2-3
従者は黙って部屋から出て行った。と同時に私とカインは引き寄せられるように抱き合った。
お互いを確かめるように抱きしめ合う。
「カイン!カイン!私は、わたしは・・」
「シア、時間がないから僕の話を聞いて。」
「?」
カインは外にいる従者に聞こえないよう、私の耳に囁くように話始めた・・
パイプオルガンの曲に合わせ、私はおじ様と共にバージンロードを歩いている。
聞こえてくるのはこの結婚を喜ぶ声。ではなく、嘲笑うかのような含み笑い。
それもそうだろう、誰が見てもお金目当ての結婚なのだから。
親子以上に歳の離れた男に嫁がされる。
「可哀そうに・・あの侯爵はちょっと変わった趣味があるのよね?」
知ってるわ、親切にシシィが教えてくれたもの。
何ならさっき侯爵家の侍女たちも話ていたわ。
「若い女にしか勃たんらしい。前の奥方が夜会で馬鹿にしたように話ていたよ」
それも知ってるわ。おば様とシシィが楽しそうに聞かせてくれたもの。
私はおじ様の腕を触れないよう、触れているかの位置で自分の手を固定する。
[いいかい?シア。君がバージンロードを歩き始めて中程まで来たら]
「この結婚は中止だ!!皆その場を動くな!!王宮騎士団だ!」
[騎士団が入ってくる。その時その場は荒れるだろう。]
「動くな!ゼルデール侯爵を捕えろ!」
[それに紛れて君を連れ去る!]
「証拠は上がっている!その場を離れた者は後で屋敷まで捕らえに行く!」
騎士団の方の声が響く。
「これは!王太子殿下の命である!!」
教会の中は参列者と騎士達で騒然となり、もちろんおじ様は真っ先に私を見捨て家族の元へと走って行った。私はその場に取り残され立ち尽くしていると、
「シアこっちに!」
急に肩を掴まれ振り向くとカインが横に立っていて、私を死角になっている扉へと誘導した。
逃げる者、捕まえる者で教会はめちゃくちゃだ。
「カインどこへ!」
私はカインと共に隠し扉からの廊下を歩く。
途中、騎士たちに見つかりそうになるがその度身を隠す。カインは私の手を引きながら廊下を進む。
もう少しで出口!のところで立ち止まると、カインは振り返った。
「シア、今から君を隣国へ逃す。この国にいては君の身が危ないから・・」
私の肩を掴む手が震えている。
「必ず迎えに行く、この国が落ち着いたら必ず・・だから僕を待っていて・・」
カインは言い終わるか終わらないかで私にキスをした。それは味わった事のないほど深いものだった。
「シア、シア、ごめん。行くから、必ず・・」
キスをされながら少しずつ意識が遠のく。
「シア・・」
カインは私に薬を飲ませたのだ・・
ああカインは私の事を見捨てては無かった。
カインなりに動いていてくれた・・
「カイ・・ン。まって・・るわ・・」
私は言い終わるか終わらないか・・で、カインに抱かれながら意識を失った。