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10 アリシア

 遠くから私を呼ぶ声が聞こえてくる。

 私をシア ではなく アリシアと呼ぶ声が・・

 ゆっくり目を開けるとそこには小さなカインが心配そうに覗き込んでいた。私は身体を動かそうとしたけれど痛みで動かす事が出来ず声を出そうにも出せなかった。


「アリシア嬢、大丈夫かい?今大人を呼んだからもう少し待ってて」


 (何が起きたんだっけ?ああ、カインと会うのが嫌で木の上に逃げたんだった。そして足を滑らせて・・)


 これは夢なのか?私は泣きながら声をかけて来るカインを静かに眺めていた。

 どっちにしても痛みで声も身体も動かない。カインの言う通り大人が来るのを待っていると屋敷のフットマン数人が走って来た。

 一番後ろには私の専属メイドのエラが青い顔で立っている。

 私は抱き上げられた際の激痛に耐えられず、また意識を飛ばしてしまった。


 カインはベラスター伯爵家の次男で、継ぐ領地も爵位も無かった。

 一方私はゲート伯爵家の総領娘。領地は無いが王家に仕える家だった。

 両親は私に跡を継がせるつもりだったのか、無かったのか・・今となっては分からないが、私の婚約者となったカインには惜しまない支援をし、またカインもそんな両親の期待を裏切らないよう努力を続けた。

 そして、私との仲も・・


 カインは常に両親と私の顔色を伺っていて、私はそれがとても嫌だった。私との結婚がカインの足枷になっていると思えて・・だからあの日、登れもしない木に登り足を滑らせた。


 骨には異常なかったが全身を強く打ち付けたからか、その日の夜から実に五日間も熱にうなされてしまった。カインはその間も毎日お見舞いに来てくれたと、目が覚めたときエラから聞かされた。


「カイン様は本当に心配されておりましたよ?お嬢様は何が不満だったのですか?」

「不満なんて・・ないわ。」

「ではなぜ木の上なんかに・・」

「カインは我が家のお金で学園へ通っているわよね?」

「?そうですね・・」

「それが、足枷になっていると思ったの。我が家に来る事も私に会う事も・・」


 エラは呆れた顔をしながら私を起こし、手に水の入ったコップを渡してくれた。

 私は水を二口飲むとまたコップをエラに渡す。


「私との結婚は絶対よね?だからと言って自分の時間も私に使って欲しくなかったの」


 これは本心だった。学園にいる間は自由に過ごして欲しかった。卒業したら私と結婚する事になっていたから・・

 結婚したらカインの時間は無くなってしまうから・・その時は本当にそう思っていた。


 まさか両親が事故で亡くなるなんて思いもしなかったから・・

 エラは呆れた顔で だからと言ってもうすぐ十五になるご令嬢が木に登るなんて・・と、ブツフ言っている。


 その後カインは同学年の王太子殿下に目をかけられ生徒会に入り、卒業後も殿下の側近として働く事となった。


 「シア」


 急に名を呼ばれ振り返るとそこには亡くなった母が立っていた。


「お母様!」


 私は何年も会っていない母に思い切り抱きついた。


「お母様・・」

「どうしたの?急に甘えん坊さんになって」


 母は笑いながらも私を抱きしめる。そして私の耳元で囁く


「私のネックレスとイヤリングは貴女に渡すわ。あれは私と貴女にしか使えない物だから」


 私は顔を上げ母の顔を見る。母は少し悲しそうな顔で再度私を抱きしめた。


「カインを信じなさい。彼はシアが思う以上に貴女の事を想っているわ」

 

 

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