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ブレーメンの聖剣 第3章散華<サンゲ> 下巻  作者: マグネシウム・リン


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 挿絵(By みてみん)


前方駆動の半浮遊バギーの助手席──あいつがいつも見ている景色だ。膝の上には半分機械のちっこいオバサン、左にはつんつんドレッドヘアのすけべがいる。

 チスタ=バローチでグアイと別れ、1日だけ医師の診察を受けて入院した。

 医者はかなり怖い顔してたが、朝イチで退院するとチスタ=バローチに別れを告げて北へ向かい海沿いのハイウェイを進んだ。

 午前中のビッグイベントは、財団の可変戦闘車(ジャガー)がことごとくスクラップになっていたことだ。巨大な爪で引き裂かれて真っ黒に焼けている。しかし死体はどこにも見当たらなかった。

 ロゼとネネの出した結論は、虚無の災害で凶暴になった腐獣(テウヘル)が襲ったからだった。レイナは足に力が入らないので歩いて見て回るわけにはいかなかった。

 しかしそのおかげで、オーランドへ向かうもっとも早いルートを選べたわけだし、砂漠のどざえもん(・・・・・)連中には感謝しかない。

 午後になると、そんな出来事も記憶の片隅に遠のき、退屈な荒野の直線道路が眠気を誘う。

「いつもさ、あいつと何話してんの?」

「ニシくん? 別に、普通よ。というか道中ずっといっしょなんだから黙ったままよ。話題、なくなっちゃったし。あははは」

「飽きるほど話を、ね」

「何? レイナちん、ニシくんが恋しいの?」

「ちげーよ。ちげーけど、最近2人きりで話す機会が全然なくてよ。いろいろあんだろ、他には聞かれたくない話とか」

「あー、なるほど。例えば──」

「下ネタじゃねーからな、一応言っとくが」

 アーヤはにやりと笑った。ティアドロップサングラスの下でもどんな目してるか予想がつく。笑うと斜視の左目をつむる癖がある。

「例えばよー、“お前ナニモンだよ”とか。あいつの過去全然知らない。そもそもトーキョーってどこよ」

 あと人類(ゲプト)軍だっけか、あいつの肩書は。

「たしかにねー気になる。(ア・メン)に連れてこられた、だっけ? 神話のブレーメンを前にして(ア・メン)もホントにいそうだけど、実感わかないよね」

 妙にアーヤはそっけなかった。

「気になるのに聞いてないんか」

「なんかさ、そういう過去って自分で話すまで待つのが、この砂漠のトカゲ団の流儀じゃない? 私、レイナちんのこと根掘り葉掘り聞かなかったでしょ」

 そりゃそうだが──シスが財団製サイボーグだって知らなかったせいで危うく生きた機械に喰われるところだった。

「あとね、私、今のニシくんを見て、仲間で良かった、って思ってる。過去のニシくんじゃなくてね。まさに不温故(マイウェンマイ)独知新(ドウチードウ)だね」

「はいはい、よくわかったよ」

「レイナちんは何かニシくんに聞かなかったの? 嘘かどうか、見抜けるのは銀髪の力でしょ」

「聞いたしあいつが言ったことは嘘じゃないってわかったけど、なんつーか、わかんないんだよな。ゲプト軍所属のガイコー部とかで、トーキョーでは各国の警察と軍隊に協力……各国ってなんだよ。(ステイツ)じゃねーの?」

「さあね、隠語じゃ?」

 どうも議論が堂々巡りして元の場所から動けない。

「じゃ、無線機で聞いてみる? ほら、ずっと直線道路でニシ君も暇してるだろうし」

「無駄話するとロゼに怒られっぞ」

 アーヤは片手運転しながら腕を無線機に伸ばした。レイナの声にぴくっと手を止めたが、マイクを掴んで口元まで引っ張った。蛇腹のケーブルが風にビヨンビヨン揺れている。

「あーもしもしニシくん?」

 しばらく返信が無かったが、ノイズのあとくぐもった声が聞こえた。

『どうした? 定時連絡にはまだ早いが、何かトラブルか?』

「いや、なんとなくお話しようと思って」

 大胆だなぁ、まったく。思ったら即行動、それがアーヤだ。顔役(バサラ)に手当たり次第仕事をくれるよう頼んだのもアーヤだし、その目立った行動でロゼにも目をつけられた。

『そうか……まあいいけど。何か気の利いた話はできないぞ。『桃太郎』でも朗読しようか? 静岡ローカルバージョンで』

「んーそれよりも、ニシくんのこともっと聞きたいナ。謎の最強エージェント」

 さすが、アーヤ、こういうときだけよく頭が回る。こういう話ならロゼもいちいち咎めない。

『んーそうだな。おじいさんとおばあさんが2人で暮らしていました。おじいさんは山へ芝刈りに、おばあさんは川へ洗濯に——』

「そーいうのはいいから、なんかこうないのかよ。スカッとする話をよ」

 レイナが割って入った。

『一応言っておくが、仕事の話ならどれも機密の扱いだ。ほいほいオープンチャンネルで話す内容じゃない』

 ちくしょう、いつもの軍人ニシだ。

「でもさ、その機密ってトーキョーで、でしょ。ここ唯一大陸(タオナム)じゃん?」

 さすがアーヤ。

『そう言われてもな。戦争のない唯一大陸(タオナム)人にとって戦争の話は理解できないだろう? ああそうだ、王女様の話なら理解しやすいか。日本のプリンセスを護衛した話』

 いいじゃん、面白くなってきた。

『プリンセスが国連で演説したりニューヨークの高校生たちと交流したりする間、護衛してほしいっていう依頼だった。護衛の仕事は、よくあることだ。国連ってのは、まあええと、連邦(コモンウェルス)のような組織だ。

 ただ当時の世界情勢がよくなかった。テロリズム——と言ってわかるか? 単純な飽和攻撃で、無数の囮の賛同者と本命の攻撃部隊に分かれている。CIAのおっさんたちも手いっぱいで攻撃はたぶん防げない。だから俺も、訪米自体の取りやめを進言したんだが、プリンセスは食い下がってね。だからこう言ってやったんだ。「テロリストからあんたを守ってやる。確実に。だがそれ以外は守り切る確証がない。子供たちのど真ん中で、カメラが世界中に中継している間に自爆テロをすれば、連中の目的は達成なんだ」ってね。2002年のことだ』

 映画みたいなストーリィだが、いまいち理解できない。自爆? 意味は分かるが理解できない。そんなことして何になる? 死んだらおしまいだろう。

『そしたらプリンセスのパパがやってきた。いわゆる王様ってやつだ。それが俺に頭を下げた。驚きだよな。そして娘を危険地帯へ送るのも、それが王族の義務だからとかなんとか』

『ちょっと待ってください。男の王がいるんですか?』

 ロゼが話に入って意外だった。聞き耳を立てていたあたり、暇だったんだろう。

『アナたち(おう)は、そもそもヒトじゃなくて赤月の印、生体記憶装置だ。無性生殖するために女系というだけ。地球の王は大半が男、男系王族なのは、単純に力が強いのと出産で死亡するリスクが無いからだな』

 レイナはいまいち理解できずアーヤを見たが、アーヤもハンドルを握りながら肩をすくめた。

『で、何かとはねっ返りのプリンセスだが、ニューヨークでの外遊を予定通り進めた。FBIと州兵が各地で武装集団を捕まえていたが、俺たちの周りは驚くほど静かだった。だが、国連での演説中、警備兵のひとりが銃を抜いた。そこからが大混乱だった。味方だと確証があるのは一緒に来た皇宮警察たちだけ。

 さて、ここで問題だ、レイナ。聞いてばかりじゃつまらないだろう? この状況でレイナだったらどうする?』

 くそ、あたしかよ。

「あーええと、そうだ! 全員に銃を置かせる。でこう言うんだ『あたしに銃を向けたら問答無用で撃ち殺す』てな」

『ふむ、半分正解だ。だがな、勢力は3つだ。俺たち、州兵と警察、テロリスト。敵も同じ制服を着ている。銃を置いた瞬間、相手が撃つ可能性がある』

『その場合、敵陣地の迅速な突破が最優先です』ロゼが近衛兵らしく正解をそらんじた『素早く敵の火力点(キルゾーン)から抜け出します。もちろん敵も待ち構えていますが1小隊を犠牲にしてでも敵陣地を突破します。敵の支援隊(セキュリティチーム)を破壊するのが好きですね、(わたくし)は。地雷がありませんから。退路はなるべく敵の想定しないルートを選びますが、それは彼我の戦力量に左右されますね』

『さすがロゼ隊長。完璧だ。演習だけじゃない、そういう経験ありっていう感じがする。ちなみに俺は屋上まで追い詰められたフリをして、地上階まで外壁を滑り落ちた。プリンセスといっしょに。俺もブレーメンの剣を持っていたからな、剣を壁に突き刺して減速しながら降りたんだ』

 さすがニシだ、そういう機転は嫌いじゃない……が、ブレーメンの剣を持っていた? それは初耳なんだが。

『——プリンセスをヘリに乗せたときは動ける仲間は半分に減っていた。味方の守りは“サクラ”に任せて、俺はプリンセスをニューヨーク港に来ていた「みょうこう」へ送った。船だな、普通の海に浮かぶ方の軍艦。──だがこれもブラフで、護衛艦で護送するとみせかけてプリンセスが鎮静剤で眠っている間に垂直離着陸機(VTOL)で東京まで送った。プリンセスは傷ひとつなく帰国できたし国際協調に向けた歴史的演説が完了した……なお、この話はフィクションだ。事件があったのは確かだが、俺が参加していたという証拠はどこにもない。以上、終わり。眠気覚ましになったか?』

 暇つぶしにはなった。となりでアーヤは満足げだし、ロゼも黙って聞いているあたり同じ“世界”に住むもの同士で納得しているくさい。ネネ婆ちゃんは、静かだからたぶんシスみたいに寝ている。でもあたしは——いやますます疑念ばっかり浮かんでくる。(ア・メン)に別世界から連れてこられたというのは本当らしい。


★おまけ

Twitterの「推しに食べさせよう」企画。ピザの画像はドミノ・ピザさんより

挿絵(By みてみん)

ブレ剣第1章「胎動」のキャラ「リン」ちゃん。筆者の最オシ

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