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物語tips:侵食弾頭
"無から有を生む技術"を転用した究極の兵器。ニシの言い分では、宇宙の外側に満ちる無限のエネルギー"マナ"を抽出する技術らしい。そのため熱力学のエントロピーを無視した万能のエネルギー源になりえるらしい。
過去に2度 唯一大陸で用いられている。1回目は1000年前の第1次獣人戦役にて、中距離弾道ミサイルで8つの獣人の都市を焼くために用いられ、大陸の東側半分が草木の生えない不毛の土地となった。2回目は450年前の第4次巨獣戦役にて、国家中枢で指導者フジ・カゼが民もろとも侵食弾頭で自爆した。
ネネの説明では、近年の砂漠化と腐獣の出現=虚無の災害は、そうした侵食弾頭の濫用が原因らしい。それら解決策は、旧人類の知識が収められたデータキューブにある、と言っている。
ウェルダンの物資倉庫の前に、装甲トラックを持ってきてある。そして一番厳重な地下室から金剛旅団の構成員たちが耐油紙に包まれたソレを山のように運び出して積み上げている。そしてその荷物をトラックに乗せるのがレイナとニシの役目だった。
正立方体の水晶体は強すぎる太陽光を反射してぎらぎら輝いている。直視していると視力が奪われかねない。
「だりい。まじだりぃ」
「疲れたか? じゃあ少し休んできなよ。俺がやっとくから」
そーやって優しさを押し付けられるのが一番嫌だ。
レイナは革の手袋をもう一度指の奥まで入れるとカラの箱に丁寧に水晶体を収める。1列に12個がきっちり収まるサイズで、縦方向にも4つ入る。これをフチのまで積むとそれなりに重い。
「金剛旅団が奪ったデータキューブだっけか。こんなに多かったなんて聞いてないぜ。しかもそこそこに重い。こんなのに大昔の人類の記録がねぇ」
金剛旅団の構成員がいなくなったのでニシに聞いてみた。
「しかしネネの見立てじゃ、“ありとあらゆる”記録らしいから、読み取ってみないとあてにならない。日々の仕事の愚痴かもしれないし、ヤイ・アックプラン──侵食弾頭に次いで威力の大きな兵器の設計図という可能性もある。レーザーで目に見えない気泡を人工石英に書き込むんだ。これひとつで、人類軍の技術なら12TBまで情報を書き込める」
「んだよ、もちっとわかりやすく言えっての」
「これ1つで、過去100年分の映画すべてを収めることができる」
「へ、まじ? そりゃすげーな」
「といっても、データを読み取る技術が枯渇していなければ、の話だけど」
しかしニシの話はぷつりと途切れた。再び黙々と、絵になる横顔でデータ・キューブを箱に詰めている。
「んだよ、話は終わりかよ」
「レイナ、どうせ理解できないだろ」
「バカにすんなよ。それにあたしだって事情をきちんと知っていたらきちんと仕事ができるかもしれないだろ」
「ふむ、それもそうか」ぐっとニシは腰を伸ばして「数百年、数千年、数万年と記録を保管するのは難しい。媒体の材質の耐久性もさることながら、読み取る技術や基礎言語が変わるかもしれない」
あーちくしょう。無理だわ。
「——約2000年前、旧人類、君らヒトの祖先は惑星入植に成功したあと、古い知識は次々と捨て始めた。文明をリセットして人類種を宇宙に存続させるのが、この移民の目的だからだ。それに反対した反回帰主義者たちはありとあらゆる情報をこの人工の石英に収め、それをアレンブルグの地下深くへ隠した。オーランドの皇たち回帰主義者に見つからないよう。そしていつか後世の子孫が再び人類の栄光を取り戻せるように──」
じっとニシと目が合ってしまった。やっぱり何度聞いてもトンチンカンなストーリィと思う。
「で、この中の情報をもとに、虚無の災害を鎮める方法を探す、と。ん、でもよ、虚無の災害って最近始まったことよな。ン万年の記録にそんな方法、あんのか?」
返事もそこそこに、ニシはぷいっとそっぽを向いてトラックの中へ荷物を運び入れ、そして再びカラの箱を片手に現れた。
「あるかもしれないな」
「どっちなんだよ」
「浸食弾頭は無から有を生む究極の機構であり、惑星1つを消し去るほどの兵器だ。ある程度高度な文明なら侵食弾頭を持っている。人類軍もいくつか保有していて、虚無の災害は記録にある──もちろん他の惑星で、だが。つまり数万年の歴史がある旧人類なら、当然、対処法やらなんやら、あるだろう」
ふむ、それもそうか。筋は通ってるが——それは別にどうだっていい。それよりお前の言う人類ってのはいったい何だよ。
レイナもデータキューブでいっぱいの箱を持ち上げるとラリートラックの中に運び入れた。大柄なトラックだが外観ほど荷物は積み込めない。荷台のうち3分の1は弾薬庫と兵器用のハードケースが積んである。
あともう少しで積み込みが終わるが──面倒な仕事だぜ。保安だか体力だかでニシといっしょにこの仕事を割り当てられた。アーヤとシスは物資の仕入れに行っている。ロゼとネネ婆ちゃんは、知らない。どのみちソラんとこだろう。
「そいや、ニシ、聞いたか? 婆ちゃんは昔、ソラに会った事があるんだってよ」
「ん、あー、そうだな。そういう話もしてたっけか」
「んだよ、またはぐらかしキメんのか」
つい手に持ったデータキューブを投げそうになる。角は尖っているし素手で触れば切ってしまうぐらい鋭い。
「450年も前の話だ。ソラが苦労して生きてきた原因のひとつはネネの判断ミスなんだってさ。でもソラはそのことについて恨みは言わない。ここ数日、ネネが落ち込んでいるのはそれも原因なんだ。あまり詮索してやるなよ、ああ見えて化石みたいに長生きしてんだから」
「あいあいキャプテン」
ちょうどこれで最後の1箱だった。レイナが詰め込むと、ニシが慣れた手つきでラチェットベルトを荷台と荷物の間に回して固定した。荷台のいちばん奥には自動迎撃機銃の給弾レーンと兵器箱、予備のライフルもあった。
「来るときはアレ、使わなかったけど」
「自動機銃? これは唯一大陸の技術だ。俺はよく知らない。でも軍用だからレイナの昔のアジトのよりも性能はいいだろうな」
「で、あの箱の中はロケット弾だろ? あたしの年収10年分の。帰りの道で巨大テウヘル、来るかな」
「81mmの赤外線誘導弾発射筒、HE弾頭のミサイルと赤外線誘導キット。戦争が無いせいで文明の割に陳腐な装備だけど、威力は十分なはず。辺境域を出るまでは油断できない。虚無の災害が広がっている。巨大テウヘルだっていつ現れてもおかしくない──ん、ああ、そうかレイナ、撃ちたいのか」
「いやぁ別にあたしは」レイナは頬を膨らませて「だけどよ、ドカーンっての見てみたいじゃん。映画みたいな」
「映画はガソリンのドラム缶を燃やしてるから派手なだけで、実際の榴弾はそこまで派手じゃない。ドン。内臓が揺れて耳が痛いだけ」
おもしろくねーやつ。
「でもまあ、知ってて損はない。ほら、操作マニュアル。出発までに目を通しておいたほうがいい」
ニシが運転席に乗り込んで、レイナは荷台の工具箱に腰掛けてマニュアルを読んだ。長々と危険な取り扱いの注意事項を読んでいる間に、トラックは村の出口についてしまった。
前駆二輪とバギーはすでに用意が整っている。一戦交えた金剛旅団の面々とバオも見送りに来ている。屋根の上からは一緒にフットボールをした少年たちがいて、レイナが気づくと大手を振ってくれた。
レイナはマニュアルを置くとトラックの外へ出た。
「ふむ、なるほど。わかった」
要は、カメラを起動して、安全ピンを抜く、トリガーを押しながら敵を捉えてピーと鳴ったらトリガーを放す。命中するまで5秒ぐらいかかる。なんだ、簡単じゃないか。
村の中心部からはシスとアーヤが、ロゼとネネといっしょに民兵のバンに乗ってくるのが見えた。
「どうも、レイナくん。ずいぶん活躍したそうじゃないか」
長髪をポニーテールにまとめた男がふらりとレイナのそばに立った。もみあげだけが銀髪に変色している。
「グワイ、どこほっつき歩いてたんだ」
「この辺鄙な村でも楽しみを知ってれば、楽しいことがあるってことで。おっと、いたいけな少女に言うことじゃなかったか、アハハ」
いたいけな少女って初めて言われたぞ。
「どうせギャンブルだろ。ここいらの村人は金なんて使わないからな、遊び半分で紙幣を賭けてくれるんだろ」
「もう、ボロ勝ちで」
「ふぅん」
見抜いた。嘘だ。ボロ負けしてる。
レイナが無言で返したので、グアイも居心地が悪くなったらしく、
「その、あの、あり金 全部取られちゃって。だからその、レイナくん?」
「いっとくが、貸さねーぜ。死んだオヤジがよく言ってたんだ。金を貸すのは背中を預けられる相手だけにするんだ、って」
「俺、レイナくんの後ろに座った仲じゃん」
「そーいう意味じゃねーって」
グアイは、ニンマリと笑ってレイナの前駆二輪の後ろに腰掛けた。
「賭けをしよう。チスタ=バローチへの帰り道、腐獣に襲われるかどうか。襲われなかったら僕の勝ち。襲われたらレイナくんの勝ち」
「てめーな、それでもギャンブラーか? 持ち金がすっからかんのくせして何が賭けだよ。賭けになってねーじゃん」
それに、なんとも縁起が悪い。このあいだソラと腐獣狩りに行ったときは妙だった。テウヘルがあんな数で、それに獲物を待ち受けているなんて。まるで死骸に群がるネズミか蟻だった。
「寸志でも」
それ以上口を開いたら、テメーには鉛玉をお見舞いしてやる。
出発準備はすぐに整った。荷物を乗せ、装甲トラックの暖機運転も終わった。バオもグアイも、夕方までにはチスタ=バローチか、最悪 企業連合の私兵が監視する安全地域まではたどり着けるという意見で一致した。
ニシは、ソラとまだ喋っていた。しかしトラックのその向こう側だったので言葉の端々しかレイナは聞き取れなかった。ニシは、皆といっしょに移住すべきだ、とソラに勧めてみるが、ソラは泣きそうな笑顔で首を横に振っている。
ま、そりゃそうだ。田舎どころじゃない、辺境の辺鄙な砂漠の村だといっても、訳あってここに住んでるわけだから今更都市に移住なんてできない。ニシもよく言ってるじゃないか、「住めばミヤコ」って。ミヤコが何かはしらないが、トーキョーのことわざで、住んでみたら意外と快適だとかそういう感じだ。
車列は、グアイを乗せたレイナの前駆二輪を先頭にバギーが続き、その砂ホコリを避けるように装甲トラックが続いた。3面がフルスモークなのでロゼとネネがどんな顔をしているかは、他のメンバーがうかがい知ることはできない。
『各車報告』
いつもの軍隊じみた口調のロゼ大尉だった。
『こちらニシ、無線良好、車両も問題なし』
「こちらレイナ、同じく」
『ソラさんからの情報によると腐獣の出没頻度が高まっています。チスタ=バローチの郊外に入るまでは全速力で行きます』
了解/車輪付きの2台がいなきゃ、前駆二輪なら半分の時間で到着するってのに。
「まあまあ安心しなよレイナくん」後席でグアイは声を張り上げて「昼間でも腐獣の出現位置は覚えてるからね。右へ20°、そのあと10秒後に左へ15°」
図面を書くみたいな細かさだったが、正確だった。方位磁針を見ながらグアイの言う通りの角度で方向舵を入れる。そのたびに元の進路上にテウヘルの腐った手や頭が砂から飛び出した。
「あれれ、レイナくん、静かだね。俺のスゴサに声も出ないって感じ? 次、13秒後に左へ32°、速度を5%増しで」
いちいち喋ると疲れるからだ。方位磁針と地図の見方はあたしでも分かる。地図に載っていないウェルダンは無理でも、載っているチスタ=バローチか海岸沿いの街ならグアイ無しでも行ける。
グアイも自分の自慢話は飽きたらしく、ずっと事務的な方角の指示ばかりになってしまった。その数も次第に減ってきた時、
「ありゃ?」レイナは地平線に目を凝らして「隊長。3時の方角に黒い雲が。トビバッタの群れにしては濃い気がする」
ロゼのトラックは背が高いので、前駆二輪より遠くを見渡せる。
無線の向こうで何か聞こえた。たぶん、ロゼの悲鳴とネネのため息だ。
『各車、最大速力! プランB』
ロゼの号令/前駆二輪はオートクルーズ&障害物の自動回避モードへ/バギーの車上では、武闘派×2がライフルを構え、アーヤは泣いて叫んでいる。
「なになに? びぃ?」
「テウヘルが来る」
レイナもショットガンに弾を込めた。
正面にもテウヘルが数匹湧いて出たが、前駆二輪はそれを回避し装甲トラックがバンパーで跳ね飛ばす。速度を上げても黒い雲はぐんぐん迫った。
波だった。
周囲の砂という砂が意思を持ったようにうねり、そしてぼこぼことテウヘルが生えてきた。そして左右斜めの進路上では砂が盛大に吹き飛び、2つの巨大なテウヘルが現れた。手にはそれぞれ斧と槍のような武器まで持っている。
「おいおいおい、シャレんなんねーぞ」
「ふあ、初めて見る! すごい。ね、レイナくん、知ってる? 450年前の戦争じゃ巨大なテウヘルが巨大な武器を持って戦っていたんだよ」
グアイがほんとうに白痴になっている。
「うっせい、黙ってろ舌かむぞ」
「ちょいまち、写真を撮るから。これはいい情報になるぞ」
クソが、呑気にしやがって。ぎりぎり躱せないテウヘルだけを撃ち倒すがきりがない。やっぱりトラックを守る陣形に変えるべきか。
『各車陣形を維持。最大出力、全火力を許可』
装甲トラックの側面がぱかりと開いた/ジンバルに付いた自動迎撃機銃が銃撃を始めた。ヒトの10分の1の時間で100の標的を脅威判定/照準/射撃をこなして、1匹たりともテウヘルをトラックに張り付かせなかった。
「自衛だけっていっても、無理があるぞ」
バギーの方も、ニシがライフルを撃ち、シスは徹甲弾で巨大テウヘルに牽制を加えていた。
車列は進路を右方向へとり、巨大テウヘルを回避した。しかし巨体に似合わない速力で追いかけてくる。
「知ってるレイナくん? あの巨体と素早さがあったからこそ、可変戦闘車が開発されたんだよ」
グアイは興奮気味に無料で情報をべらべら喋っている。
「しゃらくせ。おい、グアイ、運転代われ。あと変な気を起こしたら玉をもぐからな」
レイナはグアイに抱きつきながら後席と入れ替わると、両手にソードオフ・ショットガンとマチェーテを構えた。
『隊長へ。シスの計算じゃあと数分で、大型テウヘルに追いつかれる。あの槍を投げてくる可能性もある』無線機の向こうでニシが叫んでいる『ネネ侍従長、力を借りられないか』
無線機が静かになった──迷ってる暇はないだろ! 雑魚のテウヘルでも手一杯で今にも殺到されそうなのに!
『わかったのじゃ』
小さい声が無線機の向こう側から聞こえた。
ネネがトラックのキャビンの屋根に立っていた。小柄な体格にブレーメンの体幹力で風圧に負けず踏みしめている。左手の革手袋をとり、オリハルコン製の義手が露わになる。
それはいっそうに輝きを増し、日中の砂漠にあってもうひとつの太陽だった。
パチン。
トラックと巨大テウヘル──その直線上に群がるテウヘルの頭が波のように弾け飛ぶ。どす黒い血潮の波がぐんぐんと巨大テウヘルへ迫る。
巨大テウヘルも異変に勘付き体を避けるが、萬像の破壊の波は獲物を捉えたままだった。瞬時に巨体が上下にちぎれた。まるで目に見えない大蛇に食いちぎれたかのように、巨体の上下がばらばらに落ちた。
はっ、すげぇ。まじですげぇぜ、ネネの婆ちゃん。これがブレーメン、神話の七戦士の末の娘の実力か。今なら婆ちゃんの足元に這いつくばって、ニシの裸のプロマイドを献上したっていい。
もう1発を期待したが、だめだった。ネネはキャビンの上で俯いたまま動かない。
「レイナ!」
アーヤがバギーを横付け/ニシのバリトンボイスの大声が届いた。
「婆ちゃんがお疲れだ! どうする」
ネネは槍のテウヘルを片付けてくれた。しかし斧を持ったテウヘルはまだ追いすがってくる。もうすでに腐って崩れた犬面がくっきり見える距離だ。
「ロケットランチャー! 使い方は読んだよな。前駆二輪なら射角が自由に取れる!」
読んだ。読んだからわかる。説明書にはなるべく的/敵に近づいて、地面に伏せ、撃つんだ。テウヘルに囲まれた揺れるバイクの上じゃない。
レイナは反論ができなかった。トラックの後ろに位置をつけると、ロゼがパワーゲートを開けてくれた。レイナは荷台に飛び乗り荷物の奥から高くて重い兵器を引っ張り出した。
バッテリーを装着して照準器を起動──赤外線誘導シーカーに通電する。コンピューター任せだが照準器の冷却に数分かかる。レイナがランチャーを担いでバイクに戻るとグアイは狼狽していた。
「ちょいまち、俺はトラックの荷台に乗り移るんで」
「馬鹿かよ、これ担いでテウヘル避けながら運転できねーだろ」
レイナはにやりと口角が上がり、グアイは眉が下がった。
楽しいねぇ。ワクワクしてきた。こういうアガる役回りは好きだ。クソ重い兵器が肩に食い込むがちっとも気にならない。
「グアイ、デカいのの斜め前につけろ!」
「あのあたり、テウヘルが濃い……」
レイナはランチャーを担いだまま、左手でショットガンを構える/バンバン=テウヘル排除。
「チンコついてんだろ! 根性見せろ」
「ひぃ、実はレイナくんも付いてるとか」
あとでぶっ殺す。
ビープ音=ランチャーの誘導シーカーが作動した。レイナは照準器から的を定めた。赤外線画像で巨大なテウヘルを捉え続ける。
「安全装置? だめだ近すぎる! もうちょい前へ」
グアイはヒーヒーと言葉にならない返事をした。
誘導シーカーの表示が、「信管未作動距離」から「信管作動距離」へ変わった。レイナはランチャーの安全スイッチを押して、ロケット弾の安全ピンを抜く。
「くそ、揺れまくってロックオンできねぇ」
根性か。ニシも期待してくれている。やるっきゃない。
レイナはバイクのリアシートの上に立った。レイナを襲おうというテウヘルは、装甲トラックからの援護射撃が排除してくれている。揺れを膝で吸収し、照準器でテウヘルを捉え続ける。
誘導シーカーが発射許可=トリガーのロックが外れる。ぎゅっとトリガーを握ると爆発的な音と白煙に包まれる。
ミサイルの白煙が、青空へ向けて一直線に伸びる&急加速で落下する。爆轟と同時に巨大テウヘルの上半身が吹き飛んだ
やったぜ、どんなもんだい/そして思い出される=注意事項:無反動砲は立射も可能/揺れるバイクの上で立射できるようには作っていない。
体はバイクからほとんど落ちていた。もう踏ん張ってどうこうなる状況じゃない。
腕は上に引っ張られ、足は地面に引っ張られた。
「レイナくん! 放しちゃだめだよ!」
「てめーこそ、放したらテウヘルに化けて襲ってやるからな!」
グアイは片手でハンドルを握り、もう一方の腕でレイナを掴んでいた。バイク用ブーツのおかげで、レイナの足は削り取られずにすんだ。
「くそが、じゃまくせぇ」
足が重い/人面テウヘルが1匹 足を掴んでいやがる。
レイナは足でテウヘルを蹴っ飛ばしたが、腐った顔面が少し凹んだだけだた。
やむを得ない──レイナはショットガンを向けたが、歯を食いしばった。
「こうなるとわかってたら散弾を詰めてなかったのに」
「レイナくん! 俺もう限界!」
バン。
痛みは感じないが首から背中からどばっじつと冷や汗をかいた。
「グアイ、速度を緩めるなよ。テウヘルに食われる」
レイナは無事な方の足をバイクのフレームに乗せるとなんとか後席へよじ登った。
「レイナくん、足が」
「大丈夫だから、前見て運転しろ」
足の指が動く感覚はある。ちぎれ飛んでないのは確かだが、しかし怖くて足先が見れない。
埋め尽くすようなテウヘルも、巨体のほうが排除されたからか、黒い雲から遠ざかったからか、追いかけてこなくなった。眼前には色味のない砂漠とさまよい歩く野良のテウヘルだけだった。
昼を過ぎ、グアイの案内で岩山の麓にたどり着いた。ここなら少なくとも、真下の地中からテウヘルに襲われない。
「レイナ、怪我したのか。動くなすぐ診てやる」
止まって真っ先に、ニシがやってきた。レイナも、すべすべな岩肌に腰掛けた。連邦軍のマーク付き救急キットを広げ、レイナのブーツを脱がせた。
「ひどいのか」
「大丈夫、よくなる」
くそ、訓練で習ったぞ。手足がちぎれてても「大丈夫、よくなる」って声をかけるのが兵隊の癖だ。それに横倒しにしたブーツから溜まっていた血が流れ出ているじゃないか。
「片足立ちで歩く練習、しなきゃな」
「レイナ、嘘が見分けられるんだろう? 俺は嘘は言っていない。鉄芯付きのブーツでよかった。弾丸が神経と骨を砕かずに済んだ。ほら、棒付き飴を舐めるんだ。軽い鎮痛剤だが飲み込むなよ。オーバードースで永眠するから」
「んぁ、甘くて美味いな。あれ?」
口の中がじんじんする。指先も火照って力が入らない。熱い血がぐるぐる回って内臓が温まる感じがする。
「麻酔が効いてきたみたいだな。が、銀髪だから薬物の代謝も早いかも。トローチを落とすな」
ニシがレイナの素足をさすって、片方の手に滅菌ゴムグローブをはめてピンセットを持った。
この感覚、あれだ。オーランドの家で、肉塊を買ってきてステーキを作ったときだ。アーヤが妙なこだわりを見せて、肉を叩いてスパイスを肉の中にねじ込んだんだ。食べるときはスパイスの粒が辛くて1個ずつつまみ出さなきゃいけなかった。
あたしの体も肉でできてるんだなぁ。
「具合はどうですか」
ロゼがぬるりと現れた。
「トリアージ・イエロー。今日中に銃創の経験のある外科医に……あ、つい癖で。どこにでもそういう医者はいるな、唯一大陸には」
「トーキョーにはいないのですか?」
「ああ。銃で撃たれるなんて、少なくとも日本じゃ年間5人ぐらいだ」
ニシは手際よく、消毒液で濡れた足を包帯で包んだ。白い包帯にじんわりと赤い血が滲んでいる。
「チスタ=バローチの連邦ビルへ行きましょう。軍医が常駐しています」
ロゼが指示を出す。グアイはトラックの発電機とバイクを繋いでくれた。アーヤとシスもトラックの損傷を見ていた。
「大げさだって、隊長」
くそ、呂律が回らないだけじゃない、頭も鎮痛剤のせいでぼんやりする。
ロゼはレイナに肩を貸し、トラックの助手席に乗せた。バイクには、代わりにニシが乗りグアイを後席に乗せた。
ネネは座席の後ろの荷物スペースに座っていたが、腕を伸ばしてレイナの銀髪を撫でた。
「よくがんばったの」
「あたしだけじゃねーっしょ。婆ちゃんも、すげーじゃん」
「妾の力にも限界があるゆえ」
仕事をやり遂げたのに、最後はダセーなあたし。ドカンと1発カマしてやったのに気分が晴れない。
「よくがんばりましたね、レイナさん。胸を張っていいんですよ」
ロゼが来た。運転席でシートベルトを締めると、レイナの跳ねた銀髪をわしゃわしゃと撫でた。
眠い。抗えない睡魔があたしを引っ張り込もうとしている。車列はもう出発したらしい。ニシ、あたしのバイクを壊すなよ。それとこの声は、ロゼか?
「こんな素晴らしい…………を……のに、もうすぐ…………しまうのが残念で…………ね」
物語tips:"戦争が無いせいで文明の割に陳腐な装備"
ニシの言い分では、トーキョーでは戦争が多いらしい。そのため、陸海空そして宇宙にもそれぞれに高度な兵器があるらしい。
唯一大陸では戦争は、450年前を最後に起きていない。そのため、産業革命から1500年以上経っているにも関わらず武器兵器も陳腐な装備が多い。
一方で生物工学は、旧人類の知識を源流にしているためトーキョーよりはるかに発展しているらしい。2000年前には翠緑種を使った獣人、1000年前は炯素を使った強化兵、400年前からは強化外骨格や身体の機械化が実用化し始めた。




