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一旦私たちは会場へと戻る事にした。あまり長い時間殿下とザカリー様がいないとなれば、ご令嬢たちが黙っていないからだ。
殿下は得意の笑顔を振り撒きながら、上手にご令嬢たちを相手にしている。
私は最初に言われた通りザカリー様の女避けに徹したが、そこは結婚相手ナンバーワンと言われるだけあって私なんかが横にいた位では何の役にも立たなかった。
そんな私を遠くから見ていたカインも、チラホラとご令嬢たちが集まっている。
カインもザカリー様とはまた違った意味で人を惹きつける容姿をしている。
カインは今、隣国の王太子殿下付き執務官として来ているので、それなりに狙われている。
「執務官殿も意外と人気があるようだな」
「そうですね・・」
「気にならないのか?」
「・・・何が言いたいのでしょうか?」
「いや?べつに。ただ、執務官殿は君を守る為にこの国にまで来たのだろ?聞けば今も婚約者と名乗っているようだが」
「・・彼の婚約者は従姉妹ですから・・」
そう、カインの婚約者は私では無くシシィだ!
カインは私が、と言ってくれているけれど書類ではバース伯爵令嬢と書かれていた。
「私では・・無いのです・・」
今の私は平民だ。もう、伯爵令嬢では無い。
わかっているのに、この国に、ザザーライン侯爵家で働いている時も身の程をわきまえていたのに・・
(カインに会ってカインへの気持ちが、想いが溢れて苦しい)
そんな私の様子に気付いたザカリー様はそれ以上何も言わなかった。
上手く人を避けながら会場を歩いていると
「ザザーライン侯爵子息様、初めまして」
私が下を向いていると後ろから声を掛けられた。ザカリー様は顔だけ声の方へと向ける。
「ご挨拶を。私は男爵位を賜りましたスロード商会長のフィリップ・スロードと申します。そちらのお方はご婚約者様ですか?」
私はザカリー様の顔を見つめ訂正しようとしたが、それを遮るように
「ああ、金で爵位を買ったと言うスロード商会か。まだ正式に発表していないが・・直にそうなる」
ザカリー様の言い方に不快感を隠さないスロード会長は、私の方を見ながら何かに気付いた様な顔をした。
「ザカリー様!」
「さすが次期侯爵様となれば、お選びになる女性もまた爵位は関係無いのですね。」
「「!!!」」
直接ザカリー様へ不満を言えないスロード会長は、矛先を私に変えてきた。だか、次期侯爵と言えど権力はある。そのザカリー様に対して何故このような物言いが出来るのか・・
私がザカリー様から隠れるように睨むと、会長と目が合った。サッと目を外すと
「これは失礼致しました。先ほどよりご令嬢が身に付けている宝石が余りにも素晴らしい物でしたので」
そう言ってお母様のネックレスを覗き込むような姿勢になった。
私はザカリー様の後ろへ隠れる。
「ありがとう・・ございます。スロード商会の会長様のお目に付いたとあれば嬉しいですわ」
「いえ、私もこの商売をしておりますと良い物は一目見ればわかります。もし、お手元から手放す事が有ればぜひお声掛け下さい」
そう言ってスロード会長は去って行った。
なぜ会長はこのネックレスを・・
「チッ!」
頭上から舌打ちをする音が聞こえ目線を上げると、会長を睨むように見ているザカリー様。
声を掛けようと思う前に私に屋敷へと戻るよう言った。正直会長にこのネックレスの事を聞きたかったが、ザカリー様を怒らせてはいけないと思い大人しく屋敷へと戻った。
帰り際に商会長を見ればカインと話ていた。




