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「どこから話せば良いか・・」
カインは少し考えると 話は長くなりますが、と話始めた。もともとカインは王太子殿下の秘書だった。そして私の両親は王太子殿下に仕える諜報員だったと・・。良く考えると領地が無いのに家を空ける事が多いとは思っていたが、そんな仕事をしていたなんて・・。
「シアのご両親が襲われた日、あの日は殿下に報告する為に登城していたんだ。僕は殿下とゲート伯爵が何を調べていたのかは知らされていなかったけど・・おそらく国に関わる事だったんだろう。」
カインは私の顔を見ると、泣きそうな顔をした。
「シアのご両親が亡くなった日、伯爵夫妻は普段通らない道で襲われたんだ。そして伯爵家の馬車に乗っていなかった事。伯爵夫妻が亡くなっているのに御者が見つかっていない事、そして最後にこれ・・」
そう言いながら机の上に置かれたのは
「これ・・お母様の・・」
いつも夜会の時に身に付けている、あの日盗まれたはずのネックレス・・
「先日、闇のオークションで出品されたんだ。」
「「!!」」
言葉は音にならず、喉の奥へと消えた。
「シア、伯爵夫人が身に付けていたこの装飾品に、何か特別な細工がされているとかの話は聞いていないかい?」
私は頭を横に振る
「これはお父様が私を産んだお母様への感謝の気持ちとして贈ったとしか・・」
いつも身につける度に嬉しそうに語ってくれたお母様・・
貴女にもいつかそんな人が現れますように・・と、願ってくれていたお母様・・
ハラハラと涙が落ちる。
そんな私に優しくハンカチを渡すカインは、昔と変わらない優しい眼差しで私を見ていた。
「で?このネックレスとこの娘、どんな関係があるのだ?」
「シアの命が狙われています。」
良い所で水を指してきた殿下に、不機嫌丸出しで答えるカイン。
「犯人はワザとこのネックレスを出品しています。理由は一つ。イヤリングと指輪を回収する為です。実は僕がこの国へ来る少し前にバース伯爵家に盗みが入られました。」
「えっ?皆んなは無事でしたか?」
カインは首を縦に振ると
「シアの部屋にしか入っていないんだ。普通なら伯爵夫人や令嬢の部屋に入るのに、何故かシアの部屋だけに入ったんだ・・」
「もしかして、君はお母君の形見を持って来ているのか?」
私は二人の顔を交互に見ると、静かに頷いた。
「結婚式の時に身に着けておりました」
「犯人はそれを知らずバース伯爵家に盗みに入ったのか?バース家に無いことを確信すると犯人はこれを出品する事でシアの居場所を突き止めようとしたんだ。」
「それにしても・・犯人は令嬢の部屋に入ったと言ったが、何故その部屋が令嬢の部屋だとわかったんだ?」
殿下は疑問をカインにぶつける。
「シアのご両親が亡き後、使用人たちが一斉に解雇されました。その後新しく入った使用人も長くは続かなくて・・良く調べもせず雇用した事が関係しているかと思います」
「犯人は?」
「・・犯人は逃しました。手引きしたメイドは・・自害したのか、殺害されたのか・・部屋で亡くなっていました」
私以外の三人は考え込んでいる。
「ジーンは無事ですか?!」
私は唯一残ってくれた元執事の事を思い出し、思わず声を上げてしまったがアランは私を安心させるように頷き、
「君がこの国に来てすぐ、ベラスター家に来てもらっている」
私はその言葉に安心して、椅子に深く座り込んだ。
四人の間に沈黙が落ちる。
その沈黙を破ったのはザカリー様だ。
「なるほど、それで君たちはまんまと犯人の思惑通りに動いてしまった!と言う訳か」
私はザカリー様の言った意味がわからずカインを見れば、怒りなのか悔しさなのか・・体を震わせていた。
「貴方様の言う通りです。犯人はこの国に・・ひょっとしたらすでに、この屋敷に入り込んでいる可能性があります」
「・・・」
「・・あの、犯人はなぜお母様の装飾品を狙っているのですか?ただの宝石・・ですよね?」
私は両親が狙われた理由も自分が狙われている理由もわからず、ただ不安だけが胸の中を渦巻いていた。




