2 -1 伯爵家
私には小さな頃から良く遊ぶ幼馴染がいた。
隣の領地を管理するベラスター伯爵次男のカイン。
カインは次男のため将来は我が伯爵家へ婿入りすると言われた。
親の思惑もあった顔合わせだったけど私たちは意気投合し、そのまま(仮)の婚約者となった。本当の婚約を結ぶのはお互いが分別のつく十六歳になってから。と、親同士が決めた。
そしてカインと私、アリシア・ゲード伯爵令嬢は十六歳を迎えた春に正式に婚約した。
「カインが二十歳になったら結婚式を挙げよう」
父親同士の約束。
それに承諾した私たちは、側から見ても仲睦まじい婚約者同士だったと思う。
カインとの結婚を当たり前の様に待ち侘びていた。
でも実際にその日は訪れなかった・・
両親が・・ゲード伯爵夫妻が夜会からの帰宅途中、何者かに襲われ夫妻と従者が殺された。何故か両親は普段通らない道を通っており、そのため盗賊に襲われたのでは?と片付けたられた。
盗賊に襲われた際に装飾品は盗まれていたが、何故かネックレスだけが盗られイヤリングと指輪はそのままだった。
私もベラスター伯爵も詳しく調べて欲しい!とお願いしたにも関わらず事故はそのまま片付けられてしまった。
家族を失いたった一人になった私のために、ベラスター伯爵は後見人となる手続きを始めようとした時、突然現れたのは父の従兄弟であるダニエル・ドーラン男爵だった。
「君の父親とは従兄弟でね、当主に何かあった際私が当主になる事となっているんだ。」
そう言って父の代わりにゲード伯爵位を継いでしまった。後二年、私が成人していれば伯爵位を継げたのに・・
両親が揃えた調度品は全て売り払われ、品の無い物で揃えられた。
母の部屋はおば様が、私の部屋は従姉妹のシシィに奪われた。
「今日から私も伯爵令嬢!しかもお父様の直系!貴女はこの屋敷に置いて貰えるだけ喜びなさい!」
始めは客室だった部屋も、気付けば屋敷の従者やメイドと同じフロアの部屋となり、いつの間にかメイドも総入れ替えされていて、私の味方は執事だけとなった。
執事は高齢のため他では働けない・・と、私が頭を下げてお願いしたのだ。
おじ様は
「ジジィはお前が責任持って面倒を見ろ!執事の仕事はお前がやれ!いいか?この屋敷に住まわせてやるんだ、しっかり管理するんだぞ!」
屋敷の運営、使用人たちの給料。その全てをアリシアに押し付けた現ゲード伯爵夫妻とシシィは、今日も夜会の準備に勤しんでいた。
「お父様、この間のリンジード侯爵令嬢が着ていたドレスが私も欲しいわ。今シーズンの社交会はあの方のドレスが流行ると思うの!」
今日もおじ様にドレスを強請るシシィ。
両親が蓄えたお金もすでに底が見えている。
おじ家族は男爵と言っても領地が小さく、収益も少なかったらしい。その反動からか?両親の蓄えた物を見た瞬間、あれもこれもと買い始めた。
おじ様も今までやった事もない投資に手を出して、かなりの金額を損しているがその事を隠し、私に何とか工面しろ!と押し付けてくる。
私は元執事のジーンと共に金策に走り回った。お父様たちと縁のあった方たちや銀行、とにかく頭を下げ続けた。しかし、おじ様たちには貸す理由が無い!と、断られる日々・・
そんな私との時間を取れなかった婚約者のカインも、少しでも私の助けになればと力を貸してくれていた。
後一年。
二十歳になればカインと結婚出来る。
その事が今の私の糧だった。
「その時はジーンを執事に戻してもよいかしら?」
「ジーンはとても優秀だし、僕も彼から学びたいから助かるよ!」
その日がとても待ち遠しかったのに・・
それを打ち砕く事が起きたのは、私が二十歳になる二月前だった。
「カイン様の婚約者はこの私。ねぇ、知ってたお義姉さま?誓約書にはベラスター伯爵子息と、ゲード伯爵令嬢。としか書かれていないの。残念ね、名前が書かれていなくて」
クスクスと笑うシシィ。
「そんな・・カインは承知したの?」
震える声で確認すれば
「確認も何も、誓約書にはそう書いてあるもの。今現在、ゲード伯爵令嬢はこの私。お義姉様ではないわ!」
残念だったわねぇ。と笑いながら見下ろしてくる。
それから何かを思い出したように
「そうそう、お父様がお義姉様の嫁ぎ先を探していたわ!何人かいるみたいだけど・・その中から特に伯爵家の為になる人を選ぶと言っていたわ」
楽しみねぇ〜
私はその夜屋敷を飛び出しカインの元へ走った。
そんな筈はない!
私たちの婚約はちゃんとした物だったはず・・
藁にも縋る思いでベラスター伯爵家へ走った。目の前にベラスター家の門が見えた時、
「お嬢さま?こんな時間にどうされました?」
急に後ろから腕を取られ振り返ると、そこにはシシィの従者が立っていた。
「なぜ・・あなたが・・」
従者はクックッと意味ありげな笑いをすると
「シシィお嬢様が貴女は必ずベラスター家に来るから!と、見張るようにいわれたんですよ。」
シシィお嬢様はすごい方です!と言いながら私を無理やり幌馬車に乗せるとゲード伯爵家に引き返した。