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目覚めるとそこは私が幼いころに夢見たお姫様の部屋だった。
まず目に入ったのは大きな天蓋付きのベッド。体を起こして見渡すと一人の部屋とは考えられないぐらいの広い部屋。壁際を見てみると大きなクローゼット。全体的に白と薄いピンクを基調としたかわいらしい部屋。
幼少期の夢が叶い、満足感に浸りながらもうひと眠りするかーと布団にもぐろうとすると、部屋の扉が開かれ、そこから一人のメイドらしき女性が入ってきた。
その人は私を見るや否や「お嬢様がお目覚めになられましたーー!!」と大声で誰かを呼びに行った。その様子をベッドの上で見ていた私は、ぼんやりと(メイドってほんとにいるんだな…)と思っていた。
あのメイドの足は相当速いらしく、すぐにお医者さんと思われる人が部屋に入ってきた。軽く問診を受け、大丈夫だろうと言われたところで、私の両親と思われる人が入ってきた。
第一印象はとんでもなく顔が整っている人達でした。寝起きでぼんやりしていたのも相まって起こっていることを現実と受け止めきれず,他人事のような感想しか出てこなかった。
そんな顔が整っている美形2人に両側から抱きしめられ、「良かった…!!本当に良かった…!!」と涙ながらに喜ばれ、どうしたらいいのか全く分からなかった。
誰かに助けを求めようにも後からぞろぞろと入ってきた使用人と思われる人たちは目に涙を滲ませながら微笑ましそうにこちらを見るだけで何もしようとはしてくれず、困った私はお医者さんに助けを求め、ようやく解放してもらったのだ。
「本当にもう大丈夫なのね?無理はしちゃだめよ?」
そうしきりに言ってくるのは私の母親だ。さっきは寝起きという事もあり、記憶が混乱していたが、今はちゃんと思い出すことができる。
「はい、お母さま。私は大丈夫です。ご心配をおかけしました。」
そう言ってペコリとお辞儀すると、また抱きしめられる。どうやら私がお茶会の最中に倒れたことを自分の所為だと思っているようで、しきりに「私がちゃんとしていないばかりに…」と言っている。
そんなことはないのだが…。むしろ自分の発言によってこの状況になっているため、お母様には責められる要素は一つもない。しかし、正直に言おうにも私もまだ混乱している部分があるためうまく言えそうにもない…。
どうやって誤解を解くか考え、助けを求めてお父さまを見上げると、お父様はとんでもなく優しい顔をしながら私の頭を撫でまわしている。さっきから頭に何かの感触があると思っていたけれど、お父様の手だったのね…。うん。誰か助けて。
私の居たたまれなさを感じ取ってくれたのか、そこでまた助け舟を出してくれたのがお医者さんだった。
「お嬢様はきっと寝不足だったのでしょう。倒れる前は興奮状態にあったと聞いています。体に異常はありませんし、今日は大事をとって安静にしていれば、明日からは今までと変わらぬ生活を送れますよ。」
と言ってくれたので、これ幸いと思いその発言を利用させてもらいことにした。
「そうなんですの、お母さま。昨日どうしても読んでしまいたい本があって…。」
もちろん嘘だが、そう言うとお母様は納得したのか未だ心配そうな顔で渋々私を解放してくれた。お父様はまだ頭を撫でている。なぜだ。余計に混乱してしまうそうになるからやめてほしい。
とりあえず、今日は安静にということなので部屋に集まっていた人たちはぞろぞろと自分の持ち場に帰って行った。最後まで部屋に残っていたお母さ様お父様は私におやすみのキスをすると名残惜しそうに部屋から出ていく。これから寝るだけなので侍女も部屋から出ていき、これで完全に一人になった。
今しかないと踏んだ私は早速部屋にあった机のところに行き、紙とペンを用意して、今の自分と思い出した記憶について書き出していった。