一章 完
「バレイド国へ戻った後、彼女をどうするつもりだ?」
出された酒を口に付けるとこう話してきたのはザカリー様。
「どうする?とは?」
グラスをテーブルに置くと聞き返す。
「先に言っておくが、私は彼女に対し感情はない。彼女も私に対し同じ気持ちだろう。だからなのかな?話していると気が楽なんだ」
椅子にもたれるように座りながらカランカランとグラスを揺らす。
その姿は男の俺が見ても惚れ惚れする。きっと女性で苦労したのだろうと思った。だからなのか、男として見ないシアが気になったんだろうが、本人が気付いていないのなら伝える必要もない。
「彼女とは両親同士が決めた関係ですが、私個人としましては別れるつもりはまったく無いですね。現バート伯爵が何を言ってきたとしても関係ありませんし、私の両親が黙っていませんので」
俺の言葉を聞いて安心したようにグラスへ口をつけるザカリー様。
「彼女はなぜか我が侯爵家の使用人たちに人気があるんだ。幸せになれない場所へは送り出せないからな」
「ご心配には及びません。シアの幸せこそが私の幸せですので」
ハッキリ言い切るとなぜか大笑いしたザカリー様は
(重すぎる愛は逃げられるぞ) と揶揄うように言った。
その後二人は日が昇るまで語り合った。
三日後
「旦那様、奥様、ミレイア様。お世話になりました。そして本当にありがとうございました。」
バレイド国へ出立前にカインと共に挨拶に行く。
私は久しぶりにカーテシーで挨拶をすると
「もっと早くにシアが伯爵令嬢と分かれば、何がなんでもお兄様と婚約させたのに」
「それは聞き捨てなりませんね。アリシアは私の婚約者でございますよ」
隣で怒りを含めた口調で答えるカインに、私はギョ!とした。
そんな二人のやり取りを笑顔で流す侯爵夫妻には懐の大きさを見せてもらった気がして、胸を撫で下ろす。
「アリシア嬢の身元がハッキリしてからのベラスター卿は、自身の獲物を取られまいとする獣の様だな」
笑いながら答えたのはザカリー様だ。何だかんだでウマがあったのか二人は冗談を言い合える仲になっていた。
「船旅では時間も長く退屈するだろう。アリシア嬢に彼女を付けようと思う。本人たっての希望だが、嫌ならハッキリ断っても良い」
ハントさんに目で合図を送ると入って来たのはマリンだった。
私は旦那様たちの前だったがマリンの側まで駆け寄り抱きついた。
「マリン!私に付いて来てくれるの?すごく嬉しいけれどまた帰ってくるのは大変よ?」
「私がシアに付いていくと決めたのよ!それにすぐこっちには帰ってこないわよ。だって私、シアの侍女に立候補したんだもん」
「えっ?」
私はバレイド国までだと思っていたのに、どうやら違うらしい。
「マリン言葉遣いには気を付けなさい。彼女は伯爵令嬢で貴女の主人になるのだからね」
「申し訳ありませんアリシア様。ご忠告ありがとうございますミレイア様」
そう言って深く頭を下げたマリンだが、私を見る顔は笑っている。
「さあ、そろそろ行きなさい。船に乗る時間が遅れてしまうよ。シア、また遊びに来なさい。その時は貴族としておもてなしさせて貰うよ。もちろんベラスター卿もね!」
私とカインは揃って別れの挨拶をすると屋敷を後にした。
バルトさんとハントさん。キャルにアリアとも別れの挨拶を済ませると私はカインとマリンの三人で馬車に乗り込む。
カインはマリンが一緒に乗っている事に不満気にしていたが、
「お二人はまだ婚約者であって夫婦ではありません。二人きりになど絶対にさせません!!!」
もともと男爵令嬢とあって貴族慣れしているマリンにハッキリ言われてしまうと、さすがのカイン様も何も言い返せず大人しくなった。
そんな二人のやり取りを見た私はこれからの時間を想像したらすごく楽しみになり、思わずクスクスと笑ってしまった。
バレイド国の、バート伯爵家へは正直帰るのは怖いけれど、このままでは亡き両親に顔向けが出来ない。
自分の物を取り返すため、私は自国へと向かう船に乗り込んだ。
自分のために・・
これにて第一章は終了です。
なぜおじ夫婦に爵位を奪われたのか?
両親を殺害した貴族は?
これから書いていこうと思っています。
またお時間がございましたら覗いて頂きたく思います。
最後まで読んでいただきましてありがとうございました!
みなさま感謝!!




