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「それで?彼は何を知っているんだ?」
通されたのはザカリー様専用の応接室で、今この部屋に居るのはザカリー様と第二王子殿下、侯爵様、会長にハントさん。そして私。
ザカリー様はいまだ会長を疑っている様子だったが、彼の一言で気持ちが変わった様だった。
「私はアリシア様のご両親、バース伯爵に頼まれてある機械を作った者です。私は表向きでは商会をしておりますが本業は諜報機関での機械作成です」
そう言いながらある物をテーブルの上に置いた。それは第一関節程の大きさの豆の様な形をした物だった。
「これは・・何だ?」
そう言いながらザカリー様が手に取る。
「それは・・それ一つでは作動しません。同じ物が二つ無ければ意味がない物です」
そう言いながら私は、自身に付けていた物を耳から取り外しテーブルの上に置いた。
私と会長以外の人が覗き込む。
「これはお互いに耳に付けて話が出来るものです」
「「「「!!!???」」」」
「こんな物で話が出来るとは思えんが?」
「先程も言いましたよね?諜報機関で使う物だと」
私はまた一つを耳に取り付け席を外す。
もう一つを会長はザカリー様に手渡し、耳に当てるよう指示をだした。そして頃合いを見て話し掛けると・・
「なっ!なんだ?なぜこの中からベラスター卿の声が聞こえてくるんだ?!」
耳元で大声を出された私は反射的に取り外した。
改めて席に戻ると説明を始める。
「実は・・彼は魔法使いなのです」←私
「・・・誰が?」←ザカリー様
「彼です」←私
「「「・・・・」」」
「信じて頂けないと思いますが、正真正銘の魔法使いです。ただし、母親は普通の人で男爵令嬢です。スロードは母方の爵位なのです」
ザカリー様一同 信じられない!と言った顔をしている。それもそのはず!魔法使いはこの世から消され居ない者とされているからだ。
スロード商会長を見つけたのは本当に偶然だったと聞いた・・
まだ産み月まで三ヶ月もあるシアの母親が、視察先で急に産気づいた。当然近くに医者どころか産婆も居ない。困った伯爵が近くに見えた小屋に居た女性に助けを求めた。が、残念ながら山あい。医者も産婆も近くには居なかった。
諦められなかった伯爵は、夫人を馬車に乗せようとした。小屋の住人は止めたが伯爵は聞く耳を持たなかった。
無理に動かせば夫人も子供も助からない!
そう説得しても考える余裕が無いため、無理矢理連れ出そうとした。
「今奥様を動かされたら奥様もお腹のお子様の命も保障出来ません!!」
その時だった。
たまたまその土地の領主夫妻が視察に訪れた。その領主こそがスロード商会長の父で、魔法使いだった。
一命を取り留めた夫人はそのまま男爵が納める町へ移動され、無事治療を受ける事が出来た。あの時彼の父が現れなければシアの命も失っていたかも知れないと、何度も伯爵から聞かされた。
「その縁もあって伯爵家と男爵家はこのような物を作る事になったと聞いております。伯爵様のおかげで、それまでは林業のみで生計を立てていた男爵家が、人々の助けとなる物を作り売る。資金は増え町は栄え人が集まる。そうして作られたのがスロード商会なのです」
「ではこの機械も」
「ハイ、少しの魔力を付けることで動きます。そしてバース伯爵令嬢にもコレと似た物を身に付けて頂いております」
スロード商会長は魔法使いでした・・




