8-2
「お父様!お母様!」
小さな女の子が二人の男女の元へ駆け寄って行く。三人ともが笑顔だ。
「シア!良い子にしていたかい?」
「うん!ジーンと一緒に字を覚えてたの!」
「まぁ!シアはもう字の練習をしているの?」
ああ、生きてるお父様とお母様だ。
あれは・・初めて長い間離れてて、二人が帰って来たときね。
「お母様それキラキラしてる!とてもキレイね!」
「ふふ、お父様に買って貰ったのよ。シアが大きくなったらこれ、身に付けてくれる?」
「うん!シア、これ欲しいです!」
両親が顔を見合わせて笑っている。確かあの後何か言われたような・・
薄っすらと目を開けると、私を覗き込むマリンがいた。
「シア!大丈夫?痛い所はない?」
「マリ・・ン?あなたは大丈夫?」
ゆっくりと体を起こすとそこは、何処かのお屋敷の一室だった。
ゆっくり周りを見渡すもそこが何処なのかわからない。マリンの顔を見たが、マリンも頭を横に振る。
「!ネックレスが・・!」
お母様の形見のネックレスが無くなっていた。
「きっとあの女が持って行ったのよ」
マリンが悔しそうに言った。
お母様のネックレスにどんな価値があるのだろう・・そう思っても取られてしまった物は取り返せない。それよりも・・
「マリンこそどうしてここに?貴女も無理やり連れて来られたの?」
あの時のマリンはただのメイドではなかった気がする。マリンはウ〜ンと考えてから まっ良いか!と話始めた。
マリンはザザーライン侯爵家専属の諜報一家の男爵家。三男三女の末っ子で見習い中!
今はお屋敷の中のゴタゴタを主人に報告しているのだと言った。
「シア・・アリシア様の事はザカリー様から聞いてました。まぁ・・アリシア様を見張るために同じ洗濯室の同僚になりました。」
すみません、気分悪い話ですよね?と、頭を下げている。
「マリン頭を上げて?それから私の事はシアで。この国の私はシアだから」
「でも・・」
「逆にマリンで嬉しかった。お役目だったのかも知れないけど、私はマリンと同じ部署で良かったわ」
そう言って微笑むとマリンも笑ってくれた。
「それよりも・・ここは何処なのかしら?」
「そうね、私も目を覚ましたらここに寝かされていて・・シアと同じ部屋で良かったです」
立ち上がり部屋の中を見て回るマリン。ふと窓の外を見て驚いた顔をした。
私もマリンの隣に立ち外を見て思わず口元に手を当てた。
何故ならそこは・・
「バージニア侯爵家・・」
バージニア侯爵家。
ザザーライン侯爵家と同じ爵位で屋敷も隣同士。
隣同士と言ってもお互い屋敷は広大なため、距離は離れているが何を驚いたのかと言えば
「この塔から丸見えなのね・・ザザーライン侯爵家は・・」
私とマリンが居るこの場所はバージニア侯爵家に立つ塔の上。
何故、私たちがこんな場所に連れて来られたのか・・まったく理解が出来なかった。
ガチャガチャガチャ!
「あら!目が覚めたのね?お腹空いてない?お館様からよ!」
マリンが私を庇うように前に立つと
「大丈夫よ!毒は入ってないから!まだ利用価値あるもの、簡単には殺さないわ」
メイドはコロコロと笑いながらトレーを机の上に置いた。扉の外には兵士が立っている。
メイドはお皿の中からお肉を摘むと口に入れる。
ねっ、大丈夫でしょ?と言わんばかりだ。
「まぁ、後でも良いから食べてね。ああ、今ザザーライン邸は大騒ぎよー。メイドと王家からの預かった令嬢の姿が消えたのだから!」
キャハハと大笑いをする。
私とマリンはメイドの顔を無言で見つめると、冷めたような顔で扉へと向かった。
「今夜、お館様に会わせるから。ちゃんとそれ、食べておくのよ」
言い終わると同時に扉が閉められ、また鍵をかけられたのだった。




