるけど。あたし女だしそうそうデカくなんねーって」
というか完全サイボーグがなんでプロテインなんて飲んでるんだよ。
「いいかい、レイナ君、トレーニングというのはね」
「心技一体の妙技。体が鍛えられれば心が鍛えられ、心が鍛えられれば体が応える」
ハンは訓練の休憩時間もそんなことボヤいてるので覚えてしまった。
「まだあるのである」
まだあんのかよ。
しかしノイズまじりの通信がハンを遮った。
『緊急、参照地点へ急行せよ』
隊長からの指定通信/機械仕掛けの体が飛び出した。
ハンは巨体で道路に着陸するとどしどしと駆けて行った。
「あのやろ、あたしの後ろをついてくるんじゃなかったのかよ」
2階から飛び降りるのは、銀髪の体力をもってしても勇気がいる/着地=暴徒が角材を振り上げたので拳を2発お見舞いしてやる。
『装甲車が襲われ、憲兵が拉致された。死者も出ている。敵は致死性武器を携行』
キー・シュー隊長から矢継ぎ早に指示が出る。
『一番近いのは君たちだ。70秒以内に目的地に到着せよ』
訓練と全く同じ所作/全く同じ時間制限/違うのは失敗すればヒトが死ぬ。ヒトを死なせて人を死なせない。
レイナはハンに何とか追いついた。肩を上下させて息をしている。
「あれが軍警察の装甲車」
言われなくてもわかる。炎を上げて燃えている。そばに死体が1つ、交差点には血を流してうめいているのが2つ。
「早く助けないと!」
「待ちたまえ。要救助者はあのコンビニの中。屋根には機関銃手2名、拉致された憲兵は室内。少なくとも1名はいる」
体を引きずったらしい血の跡が残っている。
「人手が足りないじゃん」
「本部に要請をした。が、他の仲間も手いっぱいらしい」
確かに、パルの戦域地図の表示はどの部隊も交戦を示している。ってことはあたしらだけか。
「レイナ君ならどうする?」
「くそ、こんなときにお勉強かよ……って、ええと、落ち着け。そうだ、優先順位だ。確実に助けられる方から。交差点の2人は、最悪助からない、助けに行ってもあたしらが撃たれる。まず助けるべきは拉致された憲兵だ」
ハンが満面の笑みでうなずく。
「俺が屋根の2人をやろう。強化脚なら飛び上がれる。レイナ君は室内の敵だ。用心するんだ」
「おうよ」
ライフルの装填を訓練通り確認/音響弾の位置に手を触れる。深呼吸で心拍数を抑える。頭がクリアに。考えなくても次の行動が分かる。待ち遠しい。
「今だ」
ハンが状況を読む/飛び出した。走りながらライフルで屋上の敵をけん制する/攻撃を引き寄せる。レイナも続いて飛び出し、反対方向に曲線を描きながらコンビニに近づく。
これと似た状況は訓練でしたことがある。出入口は表に1つ。たぶん裏手にもあるが罠があるか硬く施錠されている=それなら真正面が適している。
レイナは入り口横の壁に張り付くとすぐに音響弾を投げ入れた。
3・2・1……
鼓膜が揺れる音と昼間でもわかる閃光/男たちの喚き声。
レイナは同時に突入/屋上から腕をもがれた男が落ちてくる。
カウンターの向こうに1人/落ち着いて上半身に4発食らわせる。
横/飲料用冷蔵庫の前にショットガン野郎=銃弾を浴びせ死体は冷蔵庫のガラスドアを破った。
敵の乱射=しかし視力はまだ戻っていない。レイナは膝立ちになり落ち着いて制圧。
拳銃に持ち替えて唸っている捕虜の様子を見た。1人は軽傷だが、もう1人はひどいヤケドだった。
「よしまだ息がある」
「奴らは店の事務所だ。2人逃げた」
「了解」
レイナはコンビニのバックヤードに拳銃を向ける。スイングドアの小窓はマジックミラーになっているせいで向こうが見えない。
『レイナ君、合図で突入する。誤射は気にせずともよい。ライフル弾ぐらいじゃ傷すらつかぬ』
傷はつくだろうが。
落ち着け。ここで気を抜くな。訓練では気を抜いたせいでペイント弾をしこたま撃ち込まれた。
『今!』
引き金を絞る。スイングドアが途端に穴あきに/足で蹴飛ばして突入。
1名=地面に伏せて頭に手を乗せている/降参。
もう1名=バックドアから逃げようとしたところ、ドアが外側へ引きちぎられ、巨体の腕がからめとった。
「レイナ君、音響弾は2つ、投げ込むべきだったな」
「あたし、あの2人を助けに行くから」
レイナはすぐに踵を返して、コンビニから飛び出した。あちこちで煙が上がっているが暴動は落ち着いてきたらしい。ゴミの散乱した交差点で、レイナはポーチから救急キットを取り出した。
「痛いいたイタイイタイ」
1人は銃創、たぶん屋根の連中に撃たれたんだ。大口径で足を撃ち抜かれているが動脈はたぶん無事。うめいているのは体の半分が焼け焦げている方だ。くそ、これ助かるのか。
レイナは緊急鎮痛剤の針を血管が無事そうな太ももに挿した。痛い痛いとうめかなくなったが今度は手足がけいれんし始めた。
「くそくそ、今度はなんだ」
「ショック……状態だ。心臓が止まりかけている」
撃たれているのに、憲兵は横から指示してくれた。レイナはすぐ仰向けにすると胸の中央を力いっぱいに押した。焦げた臭いとヒトの体液の臭いが充満している。手には粘液だが血だか内臓の一部だかがべっとりとと付いている。
「死ぬな、死ぬなよ。くそっくそっ」
レイナの額に玉の汗が浮き出る。小さい体の体重をかけて焦げた胸を押し込むが無意味に頭が揺れるだけだった。けいれんしていた手足もすっかり動かなくなった。
「くそっ」
間に合わなかった。まだあたたかいのに焦点の合わない眼光が空を睨んでいる。
いい死に日和だったんだろうか。
レイナはすぐ、もうひとりの足を止血帯で縛った。きつく締めて血を止めた後、止血剤と滅菌ガーゼを貼った。
「ありがとう」
「よしてくれ」
痛み止めのトローチを渡そうとしたが、憲兵は受け取らなかった。
「まだ敵地だ。敵のほうが多い。まだ意識を保ってた方がいい」
「おいおい。あたしは銀髪だぜ、近衛所属の。たかが暴徒の1人や2人、やっつけてやんよ」
「はは、いい兵士だがまだ新兵だな。いい新兵だ。彼は、私の部下だった。君が来てくれて、安心して逝けたはずだ。見捨てられなかったんだ、って」
嫌になるね。まったく。いい死に日和ってわけか、他人が勝手に考えた。
名前も知らない見ず知らずの他人なのに、その死がこんなに堪えるなんて。戦争って、こういうことなのか。正義も悪もない、憎しみの連鎖。犯罪者相手にドンパチするのとはわけが違う。ニシは、お前、こういうのを何度も何度も見てきたのか。
「レイナ君、ぼさっとするな!」
ハンが捕虜2人を抱えて現れた/レイナが顔を上げると周囲にぽろぽろと人だかりができ始めていた。服装からして、デモ参加者の工場労働者らしかったが眼光がするどかった。レイナはライフルこそ構えなかったが銃口を下げたままグリップを握った。
「んだよ、今度は。ヒトを腐獣か何かみたいに見やがって」
この中の誰か1人でも銃を構えたら即座に撃ち返せる。背中にいるハンならあたしの倍撃ち返せる。でもこいつら誰も武器なんて持っていない。それなのに数を頼りにじわじわ距離を詰めてきている。
『こちらハン。非武装の群衆に囲まれている。射撃の許可を』
ハンは口を動かさず機械音声だけで通信した。
『だめだ。威嚇射撃のみ許可する。その場を離脱せよ』
「おいおい、できるわけないだろ」
『弱音は聞きたくない。直接俺のところへ任務完了の報告に来い。以上だ』
ぷつんと通信が途切れた。
「粋だな、我らが隊長は! そう思わんかねレイナ君」
「思わねーよバカかよ。ロゼなら助けに来てくれるって」
んーたぶん。言ったそばから自信が無くなった。
「レイナ君ならどう切り抜ける」
さっきまでなら、力任せに押し通れたかもしれないがこうも多いと無理だ。武器も奪われてしまうかもしれない。というかこんな状況、訓練になかった。というかハンは何か案はあるんだよな。なんで黙ってんだよ。あたしだったら……あたしなりの方法で……
「よし、ハン、これ任せた」
レイナはライフルをハンの炭素繊維で覆われた腕に押し付けた。そして防弾ベストを脱ぎ、タクティカルベストに収まった拳銃と特殊警棒も渡した。
「おいおい、レイナ君何考えて——」
レイナはコンバットシャツ1枚になると、
「おいこら、インポ野郎ども。女1人相手にわらわら集まりやがって。ビビってんのか、あ? チンコ生えてるなら、素手でかかって来いよ! いくらでも相手してやらぁ!」
レイナはニシに習ったカラテの構えをした。そして群衆からは腕っぷしの良さそうな男が3人、前へ出た。
†
道の横でちょうど一段高くなっている縁石で、ハン・ヒヤは大見得を切っていた。
「——そしたらレイナ君は、なんと俺に銃を預けて1人群衆の前に飛び出た。そしてこう言ったんだ。“かかってこいインポ野郎ども! てめぇーらのポークビッツはあたしがにぎりつぶしてやらぁ”ってな」
小隊の男どもがゲラゲラ笑っている。口笛まで吹いている。キー・シュー隊長にも大うけだった。
「——あっという間に3人をのしたんだ。カラテのワザマエ? だっけか。そして次はこうだ。“ステゴロだけだぜ、かかってこい。あたしは天上天下最強の銀髪のレイナだ!”って」
「だっー言ってねぇよそんなこと! った。痛い痛い、もっとやさしく」
レイナは少しだけ縮こまった。小隊員たちの視線は少しだけ集まったが、すぐハンの誇張だらけの大乱闘話に花を咲かせた。
「動かなかったらもう少し早く終わる」
レイナの顔の傷を診ているのは、ニシだった。パックリ開いた額の傷をバンテージで張り合わせる。
「すまない。もう少し早く来ていれば。この顔の傷は残ってしまう」
「へっ、いまさら気にしねーって」
本部の救援要請に応えられたのは、結局のところニシだけだった。近衛兵団が取っておいた未知の敵に対する手札は最後まで使いどころが無く、レイナたちの救援のため高速巡空艇で現場に現れた。レイナに倒された暴徒は公務執行妨害で警察に連行されていった。
救急車も現場には来たが、軽傷だったせいでニシが手当てしている。
「がんばったみたいだな」
ニシは医療キットをしまいながらも、ハンの話に聞き耳を立てていた。
「バカにされてるだろ」
「いいや。認めてるのさ、仲間として。仲間の武勇を伝えるのは、仲間の役目だ」
「でもよ、あいつら目で見たものを記録できるんだろ。わざわざあんな——おいこら、タマは握りつぶしたんじゃない、蹴飛ばしたんだ! 握るわけないだろーがー!」
レイナは叫び、隊員たちは笑った。
「なあ」レイナはニシの肩をつかんで「お前が見てきた戦争っていうのは、こういう状況のことか」
「藪から棒になんだ?」
「だってよ。今日死んだ警官たち、警官たちのせいじゃないだろ? 工場の労働者だって殺したくて殺したわけじゃない。ついヒートアップしてつい殺してしまったんだ。お前、言ってたろ? 戦争ってのは恨み憎しみで際限なく殺しあうって」
「よく覚えてたな、偉い」
ニシはレイナの跳ねた銀髪を撫でて整えてやった。
「ごまかすなよ」
「そうだな。そんな感じだ。戦争は、そんな感じで始まってそんな感じで終わりがない。勝ったとしても、救い出した兵士に感謝されても、なんだろうな心のなかにやるせなさが残るんだ」
「よく耐えられるよな、お前。殺しとかそういうんじゃなくてさ。そういうのにはあたしもう慣れてるけどよ、相手が犯罪者とか賞金首とかなら全然ためらいないんだけど、でも今回のは誰も悪人じゃないだろ。だからさ」
ぎゅっと。
ニシが抱きしめてくれた。
固い男の腕と肩に触れる。なんだよこいつ。
「それが、世界。ヒトの姿だ。目をそむけたくなるのは分かるが、そむけてはいけない。それが覚悟だ。この世界で生きる覚悟」
「あたし、確かめたいことがある。ロゼに。なあ、一緒に来てくれるよな」
レイナは抱きしめられたまま、抱きしめている男を放さなかった。聞きたい答えが返ってきてやっと放してやった。




