言の葉(短編小説)「音のない日常」
音のない日常
そのお店は、静かな住宅街で、ひっそり存在していた。
同じ時間に開店し、音の無い自然の鳥のさえずり、風の言の葉が聞こえるだけの小さな店。
そこに、同じ時間に来店する女の人がいる。
同じ場所に座り、同じものを頼む。
穏やかな顔と声で注文をし、彼女は紅茶を、ゆっくりと口に含む。
まるで時が止まるように……。
それが、彼女とお店の日課なのである
彼女は、必ず同じ席に座る。窓際のドアに近い場所。
いつしか、そこは彼女の指定席になっているのでは無いかと思うほどだった。
カランカランと音がすると店主はドアを見る
すると、その日は彼女に似た若い女性がいた。
彼女の場所に座り、彼女が頼んでいた紅茶を頼む
紅茶を置くと
若い彼女はカバンから何かを出した
それは、笑顔のいつもの彼女の写真だった
店主は気づいた
あぁ…もう、彼女は来ないと
悲しい気持ちを抑え、若い彼女がレジに来ると店主は、頭を下げた
その日を最後に
音の無い店は開くことは無かった
住宅街の景色は無くなっても何も変わらない
そこに店があったことすら、人は忘れるものかもしれない。
でも、彼女と店の思い出は確かにそこにあった
了