1 ただのメイド
新連載です!
ゆっくり投稿になると思いますがよろしくお願いします。
「シア!次はこっちを手伝って!」
「はーい、これを片付けたらすぐ行きます!」
ここはブルカイド王国にあるザザーライン侯爵家。
私はシア、性は無いただのメイド。
一年前にこの屋敷に来た、身元もわからず親も無い平民だ。
正直私もなぜここにいるのか、どうやってここまで来たのかわからない。でも何故かこの屋敷の方たちは私を受け入れてくれて、こうして仕事と寝床、食べる物を与えてくれる。
今は洗濯室で働いているが、日によっては洗う物も少なく(侯爵夫妻と子息、令嬢の物は毎日交換するが)手が開けば忙しい他の部署を手伝う事もある。
その逆でお客様や夜会などがあれば洗濯物も増える為、他の部署の人たちが手伝ってくれる。
何とも理に叶う働き方なのだ。
こちらの侯爵夫妻とお嬢様はとても優しく、使用人に対しても威張る訳でも意地悪する訳でもない。
最高の宿主だ!
ただ、子息であるザカリー様は・・
「ザカリー様は仕方ないわよ。侯爵家のご嫡男で優秀かつあの顔!今まででも言い寄る女は数知れず!」
「何でもメイドの中にもザカリー様と既成事実を作ろうとした人もいるとか・・」
「えっ!それ人間不信になるやつじゃ無いですか!」
私はジャガイモの皮を剥きながら話に加わる。
そう、ここザザーライン侯爵家のザカリー様はとてもカッコイイのだ!
婚約者だったカインも良い顔をしていたが、比べられない!
(カインごめん)
社交会へ出る前からその容姿は広まっていて、屋敷に侵入してくる女。
侯爵夫人の知り合いだと母娘で屋敷に入り、お昼寝しているザカリー様を襲おうとした令嬢。
学園でもストーカーは日常茶飯事。
(うん、間違いなく女嫌いになるわ!)
私はザカリー様とはまだ対面していないから、実際どこまでの容姿かは知らない。
でも、ここで働いている女性たちが口を揃えて言うくらいだから間違いないだろう。
まぁ、私は洗濯室だからまずお目にかかる事はないだろうし、会ったとしてもそこまで女が嫌いなら目の端にも入らないと思う。
(でも・・遠くからでも良いから見てみたい気もするかな?)
私は頼まれたジャガイモの皮を全て剥き終わると、干していた洗濯物を取り込みに外へと向かった。
「ニ日後はガーデンパーティです。早いとお泊りでお越しのお客様が本日からお見えになられます!各部署でもう一度確認してください!足りない物があれば早めに報告!以上、解散!!」
執事長のバルトさんが大声で叫ぶ理由、それは・・ザザーライン侯爵家が三年ぶりに大がかりなガーデンパーティを開く事になり、各国の主要人物が訪れるのだ。
もちろんこの国の王太子様も参加されるため、念には念を入れ無ければならない。
私は同じ洗濯室のマリンと共に二十室はある客室を、一部屋一部屋見て回った。
その日の最後、私は屋敷に勤める人たちと共に庭の最終チェックをする。
お客様に何か起きてはザザーライン侯爵家の顔に泥を塗ってしまう!そんな事は絶対に起きてはいけないのだ!
そう思い裏門の方もチェックをしに向かう。こちらにも花壇と休憩場所があるため足を伸ばす。
「そこのメイドさん、少しお聞きしたい事があるのですがよろしいですか?」
背後から聞きなれた優しい声色が耳をかすめた。
そんな筈は無い、と思いながらゆっくりと振り返るとそこに立っていたのは・・
「カイン・・さま・・」
元婚約者のカイン・ベラスター伯爵子息だった。